モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)が、モバイルソリューション、IoT/AIシステムの更なる普及促進を図るべく、2003年以降、開催している「MCPC award」において、山岳科学研究拠点 山岳生態系研究に所属する、渡邉修准教授らの研究グループが情報通信研究機構から委託を受け、2018年度から進めている「信州伊那⾕におけるLPWAセンサーの⾼度活⽤」の取り組みが評価され、『ユーザー部門 特別賞』を受賞しました。誠におめでとうございます。
 そこで今回、渡邉 修 准教授に、この研究に取り組んだ背景や、取り組み状況、そして研究内容等について執筆いただきました。
 

山岳環境におけるLPWAの高度利用

 MCPC Award の受賞に関するHP
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/agriculture/news/2020/12/-mcpc-award-2020.php

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 私は信大農学部出身で、農水省草地試験場、岐阜大学流域研でポスドクを経験したのち、農研機構で植生管理に関する研究業務に従事しました。現在農学系教員を務めています。学生の時は教養部(当時)の土田勝義先生の自然保護ゼミで、白馬岳、美ヶ原、霧ヶ峰、志賀高原などの植生調査を手伝っていました。植物の名前を覚えると登山が楽しくなり、国内の様々な山に登って趣味で山と花の写真を撮っていました。2000年代の始めくらいから楽園だった高山帯の景色が一変します。ニホンジカが高山帯まで上がり、南アルプスのほぼ全域で食害が生じ、マルバダケブキやバイケイソウなどが残存する貧相な植生に変化しました。南アルプスでは林道、藪沢最上流部、仙丈ヶ岳稜線付近でもニホンジカの活動が確認され、2008年から伊那市周辺の自治体、南信森林管理署、長野県、信州大学等で南アルプス食害対策協議会をつくり、シカ柵設置による植生保護と高山植生回復の事業を進めてきました。

 南アルプス食害対策協議会の活動の中で、山麓でのシカ捕獲圧を上げる活動として、南信森林管理署では三峰川上流船形沢での大規模捕獲の実施、さらに地元猟友会ではくくり罠を活用した捕獲が進められてきました。有害鳥獣捕獲のくくり罠を設置すると、罠を定期的に見回る必要があり、狩猟従事者に大きな負担となっていたため、2017年に信州大、(株)新光商事、伊那市有線放送農業協同組合、(株)ソフトバンクと罠センサーの開発チームを作り、伊那市と伊那市猟友会の全面的な協力とNICT(情報通信研究機構)の委託を受け、山地帯の電波環境が悪い場所でも使用可能な罠センサー端末を開発しました。ここで使用している通信システムは920MHz帯のLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれるもので、省電力で長時間端末が運用でき、携帯圏外でも活用できます。端末はリチウムイオン乾電池2本で約1年使用することができ、定期的にセンサーの情報を取得できます。

 このLPWA罠センサーを改良し、山岳地帯の気温を収集するシステムを新たに開発しました。現在、信大西駒ステーション、南アルプス馬の背稜線などに設置し、山岳環境の気温データの収集システムとして2020年から通年運用しています。これまで気温データはロガーの回収が必要でしたが、このシステムを導入するとデータを得ることが難しかった山岳地帯に端末を設置するだけでリアルタイムの気温収集を可能にします。2021年度から松本地域での運用を計画しています。