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山田 明義 准教授が日本菌学会賞を受賞しました。

 令和2年4月1日付で先鋭領域融合研究群のライジングスター教員にも認定された山岳生態系研究部門長の山田 明義 准教授が、令和2年6月20日付で「日本菌学会賞」を受賞されました。 誠におめでとうございます。社団法人「日本菌学会」は、菌類(かび、きのこ、粘菌等)の基礎研究から産業的な応用技術の分野までをカバーする、菌学分野では国内を代表する学会です。先生の、長きに亘、樹木と共生する菌根性きのこ類の生態解明とその産業的利用に尽力し、貢献されてきた賜物と敬服いたします。
 そこで今回、山田 明義 准教授に、山岳科学研究拠点HPの「スペシャルコンテンツ」へ、先生のこれまでの研究成果とこれからの山岳科学への貢献について書いていただきました。

「菌類生態学と山岳科学研究の接点を目指して」

 私はもともと信州大学の出身で、学生時代は四季を問わず登山やきのこ収集に明け暮れていました。
大学院から本格的な研究活動に入り、樹木と共生する菌根性きのこ類(外生菌根菌)の群集生態学的研究を足掛かりに、きのこの生理生態学的研究を継続してきました。
 研究室のある農学部キャンパスでは、近隣の森に生息するマツタケを題材に、その生態解明と人工栽培技術の開発をこれまで表看板としてきました。マツタケは長らく、マツに「寄生」するきのことされてきましたが、菌根の微細構造やin vitroでの菌根合成実験(無菌のマツ実生にマツタケの培養菌糸体を接種して菌根を形成させる)に基づき、「共生」のカテゴリーに入ることを明らかにしました。マツタケは、宿主樹木の細根から光合成産物(糖)の供給をうける一方、土壌中から吸収した窒素やリンを宿主根に供与しているのです。マツタケと宿主樹木(主にマツ属と栂属)は細胞壁を融合させた特異的な共生体構造(外生菌根)を形成し、それら物質の双方向輸送を成立させています。土壌栄養に乏しい岩山に生えるマツやツガは、マツタケと共生することで初めて生きながらえることが可能になるのです。この研究成果を応用したものが、マツタケの人工栽培研究です。マツ苗の根系でマツタケの菌糸体を増殖させ、両者をワンセットで山に移植し、10-20年後にマツタケの子実体発生を期待する、というものです。
 近年は、このマツタケ研究と同時に、アンズタケ、トリュフ、タマゴタケ、カキシメジなどの菌根性きのこについても研究しています。
 以上の研究成果をもとに、今年、学会賞をいただくことができました。


アカマツ林に発生したマツタケ子実体(豊丘村)

ツガ林に発生したマツタケ子実体(大鹿村)

マツタケのシロ(土壌中の菌糸体)

マツタケのシロに寄生した無葉緑植物のシャクジョウソウ

 

菌根苗の様子

菌根苗の様子菌根苗を野外に移植(松本市)

アンズタケ(茅野市)

黒トリュフ(辰野町)

 「きのこを探しに山に登る」というのが、最近の研究室のもう一つの看板です。北米大陸のロッキー山脈山麓一帯で収穫され、北米市場に出回るアンズタケ属の一種であるCantharellus formosusという食用きのこにきわめて近縁な別種が、日本では火山性の亜高山帯針葉樹林(利尻岳、雌阿寒岳、日光白根山、浅間山、八ヶ岳、乗鞍岳、御嶽山など)に限り見つかっています。 こういった特異な分布の理由(系統地理)を明らかにし、環境変動に対する応答や適応進化についても研究を進めていきたいと考えています。きのこを含む菌類は、実は種の定義や地理分布の把握が難しく、生態学的な研究では精密な解析に至らない場合も少なくありません。一方で、未知の領域が大きく、新種発見は珍しくはありません。したがって、きのこの調査では、見つかるまで何度も探し続けることが必要でもあり、かつ、予想していなかった種が思いがけず見つかることもあり、宝探し的な要素が多分にあると言えます。今年は、マツタケが準絶滅危惧種に指定されましたが、この点を生態学的観点から十分検証するためには、マツタケの生息状況をより詳細に把握し、その動態を注意深く探ることが欠かせません。菌類の生態学に興味のある人にはぜひ仲間に加わってもらい、思う存分山野を駆け巡り研究を発展させてほしいと願っています。


コメツガ林に発生したCantharellus formosusの近縁種(八ヶ岳)

コメツガ林に発生したオオモミタケ(八ヶ岳)

シラビソ林に発生したヤマドリタケ(乗鞍岳)

ハイマツ林に発生したベニバナイグチ(乗鞍岳)

 

ミヤマハンノキの樹下に発生したカノシタ属の一種(燕岳)

ハイマツ樹下に発生したゴヨウイグチ(大天井岳)