ふるさと信州の祭再発見 映像で学び再評価する霜月まつり地域コミュニケーション

映像で学び再評価する霜月まつり

映像で学び再評価する霜月まつり

 「遠山郷」の名で知られる飯田市南信濃・上村地区(旧南信濃村・旧上村)に古くから伝わる祭事=「霜月まつり」(国重要無形民俗文化財)に焦点を当てたフォーラムが2月15日、飯田市松尾公民館で開催された。

 信州大学と日本ケーブルテレビ(以下CATV)連盟信越支部長野県協議会の連携協定に基づく取り組みで、第1回「大災害発生 CATVの情報発信と課題」、第2回「我らがふるさと 信州の火祭り」に続く今回で3回目。過疎と人口減に直面し、いかに継承するかが課題となっている「霜月まつり」について、研究者・宮司・祭りを担う住民・祭りを伝えるCATVスタッフなどが一堂に会し、その魅力・意義・継承方法などについて掘り下げた議論を尽くした。

 会場では、地元の飯田CATVが長期にわたる取材で撮りためたビデオ映像を上映しつつ地域文化の再発見・再評価を図るとともに、そうしたフォーラム自体を番組化し、同協議会加盟のCATV局を通じて長野県全域に発信(3月以降)しようという意欲的な取組み。番組は放送後、Webでも配信する予定だ。

(文・毛賀澤 明宏)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第92号(2015.3.31発行)より


放送された番組(YouTubeでご覧いただけます)


それぞれの立場から、魅力・意義の再発見

 「信州大学の地域研究と、地元の研究者・祭りの担い手・住民の皆さんのご努力、地域の情報をもっとも捉えているCATV局の働きが一体となって、中山間地域の振興の役に立てればうれしい」―司会・コーディネーターを務めた信州大学副学長で地域戦略センター長の笹本正治学術研究院教授(人文科学系)の趣旨説明で幕を開けたフォーラムでは、冒頭、パネリストがそれぞれの立場から「霜月まつり」の魅力・面白さを紹介した。

 飯田市美術博物館の学芸員・櫻井弘人さんは、開催期間が霜月(11月)であること、また夜通し朝まで行われること自体が、「万物の衰勢と蘇りを象徴している」と指摘し、そこで踊られる舞いも、「遠山的な独自性の中に、日本的な共通性、また世界的な普遍性が込められている」と述べ、「霜月まつりのすべてに意味がある」とまとめた。

 それを受けて、祭りを司る地元の正八幡宮の宮司である宇佐美秀臣さんは、宮浄めから始まり、全国の神々をお呼びし、道具をほめたたえる舞い、メインの湯立て神楽、鎮めの儀式、神々を送り出し五穀豊穣と無病息災を祈る「面の舞い」…など40以上のポイントがあることを挙げ、「その一つ一つの伝承内容と意味が面白い。研究の深化が必要」と述べた。

 霜月まつり保存会の事務局を務め、若手後継者のリーダー役である平澤一也さんは、「祭りは最高のストレス発散。小学生のころから参加しており、祭りに参加することは遠山生まれの人の宿命。好きで、好きで、やめられない。それが同時に自分たちの誇りになっている」と話し、会場を沸かせた。
 この平澤さんら若手の祭り参加を長期に渡り取材した経験を持つ飯田CATVの清水千晶さんは、「平澤さんが祭りの一か月前から、しきたりを守り、肉を食べないことを知って驚いた」とエピソードを紹介し、「映像として面白いのは祭り当日の舞いなどだが、それは祭りのほんの一部に過ぎず、祭り全体を丸ごと継承することの難しさ、それに打ち込む地域の若者の真面目さに心打たれる」と取材者としての視点から発言した。

 信州大学地域戦略センター研究員の福島万紀さんは、前任地の島根県中山間地域研究センターで、同地の石見神楽(いわみかぐら)の保存を研究したことを紹介しつつ、「神楽など専門の舞い手が奉納する神事だけでなく、子ども達をはじめ地元の人々が参加する場面の多いことが、祭りが継承されていくポイントになっていると思う」と述べた。

 最後に、地元遠山郷で民宿を営む中井真佐子さんは、櫻井さん・宇佐美さんは子どもの頃から幼なじみ、また笹本副学長は阿南高校時代の恩師であることを紹介しつつ、「昔から、あるのが当然、やるのが当然だった霜月まつりが、こんなにすごいものだったということを、今日、ごく身近な人たちから、はじめて聞いてびっくりしている。霜月まつりのことを勉強し直さなければならないのは、私のような地元の人かもしれない」と感想を述べ、来場者の笑顔と共感を誘った。

