教員紹介

はやさか としひろ

早坂 俊廣

哲学・思想論 教授

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中国関係

『幸福な監視国家・中国』

 ここ数年、中国を訪れた際に、とても落ち着かないことがありました。道路を横断しようとしていると、なんと、車が停まってくれるのです。「まさか中国で、道を譲ってもらえるとはね!」と毒づきながら横断した私に、知り合いの中国人が「あれのおかげです」と指さしながら教えてくれました。監視カメラでした。そんな中国社会の急変ぶりが気になっていたため、この『幸福な監視国家・中国』は、書店で迷わず手に取り、一気に読み終えました。

 本書では、監視カメラだけでなく、「信用スコア」という一種の「人間の格付け」システムの発達など、AI・ICTの本格的な社会実装によって、中国各地に「お行儀のいい社会」が出現している様子が詳細に、興味深く紹介されていました。刊行2ヶ月前の新鮮な話題が盛り込まれていたのも驚きでした。ただ、この本の最も注目すべき点は、「だから、中国は・・・」という世間によくある論調に陥らず(ごめんなさい、私もしばしば陥ります…)、「驚くべき中国の監視社会はどこか別世界の現象ではなく、日本が今後直面する問題だ」(p.4)ということを繰り返し問いかけているというところです。しかも、「アーキテクチャ」「ナッジ」「道具的合理性」といった概念を駆使して、表層的な議論にとどまらない根本的な問い直しが行われている点や、「公と私」「天理」「徳」といった伝統中国の社会構造に関わる思想概念まで視野に収めて議論を展開している点は、類書を大きく引き離す本書の長所と言えるでしょう。気鋭の経済学者と精力的に活躍しているジャーナリストによる共同執筆が見事にかみ合った好著だと思いました。

梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』、NHK出版新書、2019年8月、本体850円

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