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JASRAC 寄附講座 「知的財産権から見た法学入門」講義概要(第1回~第15回)

JASRAC 寄附講座 「知的財産権から見た法学入門」講義概要(第1回~第15回)

2020. 02.03

  • お知らせ

JASRAC 寄附講座「知的財産権から見た法学入門」を2019年度前期に開講いたしました。
各回の講義概要を以下に掲載いたします。

第1回(4/12)ガイダンス

担当:⽟井克哉 東京大学・信州大学教授


 法のジャンルは主に私法、刑事法、公法の3 つに分かれる。私法(⺠事法)は、ヨーロッパの⽂化に根ざしたもの(カントやマックス・ウェーバーは法学部出⾝)で、これには、⺠法・商法、⺠事訴訟法が含まれる。刑事法は、「⽬には⽬を、⻭には⻭を」といった表現があるように、社会のどこにでもあり、これには、刑法、刑事訴訟法が含まれる。
 公法は、18世紀以降⽣じた、権⼒を法のもとに規律するといった考えに基づくもので、これには、憲法、⾏政法が含まれる。
 知的財産法は、上記3分野における、基本的な発想をミックスして反映した複合分野に分類することが可能であり、⾏政法、⺠法、刑法の3要素を含んでいる。著作権を中⼼に、知的財産法を通じて様々な法分野の基本を学ぶのが、この講義の⽬的である。

第2回(4/19)論文やリポートと著作権法

担当:鈴木雄一 信州大学特任教授


 大学生が論文やリポートを書く際に気をつけなければならないのは、引用の仕方である。論文やリポートの基礎にあるデータや意見のほとんどは、先人の知的成果である。それをすべて典拠として示し、そこに付加した自分のオリジナルな意見と区別する。それが学問の作法である。そして、万一それを間違えると、剽窃のとがめを受け、重大な事態を引き起こすことになりかねない。さらに、場合によっては、著作権侵害となることもある。
 この講義では、法律文献の引用方法を解説した法律編集者懇話会『法律文献等の出典の表示方法』(2014年版)をテキストとして、引用の「作法」について詳細な解説がなされた。

第3・4回(5/17)通信の秘密-海賊版対策とも関連しつつ

担当:宍戸常寿 東京大学教授


 まず、情報通信政策の⽬標として、 出来るだけ多様な情報・データ流通の⾃由化と、情報通信サービスの供給確保ということが挙げられた。次に、情報通信政策の課題としては、以下のようなことが指摘された。
 1. 必要なデータを、担保された質で、作らなければならない→流通する情報・データの質の確保
 2. 保護すべき情報・データを特定する→保護の実現・救済の⽅法
 3. ⾼機能で安全なデータを作らなければならない→供給の負担を社会でどのように配分していくか さらに、憲法上の通信の秘密に関する規定(第21条)や、電気通信事業法上の通信の秘密について詳細な解説がなされるとともに、通信の秘密の制約として、正当行為(刑法35条)、正当防衛(刑法36条)、緊急避難(刑法37条)が挙げられた。
 通信の秘密の現代的課題としては、①インターネット上の匿名表現の⾃由の保障、②違法有害情報対策等について、直接規制ではなく⾃主規制・間接規制への政策誘導、③電気通信事業者のサービス展開において、正当業務⾏為⼜は個別の同意を要求することによる利⽤者の⾃由及び利益の確保、といったことが指摘された。
 最後に、海賊版対策の現状について、出版界の取組と通信業界との連携の試み等が紹介された。