 随所に飯田CATVが撮りためたビデオ映像が映し出され、祭りを取り巻く現状をリアルに体感でき、視覚的にもわかりやすい工夫がされた。

CATV連携フォーラム

〝祈りの祭り〟を学び、継承する

 フォーラムの後半は、祭りの保存と継承のための課題抽出と、今後の展望についてのディスカッション。「研究者の減少、祭りの担い手不足の拡大、地域の産業振興との関係などの諸点について、可能な限り掘り下げたい」というコーディネーター・笹本副学長の問題提起に応えて、パネリストから、〝地域の現場〟ならではの発言が次々なされた。

 櫻井さんからは、遠山郷出身の民俗学者である故後藤総一郎明治大学教授が牽引した遠山常民大学や、そこでの霜月まつりの研究や地域産業の創造の取り組みの一端が紹介された。後藤氏の存命当時に比べて、遠山郷に調査に入る研究者・大学ゼミなどは激減しており、櫻井さん自身を含め、地元の研究者による記録の重要性と若手研究者の育成が、祭りの保存・継承のためにも、地域振興のためにも急務であることが指摘された。
 また、宮司の宇佐美さんからは、霜月まつりの会場となる各集落の神社の中でも、宗教法人で祭事に宮司が必要な神社と、すでに宗教法人ではなくなり宮司不在で集落が祭事を行う神社との違いが出ており、宮司の後継者の育成とともに、集落で祭りを行う組織・グループの育成が重要との指摘があった。

 これを受けて、平澤さんから、全体として集落の自治会は高齢化しており、祭り存続のための困難も多くなってきていることから、10~40代を中心に「霜月祭り野郎会」を立ち上げ、保存・継承に取組みを強化されていることも報告された。

 さらに、「祭りの存続のためには地域・集落の存続が不可欠で、そのため必須の地域産業の創出について意見を」との笹本副学長の問題提起があり、「霜月まつり」をはじめ遠山の地域資源を活用した都市農村交流型の観光産業の育成の方法や、それを進める場合に重要になる、広域合併によって生まれた飯田市による旧村部分(旧南信濃村や旧上村など)の地域振興への積極的支援策などについても意見が出された。

 この議論の過程で、霜月まつりの取材を重ねる飯田CATVの清水さんから、「観光客誘致は必要だが、祭り見学の観光客のマナーといった問題も何とかするべき」との苦言も呈された。そして、これを受けて平澤さんから「自分たちにとって、霜月まつりは観光資源ではなく、集落の維持と発展を願う祈りの祭り。それを共に進めてくれる人々を地域内外に増やしていきたい」との発言があり、会場は賛同の意を示す大きな拍手に包まれた。

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司会
笹本 正治 信州大学副学長
地域戦略センター長

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パネリスト
櫻井 弘人
飯田市美術博物館学芸員

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パネリスト
宇佐美 秀臣
正八幡宮宮司

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パネリスト
中井 真佐子
「民宿なかい」女将

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パネリスト
平澤 一也
若手祭り後継者保存会事務局

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パネリスト
清水 千晶
飯田ケーブルテレビ編成部

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パネリスト
福島 万紀
信州大学地域戦略センター

長野県内CATVオールキャストでハイクォリティの番組製作

ハイクォリティの番組製作

 同フォーラムは、そのまま県内のCATV各局が放映する番組として企画進行され、ビデオ収録された。そのため、会場には県内各地からCATV局のディレクターやカメラマンなどの製作スタッフ、また、アナウンサーや運営スタッフなど総勢40人以上の精鋭メンバーが最新機器を持参して集結。県内CATV局の総力を挙げたハイクォリティの番組制作が行われた。もちろん、信州大学広報室も最大限の協力をした。これも、信州大学とCATV長野県協議会との連携フォーラムならではのこと。

ミニ情報 「霜月まつり」とは?

 長野県南部の赤石山脈と伊那山地に挟まれたV字型の谷にある遠山郷(飯田市南信濃地区、同上村地区)に伝わる祭り。旧暦の霜月(現在の12月初旬)に、遠山郷にある13の神社で順次開催される。全国から神々を集め、社会安泰と五穀豊穣を祈って、湯立て神楽を奉納する祭りで、夜通し(場所によっては数日間)行われる。清和天皇の貞観年中(859~876)の宮廷祭事で行われた湯立が、ほぼ原形のままで伝承されているとも言われており、昭和54 年2月に国の重要無形民俗文化財に指定されている。

霜月祭りの湯立 霜月祭り

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