地域と歩む。須坂市 vol.2 ~"歴史と自然の香るまち" 須坂市と信州大学 ~ 地域コミュニケーション

信州大学広報誌「信大NOW」第83号(2013.9.30発行)より

〝歴史と自然の香るまち


小水力発電モデル事業の新展開

 信州大学と須坂市の連携で取り上げる第二のテーマは小水力発電。須坂市は現在、長野県が取り組む自然エネルギー資源を活用した新事業「1村1自然エネルギープロジェクト」の活用を進めている。
 出発点は平成18年2月に(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)で策定された「地域新エネルギービジョン」。ここで(1)公共施設への太陽光発電の導入、(2)クリーンエネルギー自動車の導入、(3)公共施設への木質バイオマス導入、(4)小水力発電モデル事業の導入―を重点プロジェクトとして打ちだした。
 これを受けて、信州大学工学部の池田敏彦特任教授、飯尾昭一郎准教授が、同市米子地区で小水力発電モデル事業を段階的に発展させ実施してきた。県内外から多くの視察客が訪れ、注目を浴びた取組みである。そして、今年、平成25年を一つ区切りにして、須坂市と信大の連携でこのプロジェクトを新たな段階に進めようとしているのだ。


農村公園に安定的電力提供

信州大学工学部 池田敏彦特任教授と飯尾昭一郎准教授

(写真中央)信州大学 工学部 池田 敏彦 特任教授
信州大学 工学部 環境機能工学科教授、工学博士。長野県信濃町出身。信州大学工学部卒、信州大学大学院工学研究科修了。1971年信州大学工学部助手、1987年助教授、1998年教授、2012年特任教授。専門は流体力学。囲碁、スキー、料理など趣味多彩。
(写真左)信州大学 工学部 飯尾 昭一郎 准教授
信州大学 工学部 環境機能工学科准教授、工学博士。宮崎県出身。宮崎大学工学部卒、宮崎大学大学院工学研究科修了。2004年信州大学工学部助手、2007年助教、2011年准教授。専門は流体工学。

 須坂市と信大が連携して本年度より開始するのは、既設の小水力発電装置(水車発電)4機の内の実証実験用3機を使用し、その発生電力を農業公園の電気設備や非常用電源装置、さらに新設される有害鳥獣用電気柵などに使用する計画だ。
 既設の実証実験用水車とは、平成22年から24年に、信大工学部飯尾准教授が環境省の委託事業として行った地球温暖化対策等技術開発事業(ナノ水力発電ユニットの高性能化等技術の開発)で設置した実証実験用水力発電装置のこと。
 環境省の委託事業は、農業用水など小規模の水資源を活用した小型水力発電技術の向上と、複数の小型発電ユニットを連系させて需要・供給のバランスを調整する「独立型スマートグリッド技術の開発」を目指したものであったため、需給バランスを制御する制御盤や、ヒートポンプなども設置されている。
 この委託事業の施設は、実証実験期間が終わった後は、市に移譲され改修して有効に活用することができ、信州大学も研究に継続使用できるメリットがある。

有害鳥獣用電気柵と拡大

 米子地区には、上記の3つの水車のほかに、平成18年度より長野県のコモンズ支援金(当時)を活用して設置した環境融和型ナノ水力発電装置(米子水車)がある。これも池田特任教授らが牽引したもので、発生する電力を有害鳥獣対策用電気柵に使用している。今回のプロジェクトでは、この米子水車も含めて、より広範囲に電気柵を広げ、高齢化する山間地の農地を有害鳥獣から守ることも目指す。
 池田特任教授は「実効面だけでなく、エネルギー問題への市民の関心喚起のためにも重要だ。長く続く連携の一つの成果だと思う」と語った。

発生電力等の活用案

小水力発電




蔵の町並みキャンパス

蔵の町並みキャンパス事業風景

 先にも触れたように須坂市と信州大学との連携において、伝統的建造物の多い須坂の町並みをキャンパス代わりに使用することをめざした「蔵の町並みキャンパス事業」が果たす役割は大きい。
 実際、5月23日に開催された平成25年度の同事業の推進協議会でも、信州大学からは大石修治工学部長をはじめ、工学部・教育学部・産学官連携推進本部から合計6人の教員が協議会員として参加し、清泉女学院大学や長野工業高等専門学校等県内外の教育関係者、企業・関係団体・市との産学官連携で、この取組みをさらに発展させる方向性を議論してきている。

歴史的建造物の調査研究、保全、活用

土本俊和教授

信州大学 工学部
土本 俊和 教授

梅干野成央助教授

信州大学 工学部
梅干野 成央 助教

 蔵の町並みキャンパス事業が始まった平成18年以前から、信州大学工学部による須坂市内の歴史的建造物の調査研究、保全、活用の取組みは進められて来たが、現在でも、年間を通じて、工学部建築学科の学生が定期的に須坂市を訪ね、〝生きたキャンパス〟として須坂の町を使わせていただいている。
 3年次生を対象に行う「民家の再生」「街区の再生」をテーマにした建築設計製図の研修(学生約60人が週1回)、歴史を活かしたまちづくりの調査研究・設計(学生約10人が週2回)、文化財建造物の調査研究とその利活用計画の提案(学生約10人が週2回)―と、頻繁に須坂の町を訪ね、文化財的建造物である旧上高井郡役所等を拠点にして、熱心に調査研究を進めている。
 工学部の梅干野(ほやの)成央助教は、「町は生きた教材。教室で得た知識や考え方を実体験し、深めることができます。」と話す。

