TOP > topics

JASRAC寄附講座(後期)「アドバンスト著作権法」 講義概要(第1回~第15回)

JASRAC寄附講座(後期)「アドバンスト著作権法」 講義概要(第1回~第15回)

2020. 08.25

  • お知らせ

JASRAC 寄附講座「アドバンスト著作権法」を2019年度後期に開講いたしました。
各回の講義概要を以下に掲載いたします。

第1回(9/27)ガイダンス

担当:鈴木雄一 信州大学特任教授


 この授業では、音楽・小説・絵画・映画といった「人間の創作的表現」を保護する著作権法に焦点を合わせ、現代社会が直面する著作権をめぐる諸問題について理解することを目的とする。授業に際しては、著作権法分野の第一線で活躍中の研究者や実務家を招き、最新の情報を学ぶ予定である。
 授業のなかに質疑や討論の時間を十分に設けることで、積極的な授業参加による知識習得も視野に入れている。

第2回・3回(10/4)著作権の集中管理制度とJASRACの業務

担当:北田暢也 JASRAC常務理事


 JASRAC(日本音楽著作権協会)は、1939(昭和14)年11月に設立され、今年80周年を迎える。会員・信託者数(作詞者、作曲者、音楽出版社)は、18,491者となっている(2019年8月1日現在)。使用料徴収額は1,155億7千万円(2018年度実績)であり、管理作品数は449万曲(国内作品:185万曲、外国作品:264万曲)にのぼる。
 著作権管理事業者であるJASRACに作品の管理を委託する場合、委託者はJASRACと著作権の信託契約を結び、使用料の分配を受けることになる。この信託契約によって、著作者は創作活動に専念できる環境を整えられる。JASRACは、全国各地に支部を置き、きめ細かな著作権管理を行うとともに、違法な音楽利用については毅然と対応し、公平な管理の実現に努めている。また、徴収した著作物使用料は、利用者からの利用曲目データと委託者からの作品届の情報に基づき、四半期ごとに関係権利者へ分配している。

第4回・5回(10/25)AIと著作権法

担当:玉井克哉 東京大学・信州大学教授


AIとは何か?→AI(Artificial Intelligence)=「人工知能」
 発想は昔から存在したが、2010年頃よりブームが巻き起こる。
     ↓
 ・大量情報処理:ヒトゲノム計画(日欧米)、圧倒的な情報処理能力、今までできなかった膨大な量のデータ処理ができるようになった→自動運転など
 ・発想の転換:今まで→ 人間の脳の働きを調べてシミュレートしようとしていた、脳科学的な研究、人間の脳を使わないと難しい(倫理的な問題)。
        現在→ 人間の判断する過程、根拠を調べる。外に出てくる反応がわかればよい。どんなインプットをすると、どんなアウトプットが出てくるか。

知的財産法とは何か?
・AI創造物→伝統的な考え方
・AI創造物の新しい権利→人工知能生成物の「知財」
・人工知能が創った作品の著作権
 例1:自動翻訳
 例2:ポップスの楽曲
 例3:ショートショート(小説)
 例4:コンピュータ・プログラム
・人工知能が創った発明
・法律論:従前の延長線上で考える→似たようなものはないか

「自撮りサル」事件
写真家が持っていたカメラを奪われ、サル自身が勝手に撮った
・人間の創作→著作権あり
・人間が創作した部分がない→著作権なし
・写真家が猿にカメラを渡して撮らせた→写真家に著作権あり
・アメリカでの裁判→地裁:米国著作権法は人間以外の者が著作者になることを認めない
          控訴審:地裁判決を維持→和解

真の問題は何か?
・「創作」するのは誰か→機械の支援を得て創作する人(ピアノ、シンセサイザー、PCなど)
・創作=人がいなければできないこと→著作物:思想・感情の創作的表現
                  発明:自然法則を用いた技術的創作

