教員紹介

いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

教員 BLOG

一覧を見る
北欧神話

「神話学を学びたいのですが」という御質問について

「神話学」研究の場

水野知昭著『生と死の北欧神話』松柏社, 2002年

令和3年度に開催された信州大学ガイダンスで、人文学部のブースに「神話学を学びたいのですが、可能ですか?」というお尋ねがありました。
ここでは、日本における「神話学」研究の場について先ずは概要を書きます。
次に、信州大学人文学部で「神話学」を学べるか、研究できるかについて、下に書きます。


先ず、結論から先に述べましょう。

日本に於いて、「神話学」全般を研究する研究施設は、現在存在していません。
では、「神話研究」は何処でどのようになされているのでしょうか?

日本語で書かれた神話学の入門書は次の2冊の優れた新書が書かれています:
初学者を読者として想定されているのは当然ですが、かなり専門的に掘り下げた内容を持っています

大林太良著『神話学入門』中公新書, 1966.

吉田敦彦、松村一男共著『神話学とは何か:もう一つの知の世界』有斐閣新書, 1987.

実は、松村先生はそれぞれ独自の『神話学入門』という書物も上梓している他、大林先生は文庫本として改訂されております:

大林太良著『神話学入門』改訂再版 講談社学術文庫, 2019.

松村一男『神話学入門』ちくま学芸文庫, 2019

さらに、大林先生、松村先生の共著の専門的な入門書もあります;

大林太良、松村一男共著『世界の神話をどう読むか』青土社, 1988


松村先生はさらに、上掲『神話学とは何か』で扱った「神話学」の研究史を更に詳しくした『神話学講義』角川書店, 1999も上梓されていて、
そこでは和光大学での研究会、天理大学や大阪大学での「宗教学」講義や筑波大学での集中講義が元になっていることが記されています(pp.262-65)。
ここから見えてくるのは、日本では、個々人の神話研究者が、その研究の一端を様々な大学から招聘されて講義をしている、という現状です。
実のところ、日本ばかりでなく、世界の殆どの国で「神話学」なる学問を専門とする学部や学科は存在していません。

このように、各々の研究者は言語学や文学、人類学や歴史学など、様々な「別の」学問領域の名前を冠する所属組織の中で神話学研究を行っているのが現状なのです。

信州大学人文学部の「神話学」研究:「水野コレクション」所蔵の大学図書館

信州大学人文学部には、かつて水野知昭先生がいらして、北欧神話を中心とした比較神話研究を行っていました。

水野先生は、中世前期に英語で書かれた現存最古の英雄叙事詩『ベーオウルフ』(Beowulf)の研究者でもいらして
中世英語文献/英文学の研究者でもありましたが、その先生が2005年に急逝された後、御遺族のご意向を受けて、先生の蔵書が信州大学図書館に寄贈されました。
その中には、北欧神話を中心とした、ギリシア、ローマ、ケルト、日本などの各神話研究に関連する書物、比較神話学研究にとって重要な文献が数多く含まれています。


また、信州大学人文学部には、サンスクリット語の授業やギリシア語・ラテン語の授業も、
それぞれ「哲学芸術論コース」、「比較言語文化コース」の専任である
護山真也教授と野津寛教授によって毎年開講されています。
神話学の基礎となる外国語の研鑽を積む一歩が踏み出させる、恵まれた環境となっています。

また、本当に偶然ではありますが、水野知昭先生の専門領域と重なる領域を研究する、伊藤尽も英米言語文化コースに所属していて、
現在も北欧神話のテクストの翻訳などを進めています。
さらには、日本語の古文書研究を行う渡辺匡一教授も「日本言語文化コース」 に所属しています。
そのような環境ではありますが、そうは言っても「神話学」を専門として大上段に掲げている教員はおりません。
(上記伊藤は「北欧神話の受容研究」は行っていますが)
それでもやはり、もし入学を果たしたならば、図書館にある資料を利用できるのは確かです。


「神話学」の先生はいなくても、もしもやる気があれば、神話研究を行う資料は、地方国立大学としては珍しいほど豊富に揃っているとは言えるでしょう。


以上が、「信州大学で『神話学』は学べますか?」という質問へのお答にはなろうかと考えます。

トップページ 教員紹介 伊藤 尽 ブログ 「神話学を学びたいのですが」という御質問について

ページの先頭へもどる