歴史的建造物の調査1

歴史的建造物の調査2

有識者を講師に元気スクール

 同キャンパス事業では、広く須坂市民を対象にした科学的知見と社会的見識を広げるための講演会・レクチャー企画もさかんに取組まれている。「元気スクール」と名付けられたもので、工学部の遠藤守信特別特任教授が提唱した。ご本人も毎年1月の講演会で、須坂市や社会のイノベーションのあり方などについて基調講演を行うほか、12月には、主に若い層に対して仕事と学問の大切さを伝える「クリスマスレクチャー」でオリエンテーションを行い、産業界や教育界の著名人を招いた連続レクチャーの口火を切っている。

元気スクール

レクチャー企画




旧小田切家住宅建物調査


 蔵の町並みキャンパス事業の一環でもあるが、工学部建築学科の調査研究活動は、毎年報告書にまとめられ、須坂市の歴史的建造物の保全と活用に役立てられている。
 平成24年度は、須坂の商工業、特に生糸販売や製糸業の礎を築いた旧小田切家の調査研究を報告書にまとめている。
 屋敷内に建つ建物8棟すべてについて、それぞれの部屋や部分ごとに、広さや構造上・素材上・装飾上などの特徴をまとめ、他の建物との関係や、時に柱などに書き記された文言なども考察しながら、それぞれの建物と歴史性と機能
性等を考察している。
 また関係者からのヒアリングも実施、建物に関する古文書なども詳細に調べてある。  蔵の町並みキャンパス事業は、須坂の歴史的な町並みをキャンパスにして、学生や研究者がそこから学ぶことを目指してスタートしたが、その学びの成果は、歴史的建造物の重要性の考察や、その保全・活用の方向性を考える上で大きな役割を果たしている。市民の建物や町並みに対する関心も高まっていると聞く。このような相乗効果が、同事業の最大の産物であろう。

旧小田切家住宅立面図

旧小田切家住宅

須坂市をフィールドとした、地域活性化に向けた信大との連携強化に期待


連携の経過とこれまでの実績

須坂市長 三木正夫氏

須坂市長 三木 正夫 氏
須坂市出身、中央大学卒業後、長野県職員となる。総務部行政改革推進室長、下伊那地方事務所長を歴任後、2004年1月須坂市長に初当選(現在3期目)。趣味は、スキー、旅行。

 平成16年12月24日、信州大学と当市は資源及び研究成果等の交流を促進し、様々な分野で連携・協力するための協定を締結しました。協定の目的は「産業振興」、「人材育成」、「文化振興」等といった分野で連携し、地域の発展に寄与することです。
 また、最近では平成25年3月27日に「信州大学全学教育機構が開講する授業の連携に関する覚書」を取り交わしました。その主な取り組みは、杉本光公准教授(健康科学教育部門)にコーディネーターとなっていただき、当市で実施されている様々なまちづくりの取り組みを紹介し、地域の課題について考察するというものです。授業を通して、両者が協力して地域の発展と人材育成につながることが期待できます。
 カーボンナノチューブの研究で世界的に著名な遠藤守信特別特任教授は当市の御出身で、当市に設置された遠藤サテライトラボは産業振興面で大きな役割を果たしています。さらに、科学に関する各分野から著名な講師を招き、講義形式で開催されるクリスマスレクチャーでは、遠藤教授が中心となって人材育成にご尽力いただいております。
 文化振興という面での連携として、平成18年度より開始された蔵の町並みキャンパス事業が挙げられます。蔵の町「須坂」をキャンパスにして、工学部、教育学部の教授、学生の研究活動を支援しています。これまでの取組みとして、「民家の再生」、「街区の再生」をテーマとして建築設計製図の課題を実施していただきました。教授や学生の調査研究成果は、当市の政策立案に活かされています。
 さらに、平成24年度には歴史的建造物の調査・研究、保存・活用の取組みとして、旧小田切家住宅についての修理、修復に向けた図面を作成していただきました。須坂市に遺存する歴史的建造物の維持・保存・活用に関する提言をいただき、感謝しております。



Win-Winの関係構築を目指してさらなる連携に期待

 須坂市には、自然、文化・歴史、農産物などの各分野に地域資源が多くあり、学術的な裏付けなどの面で信州大学に協力していただき、さらなる地域資源の掘り起しと付加価値の創出(ブランド化)を図っていきたいと考えています。
 行政ニーズの多様化・複雑化に伴い、「地域貢献度首位(日経2012年調査)」の信州大学の協力を得て、地域活性化につなげることが重要です。須坂市というフィールドを大いに活用し、大学と行政が互いに発展し合えるWin-Winの関係をより強化し、成果がでるように努めてまいります。

ページトップに戻る