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書物で繙く登山の歴史1 -ヨーロッパ近代登山と日本- (1)

展示風景

はじめに 1.ヨーロッパ近代登山の確立と展開 2.日本を訪れた登山家たち

1.ヨーロッパ近代登山の確立と展開

山を悪魔の棲家として忌避していた中世の時代が終わりを告げ、自然科学の発展や、大航海時代が生み出した「未知の世界」へのあくなき探求心が、やがて近代登山というかたちで結実します。
1786年、地質学者オラス・ベネディクト・ド・ソシュールの指導によるアルプス最高峰モンブラン(4810m)の初登頂が近代登山の始まりとされることからもわかるとおり、登山家の多くは学者でした。コレクションの多くも研究書や踏査の記録が中心となっています。
1867年、アルプス最後の未踏峰であったマッターホルン(4477m)がエドワード・ウィンパーによって登頂されると、やがて登山家(学者)達の目は、未開の地ヒマラヤ、そして日本へと向けられていきます。
展示品の多くには、美しい絵や版画・写真が付され、読む者を魅了します。

An account of the glacieres or ice Alps in Savoy : In two letters, one from an English gentleman to his friend at Geneva; the other from Peter Martel, engineer, to the faid English gentleman

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by Peter Martel 1744年 《小谷コレクション》

氷河に関する最も古い著述であり、アルプス最高峰モンブランが登場するのも本書が最初である。
1744年にサヴォイ氷河を報告した2通の書簡に脚註を付し、銅版地図・図版を加えて一冊の本に仕立てて出版された。著者マーテルについては不詳。
写真は、日本山岳界育ての親、小島烏水の旧蔵本。図版は本書に付されたもので、モンブランに関する記述が見られる。

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図版に見られるモンブランと氷河に関する記述
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(1) 下線部 "1. Le Mont Blanc"、赤い〇印の箇所に「1」とあり、モンブランを示す。
(2) 下線部 "LE COURS DE L'ARVE Contenantle PLAN DES GLACIERES"、「GLACIERES」は「氷河」。

Voyages dans les Alpes

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per Horace-Bénédict de Saussure 1786-1796年 《小谷コレクション》

ソシュールの研究の集大成とも言うべき書。
1774年(グラモン)、1776年(ビューエ)、1778-1780年(グラモン、ヴァルソレ氷河、ロシュ・ミシュル)、1787年(モンブラン)、1788年(コル・デュ・ジュアン峠)、1789年(ビッツォ・ビアンコ、 ツェルマット)、1792年(マッターホルン、テオドゥルホルン)の、計7回の旅と学術的観測について記されている。

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Horace-Bénédict de Saussure (オラス・ベネディクト・ド・ソシュール 1740-1799)
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[写真]出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

スイス出身。ジュネーブ大学の教授。研究分野は、地質学、気象学、植物学、化学、物理学等。シャモニーやツェルマットを起点にアルプス各地で学術的観測を行い、その成果は『Voyages dans les Alpes』(『アルプス山脈の旅』)にまとめられた。
言語学者として有名なフェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure)は曾孫。

Travels through the Alps of Savoy and other parts of the pennine Chain : with observations on the phenomena of Glaciers

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by James D. Forbes 1843年 《小谷コレクション》

フォーブスが、サヴォイ地方のアルプス(シャモニ付近)を旅行した際の旅行記で、本書はその初版。氷河の現象を科学的に分析・著述した最初の書物として名高い。

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James David Forbes (ジェームス・デビッド・フォーブス 1809-1868)
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[写真]出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

スコットランド出身。エジンバラ大学教授、セントアンドルース大学教授、学長を歴任する。研究分野は、物理学、地質学(氷河学)。地震計の発明者としても知られる。
教鞭をとるかたわら、アルプスの初登頂を成功させるなど、科学的登山の祖といわれる。

展示品以外の著作

The pioneers of the Alps

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by C.D. Cunningham and W. de W. Abney 1887年 《小谷コレクション》

近代スポーツ登山の歴史をひもといた書。
14世紀のピラトス登山から稿を起し、遭難事故一覧表、冬期登山やザイル・アイスアックス技術についての解説、約40人のガイドの紹介、ならびに追悼文などを記す。
著者はイギリスの登山史家であるC.D.カニンガム(1856-1896)とW. de W. アブニイ。

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Scrambles amongst the Alps

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by Edward Whymper revised and edited by H. E. G. Tyndale 1936年 《小谷コレクション》

マッターホルン初登頂者として著名な登山家、エドワード・ウィンパー(1840-1911)が、マッターホルン初登頂(1865年7月)とその後に起こった悲惨な遭難事故について記した山岳文学の名著。日本でも、浦松佐美太郎氏の翻訳で『アルプス登攀記』として出版され、早くから愛読されている。

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Karakoram and western Himalaya 1909 : an account of the expedition of H. R. H. Prince Luigi Amedeo of Savoy, Duke of the Abruzzi

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by Filippo de Filippi ;  with a preface by The Duke of the Abruzzi 1912年 《小谷コレクション》

イタリアの学者で探検家でもあるフィリッピ・フィリッポ(1869-1938)が、1902年に参加したK2遠征の報告書。大部の書物であるが、別冊として巨大なバルトロ氷河と長く連なるK2を主峰とした雄大な峰々のパノラマ写真が添えられている。

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The valley of flowers

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by F.S.Smythe 1938年 《小谷コレクション》

英国の著名な登山家である、F.S.スミス(1900-1949)が、250部限定の著者書名入りで出版した書。「丘と丘陵に咲く花を愛する人に」と扉に印刷されているように、ヒマラヤの岩のあい間に、あるいはせまい緑の地帯に咲く可憐な草花についての本である。美しい写真16枚が添えられている。

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16枚の写真
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Atlas of India and High Asia (Results of a scientific mission to India and high Asia)

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by Hermann, Adolphe, and Robert de Schlagintweit 1861-1866年 《小谷コレクション》

シュラーギントワイト三兄弟がプロシア王の後援を得て、1854-1858年にかけておこなった、インド・ヒマラヤ地方の調査記録報告書(4冊)と図版(60枚)は、大型本の型をした箱に納められ、献呈された。
写真は、大型本の型をした献呈箱、および図版の内、インド気候図とエヴェレスト図である。エヴェレスト図の下方には、「未だ測量されていない地球上最高の山」と付記されている。

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エヴェレスト図 「未だ測量されていない地球上最高の山」付記
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"This is the highest mountain of our globe as yet measured"(下線部分)