第6回・7回(11/5)孤児著作物問題と拡大集中許諾制度

担当:鈴木雄一 信州大学特任教授


 権利者の所在が不明な「孤児著作物」については、権利処理を複雑化させ膨大な取引費用を発生させる可能性があるため、著作物の様々な形態での二次利用に際して大きな障害となる可能性がある。この問題を解決するためには、著作物の権利者側が事前に許諾を与えなければ当該著作物を適法に利用することができないというオプト・イン方式から、著作物の権利者側が不同意を表明しなければ、当該著作物を適法に利用することができるというオプト・アウト方式への転換が必要である。
 オプト・アウト方式の具体例が、北欧諸国で採用されている拡大集中許諾制度である。この制度は、多数の権利者からの委託を受けて著作物の利用についての許諾を行っている集中管理団体が、明示的には委託していない権利者(非構成員;いわゆるアウトサイダー)の著作物についても、許諾を行う仕組みである。
 拡大集中許諾制度は、私法の一般法理である事務管理を著作物の利用に応用したものであり、集中管理団体による権利行使の対象が、不明権利者にも拡大され得ると解釈される。また、利用者の側から見ても、事前に不明権利者を探索する負担が不要であり、個別の利用行為に対して行政処分を求めるよりも簡便な手続きが期待できる。

第8回・9回(11/29)ビジネスの観点から、みた知財テーマ22連発

担当:川上量生 株式会社ドワンゴ顧問


テーマ1:著作権の価値を生みだす主体は本当にクリエイターか?
才能のある人はいるが、それが必ずしも価値の創出に結び付くわけではない。何らかのシステムがないとクリエイターの経済的な価値はなく、経済的な価値はクリエイターに属しているわけではない。そのシステムを「業界」と呼ぶ。
テーマ2:コンテンツの"業界"が誕生する基盤はどこか?
①コンテンツの面白さ(面白くないと産業にならない)
②コンテンツの可能性の空間の広さ(一発ギャグで終わるのではだめで、継続して量産していく必要がある。プラットフォームが十分に広い可能性がないと×)
③コストの安さ?(コンシューマーコンテンツになるには、コストが安くないと経済的な価値が出ない)
テーマ3:出版社(パブリッシャー)とはなにか?
出版社は紙媒体のものだけではない。
・コンテンツを生み出しているところと売り出しているところ(販売元)が別になっている場合に、その販売元を出版社という。
 ⇒コンテンツを発掘・プロモーションして販売するというのが出版社。
テーマ4:出版社のメディア力の例にどんなものがあるか?
・所属するタレントをどういうメディアにどれだけ押し込めるか。
・店舗の棚に押し込める力。コンビニに並ぶ雑誌の表紙へ露出できる力。
・プラットフォーマーとの交渉力。
・所属の有力コンテンツとの抱き合わせによるプロモーション。
テーマ5:コンテンツの価格はどう決まるか?
・コンテンツの価格は"相場"で決まる。"相場"とは消費者間の脳内でなんとなく共有されているものである。
・コンテンツは、特定の消費者にとって独占商品としての性格を持つ。
(以下略)

第10回・11回(12/13)データ社会に向けて 日本の個人情報保護法制はどこに向かうべきか ~憲法との接続と権利創設の可能性~

担当:鈴木正朝 新潟大学教授


 今後どのように個人情報保護法が変わっていくかが、本日の授業のテーマである。個人情報保護の一丁目一番地は、漏洩防止であり、適切な安全管理措置を講じよというルール作りである。これは、クルマで言うなら安全に運転しなさいというルールに等しい。
 個人情報保護法とは、利用目的の範囲内で個人情報を取り扱う上で遵守すべき事項を専ら手続き的に(取得・利用・安全管理・第三者提供・開示・消去・苦情処理等を)規律した事業者規制法である。講学上、行政法(各論)、及び情報法に分類されるが、一部には刑法、民法(特別法)に分類される条項もある。
 個人保護法制における将来的展望としては、医療ビッグデータ政策から医療クオリティデータ政策への転換が挙げられよう。前者のねらいは、大量に匿名加工情報を医療分野及び関連分野横断的に収集・分析し、主に相関関係的知見を得ることであるが、後者のねらいは、正確な医療仮名情報化を医療分野内で収集・分析し、主に因果関係的知見を得ることにある。
 医療個人情報は利用目的の範囲内で、個人情報のまま利用するほかない。匿名加工情報など非個人情報化での利活用には限界があるため、仮名化情報が必要となる。

