教員紹介

はやさか としひろ

早坂 俊廣

哲学・思想論 教授

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中国関係

中国はここにある

梁鴻『中国はここにある-貧しき人々のむれ-』
(鈴木将久・河村昌子・杉村安幾子訳、みすず書房、2018年)

近年読んだ本のなかでも、とりわけ衝撃を受けた一冊でした。この本は、梁鴻『中国在梁庄』(江蘇人民出版社、2010年)の日本語訳で、「訳者あとがき」によれば、「これは中国文学の研究者でもある梁鴻氏が、自分の故郷に帰り、故郷の農村の現状を描き出した文学作品で、発表されるや中国で大きな話題となり、二〇一〇年の人民文学賞などを受賞した」とのことです。「故郷」がどこであるのか、明確な記述は見えませんが、これも「訳者あとがき」によれば、「おそらく現在の鄧州市のことだと思われる。鄧州市は河南省西南部、湖北省に近いところにある町で、河南省の中でも中心から離れた地域にある」そうです。

「農民工」という言葉があります。都市へ出稼ぎに出る村落民のことです。2011年に杭州市で在外研究を行った際、この方々の存在が都市のあちこちに見え隠れするのが気になり、このブログで言及したことがありました。この本は、彼らを送り出す側の農村の窮状を描き出した作品だと言えます。特に「第二章 活気あふれる「廃墟」の村」「第三章 子供を救え」は、何とも言えない陰鬱な気分にさせられました。働き手はみな都市へ出稼ぎに出てしまい、村に残っているのは老人と子供ばかり。かつては村を挙げて教育に力を注いでいた気風は一変してしまい、子供たちには無気力と無節制が蔓延し、ついには少年による凄惨な殺人事件まで起きてしまった--こういった農村の荒廃が抑制の効いた筆致で描出されています。もちろん、これをもってすぐさま「共同体の復活を!」と唱えることは憚られますが、「限界集落」などといった言葉が飛び交う日本でも考えてみるべき問題だろうと思いました。最近、中国では「教育立国」という方針が打ち出されてきているようですが、その方針が、「中国はここにある」とされる農村にまで、健全な形で行きわたっていくことを願ってやみません。

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