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横山 利夫 先生(一般社団法人日本自動車工業会 自動運転検討会 主査)の講義が行われました

横山 利夫 先生(一般社団法人日本自動車工業会 自動運転検討会 主査)の講義が行われました

2019. 05.15

  • 現代産業論

 2019年5月15日、2019年度「現代産業論」 第3回の講義として、一般社団法人日本自動車工業会 自動運転検討会 主査 横山 利夫氏から「自動運転技術の実用化に向けた協調(技術)領域の取り組み」と題して講義が行われました。

 1900年代以降、自動車の普及は人々の生活を便利にし、行動範囲を飛躍的に広げるなど、日々の生活になくてはならないものとなっています。現在、世界では年間約9,500万台の新車が売れており、うち日本の国内市場規模は約6%、日本メーカーの世界シェアは28%を占めています。今後の自動車産業には、シェアリングや自動運転など自動車価値の多様化、高齢化・都市化や環境問題など社会課題の深刻化、人工知能やIoTなど産業構造変化によって大変革が起こることが予測されており、自動車関連産業だけでなく、IT業界などの他産業とも競争/連携して取り組むことが更なる技術開発の実現、実用化に向けて必要であるとお話しされました。

 次いで、自動運転技術の歴史と現状についてお話いただきました。自動運転技術の本格的な実験は、米国でのDARPAチャレンジ(2004/05年 砂漠環境、2007年 市街地環境)から始まっていますが、それから10年余りで、レベル3、更にはレベル4(限定領域内における無人自動運転)までが視野に入ってきています。こうした自動運転技術の適用により、交通・物流体系が大きく変化するとともに、新たな移動・物流サービスが生まれる可能性も出てきています。
 一方で、このように自動車産業や社会を一変させる可能性がある自動運転技術の開発に当たっては、自動車業界全体で大きな方向性や見通しを共有しておく必要があります。そこで、各自動車会社が各々、勝手にやるのではなく、協調領域として対応するため、日本自動車工業会(自工会)として「自動運転ビジョン」を定め、発表されました。同ビジョンは、「世界で最も安全、効率的で、自由なモビリティ社会の実現」を考え方の軸としています。
 ビジョン策定にあたり、地域条件や交通環境を考慮した上で現状を認識し、各課題に対して今後に向けた取り組みの方向性を整理し、技術アプローチを設定しています。既に実用化が始まっている運転支援技術を基に、自動運転へと進化させる展開シナリオを描いており、シナリオの要素として、適用場所(高速道路などシンプルな場所から市街地など複雑な場所へ)を縦軸、自動運転の方式(各車の自律型から協調型の環境認識へ)を横軸とし、①自動運転技術の枠組み(運転支援→条件付き自動→完全自動)、②共通基盤技術・連携領域(通信システムや情報セキュリティ、高精度マップ)、③制度・インフラ領域(法的整備や通信インフラ整備)、の3つの側面から今後の進展の方向性を整理されています。

 次に、自動運転技術の更なる開発や社会実装のためには、自動車産業界の枠を超えた技術的協力関係や産官学との連携が不可欠であるとし、自工会の体制と関連組織との連携について説明されました。
 自工会の安全・環境技術委員会の下に、全体戦略を策定する場として2014年から「自動運転検討会」が設けられており、関係省庁、関係業界団体、関係国際機関との連携、調整に当たっています。具体的には、自工会として、政府・業界との関係では、日本経済再生総合事務局の未来投資会議におけるロードマップの策定、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)におけるシステム開発、国交省や警察庁による法整備、総務省による通信方式の検討、経産省と国交省による戦略策定などに連携・協力を行っています。また、日本の業界基準を国際標準・国際ルールへと反映させるため、自工会として、国連のWG(ワーキンググループ)やISO(国際標準化機構)などにも提案・連携を行っていると話されました。なお、国際ルールの策定(例えば、国連WGにおける保安基準改定の検討)は、関係国が多すぎて議論がなかなかまとまらないため、日・米・欧の各国政府や欧州委員会による自動運転に関する安全ガイドライン策定が先行している状況についても触れられました。
 高度自動運転技術の実用化と普及に向けては、自工会において自動運転検討会の傘下で6つのWG活動を行っており、各WGの概要について御説明いただきました。具体的には、自動運転シーン(ユースケース)の共通認識の体系化、人間と自動運転装置との接点の課題(ヒューマンファクター)の整理、国際的な安全性評価手法の確立、記録目的に準じて必要となる各種運転状態データの検討、警察庁との道路交通法の解釈の明確化、国交省自動車局との道路運送車両法の改正に必要となる事項の検討などに取り組まれていると述べられました。

 2020年に開催される東京オリンピック、パラリンピックでは、内閣府SIPと連携した実証実験を羽田空港地域など3ヶ所で計画しており、高精度地図・インフラ等、環境整備に関して各関係省庁と準備を進めています。この実証成果は、今後の実用化に向けての基盤となることが期待されます。
 これからの取り組みとしては、①2020年までに高速道路での自動運転技術(レベル3)の実現、②2020年以降に一般道へ順次拡大、③貨物輸送における高速道隊列走行の実用化、を挙げられました。この取り組みに向け、政府の「制度整備大綱」に基づく制度の具体化に対し、自工会も政府の検討に積極的に貢献していかれると述べられました。

 講師の横山氏は、株式会社本田技術研究所オートモービルセンターの上席研究員も務められており、講義の中では、ホンダで実施された運転技術の開発例や実用化例をビデオで御紹介いただくなど、飛躍的に進化するモビリティの将来について、改めて考えることができる機会となりました。

  • 一般社団法人日本自動車工業会 自動運転検討会 主査 横山利夫氏
  • 講義風景

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