飯島 智 先生(伊那市 企画部長) の講義が行われました
2021. 05.19
- 現代産業論
2021年5月19日、2021年度「現代産業論」第4回の講義として、伊那市 企画部長 飯島 智氏から「伊那市版ローカルGovTechによるスーパーエコポリスの実現」と題して講義が行われました。
長野県の南部に位置する伊那市は、南アルプスと中央アルプスに囲まれ、市の中心部には天竜川と三峰川が流れる自然豊かな街ですが、中山間地域では人口減少や少子高齢化、産業の担い手不足など、さまざまな地域課題を抱えています。
こうした課題解決に向け、伊那市では新産業技術を活用した事業を推進しており、市民が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるために先進的な取り組みを行っています。
IoT、AI、RT等のテクノロジーはあくまでもツールとして活用、マンパワーとの融合により、新しいサービスの展開をはかることをポリシーとして農業や林業、交通、医療、教育など9つの分野で新産業技術推進事業を展開しており、買い物や交通、医療等すでにサービス化の始まっている事例を具体的に御紹介いただきました。
中山間地域の住民や買い物弱者の支援、配達人員の不足、道路事情等の問題解決を目的にうまれた「ゆうあいマーケット」は、ドローンを活用した新たな荷物配送システムで、商品の調達から支払い、配達まで一連のサプライチェーンで形成されています。注文は、加入率の高い伊那ケーブルテレビが提供する「ライフサポートチャンネル」を通して、テレビのリモコン操作で手軽にできるため、高齢者でも家に居ながらにして容易に買い物が可能です。テクノロジーに対しては意外にも女性からの支持が高く、悪天候によりドローンが使用できず、人が運んでいくとガッカリされたこと。毎朝ケーブルテレビで放送されるお勧めレシピを参考に買い物ができるなど、新しい取り組みにまつわるお話しも御披露いただきました。
2020年8月に本格運用するまでには、「ドローン・フェスin INA Valley」の開催を通じた企業との連携や、度重なるドローン荷物配送実証事業を行うなど、地道に知見を積み重ねたことが今につながっていると述べられました。こうした自治体運営によるドローン配送事業は国内初の取り組みであり、日本各地から注目を集めています。
また、同じくケーブルテレビの参画により昨年4月からスタートした「ぐるっとタクシー」も、AIを組み込むことで運行の最適化をはかっており、「地方だからこそ大きなニーズがある。観るテレビから使うテレビへのパラダイムシフトをはかり、一層の利用促進やサービスの向上に向け、途絶えてしまった古き良き時代の仕組を新たなツールで再生する『なつかしい未来』を創造していきたい」との思いを述べられました。
数々の先進的な取り組みを行うにあたっては「財源」の問題があります。地方都市にとって財源は厳しいものがあるため、伊那市では地方創生の枠組みを活用。ランニングコストの8割を国から支援していただき、近未来都市への歩みを進めています。
伊那市が考える今後の取り組みとしては、①空の輸送革命(垂直離着陸型大型無人航空機「VTOL」による物資輸送プラットフォーム構想)、②モビリティの機動力を活かした働き方ダイバーシティ(ワーケーション型MaaS「モバイルオフィス」)、③デジタルガバメントの構築(行政型MaaS「モバイル市役所」)を挙げられました。
最終的に目指すところは、「市民の生活を豊かにし、幸福度を上げることであり、そのためには常にアンテナを高く張り、政策はトレンディでなくてはならない。都市圏で働くのもよいが、地方から国を変える志を胸に、伊那市で共に汗して働く人を待っています。今後のみなさんの活躍、成長を祈っています」と述べ、これから社会に踏み出す学生に向けてエールを送られました。
数々の取り組みを御紹介いただくにあたり、実証事業の様子やテレビ番組で取り上げられた際の映像を交えて、大変わかりやすく御講義いただきました。県内の自治体による実施事業を具体的にお話しいただいたことで、地域の現状や課題を身近なものとして捉えることができ、学生にとって大変有意義な講義となりました。