教員紹介

新津 健一郎

にいつ けんいちろう

新津 健一郎

歴史学 助教

研究分野 中国古代・中世史

現在の研究テーマ

10世紀以前の中国西南部境界地帯(現在の四川・雲南・貴州・広西から北部ベトナム一帯)について、中国王朝との接触を通じてどのような社会・文化的変容が生じたか、ということを研究しています。文献(歴史書・地方志など)に加えて、近年の都市開発や文化財調査を通じて新たに発見・確認された文字資料(石碑など)を活用しています。境界地帯のミクロな歴史から、中国・東アジア、さらにユーラシア規模の歴史を見直すことを課題としています。

1、西南地域からみる中国史

中国西南部には険しい山岳地帯が広がります。その一角は、現在では中国を代表する生物であるパンダの生息地として有名ですが、歴史を振り返ると、中国王朝やその文化は黄河中流域に興り、西南地域は秦・漢時代になって「中国」に組み込まれたことがわかります。しかし、秦・漢時代以前の西南地域には黄河流域とは異なる独特の青銅器文化が営まれていました。では、帝国と在来の社会とはどのように接触し、相互にどのように変化したのでしょうか。文献史料だけでなく、出土文字史料や考古資料も視野に入れて検討を行っています。

2、「周縁」からみる中国と東アジア

信州の「州」とはどういう意味でしょうか。中国で整えられた政治制度や文字文化は国家の周縁部や隣接地域にも影響を及ぼしました。現在の日本で漢字が用いられ、「県」という自治体があることや、「州」という字が地域単位を意味することは、その延長上にある現象です。「1」に挙げた西南地域もまた、統一帝国や漢字文化圏の外縁部に位置しました。そこで、中国という圏域や、中国と制度・文化を共有する広域的歴史世界が生成する中で「周縁」が果たした役割についても検討を進めています。

3、出土資料研究

古くから人の手によって保管され、あるいは書き継がれてきた史料(文献や文書など)を伝世品・伝存資料などと呼びます。その対義語が出土資料または出土文字資料――ある時期に捨てられたり忘れられたりして世の中から姿を消した史料が、ずっと後の時代に何かのきっかけで再発見されたもの――です。紙に書かれたものだけでなく、竹簡や木簡、帛書(布に文字を書いたもの)、石碑なども含まれます。近年の中国史研究では、発掘調査の成果や開発工事の副産物など様々な形で得られた出土資料を用い、従来知られていた史料に基づく歴史像を書き直したり、史料がもつバイアスを明らかにしたりすることが試みられています。そこで、西南地域を中心に、中国の周縁部に残された出土資料についても情報収集や訳注・分析作業を行っています。また、それに関わって歴史地理や古環境にも関心を持っています。

研究から広がる未来と将来の進路

東洋史学の学修研究によって培われる能力として、以下のようなものが挙げられます。まず、史料や文献を読み込み、考察することによって得られる、情報の整理や精査・分析能力。次に、外国語の史料や文献を取り扱うことで涵養される語学能力。中国史を学ぶ場合には、漢字に関するリテラシーも大いに鍛えられることでしょう。さらに、過去の歴史展開を考察することによって養われる、異文化に対する理解力や受容力。なお、歴史学に限りませんが、演習や卒業論文の作成に取り組むことは、表現・発信・対話や計画管理のスキルを身に着けることにもつながります。これらは、職種を問わず活用でき、また市民として生きるうえでも有益な能力といえるでしょう。

主要学術研究業績

○「ベトナム・バクニン省所在陶列侯碑と三国・西晋期の交州社会:三・四世紀の嶺南・北部ベトナム地域社会に関する事例分析」『中国出土資料研究』22、17-44、2018年7月。

〔現在のベトナム北部、ハノイ市の近くで確認された4世紀の漢字碑(現在知られるベトナム領内最古の石碑)を材料に、成立の政治・社会的背景を検討した論文です。〕

○「後漢西南地域における地方行政と地域文化の展開――成都東御街後漢碑にみる郡学と地域社会 」『史学雑誌』128(12)、1-32、2019年12月。

〔四川省成都市で出土した石碑を材料に、後漢時代(とくに1~2世紀)の地方に対する文教政策と、それによる地域社会の変容を明らかにしました。〕

○「益州劉二牧政権からみる漢末州牧の地方統治」『東洋史研究』80(1)、37-68、2021年6月。

〔後漢末期(2世紀末~3世紀)に行われた地方統治の再編策とその実態について、四川地域に焦点を当てて検討した論文です。〕

○「從西南蠻封爵看8世紀雲南地區:以《爨公墓誌》爲綫索」『唐研究』26、209-234、2021年7月。

〔唐代前半期の辺境政策とそれによる地域社会の変化について、3世紀ごろに登場し8世紀に衰退する爨(サン)氏の動向を軸に分析しました。〕

○中野顕正・新津健一郎編『恵林寺歴代住職頂相集』乾徳山恵林寺/公益財団法人禅文化研究所、2022年11月。

〔漢文文献を扱う立場から、寺院所蔵の頂相賛文の共同研究に参加しました。〕

所属学会と学会での活動

所属学会:魏晋南北朝史研究会、史学会、中国社会文化学会、中國出土資料學會、唐代史研究会、東洋史研究会、歴史学研究会、早稲田大学東洋史懇話会

・歴史学研究会 委員(2023.5-)

経歴

山梨県出身。東京大学文学部歴史文化学科(東洋史学専修課程)卒業。同大学院アジア文化研究専攻アジア史専門分野修士課程修了。同博士課程単位取得退学後、課程博士として博士(文学)の学位を取得。この間、ベトナム国家大学ハノイ校ベトナム学・科学発展学院、北京大学歴史学系にて在外研究。

日本学術振興会特別研究員(DC1)、東京女子学院高等学校非常勤講師、麻布高等学校非常勤講師、日本女子大学文学部非常勤講師、日本学術振興会特別研究員(PD〔早稲田大学受入〕)を経て2023年4月から現職。

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