第5・6回(6/7) 国際貿易体制と知的財産権~包括通商協定と⽇本~

担当:⽟井克哉 東京大学・信州大学教授


 日本は、2013年にTPP(環太平洋パートナーシップ)協定締結交渉に参加した。この交渉は、2015年秋の大筋合意を経て、2016年2月、最終的な条項について参加12カ国の署名が行われた。
 しかし、2017年1月、米国政府は、新たに就任したトランプ大統領の方針により、TPPからの離脱を決定し、他の11カ国に通知した。TPPが効力を発生するためには米国の参加が必須だったので、これにより、TPP協定は成立しないこととなった。この事態を受け、日本を含む11カ国は、米国を除いた別の条約としてTPPの内容を生かすことに合意し、ほとんどの条項をそのままにした新たな協定を2018年3月に署名し、2018年12月30日に発効した。これは正式には"CPTPP"と、俗称としては"TPP11"と呼ばれる。
 このTPP協定には知的財産権に関する定めがあり、それによると、著作権の権利存続期間は、作品を著した著作者の死後70年間以上と定められていた。日本の著作権法は、死後50年間と定めていたため、著作権法の改正を迫られることとなった。そこで、日本はTPPを実施するために法律を制定し、それによって著作権法を改正して、著作権の存続期間を著作者の死後70年と定めた。この法律は、CPTPPと同じく2018年12月30日に発効した。
 こうした協定が成立する過程では、その影響をいたずらに惧れる「ホラーストーリー」と呼ぶべきものが見られた。その一例として著作権保護期間延長問題をめぐる議論が紹介された。

第7回(6/14) 著作権法における権利

担当:鈴木雄一 特任教授


 著作権法は、著作者や著作隣接権者に様々な「権利」を設定する法である。この授業では、著作権法上の権利について、民法の物権法と関連させながら解説がなされた。

第8・9回(6/21)芸能人とプロダクション~信頼関係と契約関係~

担当:山縣敦彦 マーベリック法律事務所弁護士


 芸能人としての活動には、芸能プロダクションが深く関わってくる。その基礎は信頼関係であるが、近年それは大きく「法化」しており、契約関係が重要になっている。現在では、芸能プロダクションとタレントとの間で、「マネジメント契約書」「専属所属契約書」を取り交わすのが一般的である。
 トラブルの事例としては、①移籍・独立にまつわるトラブル、②広告出演契約にまつわるトラブルが紹介された。また、専属所属契約は雇用契約か委任契約か、という問題について詳細な解説がなされた。

第10・11回(6/28)不法行為法「ネットワーク上の名誉毀損と法実務」

担当:山縣敦彦 マーベリック法律事務所弁護士


 名誉毀損とは、不特定多数の人に対して、事実と違うことや、社会的評価が低下するようなことを言いふらされることであり、インターネットが存在しない時代には、マスメディアによる名誉毀損が一般的であった(マスメディア型)。しかし、現在では、インターネット、特にSNSの発達により個人による名誉毀損事案が増加している(一般私人型)。
 名誉毀損が成立するための要件について、刑事と民事の場合に分けて解説された。また、名誉毀損とはならない場合の下記3要件(最判昭和41年6月23日民集20・5・1118)が紹介された。
①公共の利害に関する事実にかかること(公共性)
②専ら公益を図る目的であること(公益性)
③摘示された事実が真実であること(真実性)
 さらに、インターネット上で侵害される可能性のある権利・利益について、「プライバシー権」、「肖像権」、「著作権」、「個人情報保護法29条1項に基づく訂正等請求権」、「商標権」、「パブリシティ権」等が紹介された。

第12・13回(7/12)永遠に来ない安定を楽しむしかないと言う生き方

担当:前田たかひろ 作詞家


無職っぽい人
・レコード会社、事務所から、作家事務所にオファーが来る曲に、作詞家が作詞を応募し、(コンペで)選ばれたものが起用されるのが一般的な職のあり方
・著作物使用料(印税)が主な収益源であるため、コンペに選ばれないと一文も収益がなく、若い作家の多くは生活に苦しんでいる
・昼間に犬を散歩させに行くと、近所の人に無職と勘違いされることも
・今書いている(制作途中の)作品が出るのかも、売れるのかもわからないのが普通
・3ヶ月毎に(JASRACやレコード事務所から)分配金が振り込まれるが、その金額は事前にわからないため、自分の年収も把握できない
日々是ギャンブル
・中森明菜さんの詩をどうしても書きたかったため、レコード会社のディレクターに詩を持っていったら、活動復帰後のアルバムで作詞できることになった
・仮歌ができた時点で、CD発売前に新車購入に踏み切ったが、CDへの収録がボツになってしまった
・"CDが出るまで、出費は控える"が教訓になった
・また、CD発売でお金が入るとも限らない、ということに早い段階で気が付けた
・東京パフォーマンスドール(篠原涼子さん所属)に詩を書いたことがきっかけで、小室哲哉さんと知り合い、安室奈美恵さんのChase the Chance (初100万枚セールス)を依頼された

