葛巻 清吾 先生(トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニーフェロー)の講義が行われました
2019. 05.29
- 現代産業論
2019年5月29日、2019年度「現代産業論」 第5回の講義として、トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニーフェロー 葛巻 清吾氏から「自動運転開発に向けたトヨタと日本政府の取組み~100年に一度の変革期における競争と協調~」と題して講義が行われました。葛巻氏は内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転 プログラムディレクターも務めており、今回はその立場からの内容も盛り込んで講義いただきました。
現在、自動車をめぐる環境は「100年に一度」とも言われる大変革の時代を迎えつつあり、自動運転技術や電動化、サービス化等が急速に進展している状況にあります。この130年の間に馬車から蒸気自動車、電気自動車、ガソリン自動車へと進化を遂げ、人々の生活や環境は一変、私たちにとって自動車は、なくてはならないものとなりました。
世界屈指の自動車メーカーであるトヨタでは、創業以来、日本の自動車産業の確立を通して社会経済の発展に寄与されてきました。1933年、豊田自動織機製作所内で最初はトラックの開発・製造から入り、その後は乗用車へ移行、1937年にトヨタ自動車工業を設立するに至ります。その後、新型車「カローラ」の開発で一気にモータリゼーションの火が付き、大量生産に結び付きました。この間、かなりの投資が行われ、会社の存続も危ぶまれる時期もあったとのことです。今後は、自動車の製造だけではなく、移動サービスの提供を行う「モビリティカンパニー」を目指していかれると述べられました。
また、安全技術の基本的な考え方として「総合安全コンセプト」を掲げ、自動車に搭載されている個々のシステムを連携することで安全性を高め、パーキングから通常運転、事故の際の救助まで、すべての運転シーンで最適な支援を行うことに取り組まれており、先進の予防安全パッケージである「トヨタセーフティセンス」について、具体的に性能や新しい機能について御紹介いただきました。
近年、技術革新のおかげで自動運転への期待が大きくなっています。特に、ここ数年で、①カメラ等周辺を認識するセンサ性能、②大量のデータを処理するハードウェア処理能力、③AIを中心としたソフトウェア技術の進歩 により、周辺3D認識技術が大きく進歩するとともに、交通事故の削減、高齢者等の移動支援や地方の活性化、さらにはトラック・バスドライバー不足解消、並びに新たな周辺事業への拡大への期待の高まりがあると述べられました。
トヨタでは、自動運転に対して人とクルマが、同じ目的を目指し、ある時は見守り、ある時は助け合う、気持ちが通った仲間の関係を築く「モビリティ・チームメート・コンセプト」という考え方をまとめました。これを実現するためには①運転知能化、②つながる知能化、③人とクルマの協調のための知能化という3つの知能化がキーとなるということで、具体的な取り組みについて御紹介いただきました。
政府は2014年から取り組み始めたSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の一つとして府省連携、産官学連携で高度な自動走行システムの実現を目指しており、葛巻氏は研究開発の責任者(プログラムディレクター)として活躍されています。
プログラムも2期目に入り、「自動走行システム」から「自動運転」へテーマを変え、実用化を意識した取り組みを強化し、世界に先駆けて事業化することなどを目標に掲げています。自動運転を実用化し、普及させていくためには、競争だけでなく産官学連携による協調領域への取り組みが重要であるとの見解を述べられました。
講義を聴講した学生からは、めまぐるしく進化する自動車産業に対して「本当にすごい技術ばかりで驚いた。実現すれば、さらに便利になると思うが、その技術に自分がついていけるか不安」との声も聞かれました。ハイレベルな内容にもかかわらず、豊富な事例を紹介しながら分かり易くお話しいただき、有益かつ貴重な講義となりました。