石山 洸 先生(株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長) の講義がオンラインにより行われました
2021. 04.28
- 現代産業論
2021年4月28日、2021年度「現代産業論」第2回の講義として、株式会社エクサウィザーズ 代表取締役社長 石山 洸氏から「AI活用による"Well-Being"の向上 ~アフターコロナ時代のSociety5.0に向けて~」と題して、オンラインによる講義が行われました。
石山氏は文系学部の学生時代、9.11後のアメリカへ行ってみたいとの気持ちから、カーネギーメロン大学の人工知能プログラミングコンテストに応募。2週間でAIのプログラミングを習得してアメリカでの本線まで進まれます。そこでの先生との出会いをきっかけに理転し、進学した大学院ではAIの研究をしながら修士2年間で18本もの論文を執筆したものの、「論文を書いても社会は変わらない。社会に実装したい」と強く実感。さらに「パーソナルコンピュータの父」と呼ばれたアラン・ケイ氏のとなえる"Media Revolution"にも影響を受け、株式会社リクルートへ入社されました。その後、AI研究所「Recruit Institute of Technology」を立ち上げて初代所長を務めるなど、同社のデジタル化推進に大きく貢献されました。
現在は、日本が世界に先駆けて迎える超高齢社会を中心に、AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現することを会社のミッションに掲げ、御活躍されています。
現在は「第四次産業革命」と言われ、AIではメガIT企業が成功しています。しかし、社会的価値への転換ができているとはいえず、AIなどの先端的技術と医療などドメインのサイエンスを組み合わせ、今までなかったテクノロジーの新結合で"Deep Issue"(地球規模の根深い課題)を解こうと挑む時代の潮流を述べられました。
介護分野でのAIによる社会的価値の提供に関しては、ベテランと初心者の介護の基本動作(見る、話す、触れる)の違いをAIで動画解析し、その結果を症状の変化と紐づけることで、「科学的な介護」がわかり、サイエンスになったこと。また、「科学的な介護」に関する研修効果の実証結果をもとに、介護の動画や被介護者の歩行の動画をAIで解析し最適な提案を行うツールの提供や、話すだけで介護記録が作成され業務効率化できるアプリの提供などを通じて、AIを用いて、被介護者と向き合う時間を生み出しながら、スケーラブルに「科学的な介護」を普及する取り組みを御紹介いただきました。さらに、AIの分析で要介護度の悪化が予測されるときに、介入で悪化をどれだけ抑制できたか、「科学的な介護」のインパクトを評価するためにもAIを活用することができ、これらを組み合わせて、「科学的な介護」への先行投資で社会全体の社会保障費の効率化につなげるモデルがつくれないかと、国に対しても介護報酬改定でのAI導入の提案をしており、制度とプロダクトが一体となった社会的価値の変革を目指していると語られました。
ただし、研究者の現場(ドメイン)への関心の薄さや知識の深さに起因する倫理的な問題もあり、AIの活用にはエンドユーザーの声が必要であること。特に介護は、介護者、被介護者、納税者など多主体が関わるため、AIの導入には、多主体が協力することでみんながwin-winになる(社会的受容性が増す)設計が必要で、"Inclusive Innovation"の重要さを説明されました。
次に、新型コロナウィルス対策で成功を収める台湾のIT担当大臣オードリー・タン氏が推進した"Radical Transparency"の政策を紹介されました。これは、国家が市民のデータを可視化するのではなく、市民(有志のコミュニティ)が国家のデータを可視化しコロナの封じ込めに成功したもので、そのために同氏がとなえた3原則(fast、fair、fun)を取り入れた課題解決のための"Audrey Tang Canvas"について教えていただきました。
さらに、「雇用の未来」を発表したオックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授が、人間が身につけるべき「未来のスキル」として、戦略的学習力や心理学を挙げていることを紹介し、心理学が関わる「フィクションをつくる力」の強い人、不可能に見えても極めてビジョナリーなアイデアには、「フィクションをノンフィクションにする力」(戦略的学習力)の強い人が集まり、課題解決が起きる。これらはAIには出来ないことであり、今後みなさんに養っていっていただきたいと学生に向けて熱く語り、講義を締めくくられました。