小室さんからの影響
Chase the Chance
 -サビの箇所の"just Chase the chance"は小室さんからの指定
 -"みんな行く道をはみ出しちゃえばいい"を"まっすぐ生きよう"とストレートに表現した方がいい、多くの人が勘違いしないように工夫するべき、とアドバイスされた
Don't wanna cry
 -"殴り合う、殺し合い"という表現について、レコード会社からは指摘されたが、小室さんから直接指摘されなかったため、そのまま残した
 -後日、自殺を考えた視聴者が復帰した、と友人伝いで聞き、見たことも聞いたこともない遠いところの人に(良くも悪くも)影響を与えてしまう音楽の凄さを感じ、責任感が強まった

講義タイトル(永遠に来ない安定を楽しむしかないと言う生き方)について
・印税は死後も発生し続けるが、作詞家というのは、基本不安定
・安定を選ぶのか、不安定で好きなことをやるのかは、性格の問題
・将来が見えないのは不安だろうが、将来が見える不安もある
・生涯賃金が計算できてしまうと言う友人もいる中、自分は年収150万で家を建てたりと、ヒヤヒヤしながら生きて行く方法を選んだ
・父はサラリーマン、母は教師という安定の家庭に生まれたので、予想外な人生の送り方だが、人生に飽きる気になれないし、楽しむしかないと思う
・安定でも不安定でもどちらでも楽しいが、一番大事なのは、辛くなった時に言い訳ができると言うこと

第14・15回(7/19)GAFA規制の新潮流-ライナ・カーンの≪プラットフォーム・商取引≫分離論

担当:安念潤司 中央大学教授


 米国の競争法学者ライナ・カーンの新作論文が紹介された。その骨子は、GAFAのプラットフォーム部分と、それを利用して行う商取引部分を分離すべき、というものであり、米国の反独占、反大企業=権力分立に根差した議論が展開されている。
 GAFAの実態については次のように説明されている。
A Amazon
 もともとはネット小売業者であったが、その後事業を急速に拡大してきた(ネット市場、クラウドサービス、物流ネットワーク、コンテンツ制作、オンライン・ドラッグストア等)。Amazonのonline marketplaceは、全米のネット小売り販売高の52.4%を占める。
B Google
 全米サーチエンジン市場の88%、スマホ検索の95%を占める。収集したデータを利用して、ターゲット広告を販売する。
C Facebook
 アメリカ人の約3分の2が利用し、さらにその4分の3が毎日利用している。主たる収入源は、ネット広告代理店に対する広告「場所」貸しである。アプリ開発事業者と電子出版社に対する関係で、プラットフォームの提供者であるとともに、競争事業者でもある。
D Apple
 典型的な垂直統合型企業であり、ハードウェア、ソフトウェア、サービス、小売りのビジネスモデルを持つ。Androidと同じく、アプリのマーケットプレースを運営し、そこで自社開発のアプリを販売している。

 カーンは、GAFAの実態を踏まえたうえで、プラットフォームと商取引の分離を主張している。過去の分離の事例としては、鉄道事業、銀行業界、電気通信事業が紹介されている。
 また、分離の目的として、①利益相反の防止、②内部補助の防止、③レジリエンスの確保、④多様性の確保、⑤力の過度の集中の防止、⑥行政コストの削減が挙げられている。

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