撮影:株式会社グラフィック

信州大学山地水環境教育研究センター(諏訪)では、前身の理学部付属臨湖実験所の時代から諏訪湖の定期観測を続けています。現在では、山岳科学研究所の大気水環境研究部門と水生生態系研究部門の教員が協力し、その観測と解析を行っています。ここでは、この40年弱の観測から得られた諏訪湖の水質の変遷を紹介します。

諏訪湖の定期観測とは

私たちは、1977年から諏訪湖湖心において、定期観測を行っています。結氷しない3月から12月にかけて、当初は10日に1回、現在では隔週で観測を行っています。現場では、水深、透明度、水温、溶存酸素濃度、光量子密度、pH、電気伝導度など、水質の基本となる観測を行い、水深別に水や生物試料の採取を行っています。持ち帰った水については、懸濁物質濃度や植物プランクトンの指標となるクロロフィルa濃度や、窒素・リンといった栄養塩の分析を行っています。

水質浄化の実感 諏訪湖の夏季透明度の改善

戦後の高度経済成長にともない、生活排水や各種事業所からの排水として、多量の窒素やリンが流れ込み、諏訪湖は急激に富栄養化が進行しました。その結果、かつては夏になると、アオコと呼ばれる植物プランクトンが大量発生し、透明度が50cmにも満たない状況が続いていました。しかし、1998年以降、夏にアオコが発生しなくなり、その透明度は1m以上に保たれています(図1)。透明度は、現場で白い円盤を水中に沈め、その目視の可否から求める単純明快な水質指標ですが、その変遷は諏訪湖の浄化と密接に関連しています。1979年の流域下水道の供用開始にともない、諏訪湖への窒素・リンの負荷が減少し続けていることが、私達の栄養塩分析の結果からも明らかになっています。このように、諏訪湖は数少ない浄化過程にある湖として注目されています。

透明度盤による透明度の観測

図1:諏訪湖の夏季平均透明度の変遷(6月から8月)

新たな問題 湖水の「貧酸素化」

上述のように、水質浄化が進行している諏訪湖ですが、近年、新たな問題が生じています。それは、湖水の「貧酸素化」です。水生生物は水中に溶けている酸素を使い呼吸をしていますので、水中の酸素濃度の低下(貧酸素化)は、水生生物にとって死活問題です。通常、表層水では植物プランクトンが光合成を行っていますので酸素不足は起こりません。しかし、光の届かない底層水では、水生生物の呼吸と、その遺骸の分解により酸素が消費され、酸素が不足しがちになります。夏季に底層水中の溶存酸素濃度が低下し、近年では魚が住めないとされる3mg-O2/L以下の観測値が多く見られるようになってきました(図2)。

溶存酸素計による水深別溶存酸素の測定

図2:諏訪湖の溶存酸素濃度の変遷(水深5.5m)
なお、諏訪湖湖心の水深は約6mである。

貧酸素化の改善に向けて

諏訪湖では湖水の貧酸素化とともに、底生生物である二枚貝も減少し、その生態系への影響が懸念されています。諏訪湖の貧酸素化には、気候変動、水質浄化など、様々な原因が考えられます。私達は、このしくみを明らかにし、諏訪湖の貧酸素化の解消あるいは対処法を提案できるよう、研究を進めて行きます。