第12回・13回(12/20)マリカー事件

担当:玉井克哉 東京大学・信州大学教授


・マリカー事件の概要
被告「マリカー」がマリオのコスプレをしてゴーカートに乗れるという商売をやっていて、任天堂(原告)が差止め等を求めて訴えたという事案
・判決の内容
 高裁:中間判決で損害賠償の原因はあるとしている→差止めが認められる公算が高い
    +損害賠償の額は終局判決で増える?(任天堂が5000 万円まで請求を拡張)
 著作権の議論は?:マリオ自体は髭のある男性でMと書いてある赤のつなぎなど衣装もありふれていて著作権とは言い難い→裁判所は不正競争防止法で差止めOKとして、著作権の判断を回避
・著作権のあり方
 著作権は弱すぎるのではないか→他人の知的財産権を侵害して儲かるようでは意味がない→侵害を後悔させるような著作権のあり方を求めるべき
 利益の吐き出しをさせる→儲からないならやらない
 周りの人は任天堂が関与していると理解→事故などを起こすとイメージが下がってしまう⇒任天堂としてはそんなビジネスにライセンスを付与するわけはない
 ライセンス料相当額としては、売り上げの15%くらいか必要ではないか(権利者が「これだけもらえれば満足」と思い侵害者が「それでは割に合わない」と思う額)
 これに加えて3倍賠償もあれば侵害は減るだろう
 →法改正の文脈で議論はされているが反対も多い
(特許法では反対が強いが著作権法では状況が違うかも)

第14回・15回(1/10)受講生によるプレゼンテーション

担当:鈴木雄一 信州大学特任教授


Sさんによるプレゼンテーション
テーマ:ドワンゴの川上さんの講演について
・失業をきっかけに起業したという点が興味深かった。
・コンテンツ業界:コンテンツはメディアに付随して発生し、メディアの影響力に左右されるという点に説得力があった。
・コンテンツの単価を上げるための基本原則:露出を絞ることで単価があがるという話について、当初は意外に思ったが、コンテンツの価値が希少性にあると聞き、驚きを覚えた。
・著作権と特許権:著作権をマインドシェアに基づく記号と捉えるのが興味深く、特許権が役に立たない理由としてマインドシェアの独占の困難さや他の手段での実現可能性にあるという説明に説得力があった。
・会社経営:その都度ベストな選択をすることが重要との話につき、そのタイミングの見極めが難しいと感じた。また、「儲かっている時こそお金を使う」という点に関しては、自分としてはお金を貯められるときに貯めるのがいいというイメージを持っていたが、それと正反対なことをおっしゃっていて驚いた。さらに、経済的なコストからすればマイナスに思えても、消費者のためにイベントをすることが長期的にはプラスになることがあり、長期的な観点から経営がなされていることに感銘を受けた。

Uさんによるプレゼンテーション
テーマ:孤児著作物への対策
・日本の制度:裁定制度を採用。裁定制度とは、権利者を探す努力を尽くして見つからない著作物の場合、文化庁の審査を経て、権利者の許諾の代わりに文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払えば利用できるというもの。現在は、すでに裁定を受けている著作物については、権利者捜索の要件が緩和されている。このように、徐々に利用しやすくはなっているものの、裁定制度は十分に利用されていない。
・拡大集中許諾制度:著作権の保護期間が70 年になり、孤児著作物が増えることが予想され、孤児著作物が生じないような工夫が必要となる。また、今後の方策として、拡大集中許諾制度が検討するに値するのではないか。これは、集中管理団体が孤児著作物の利用申請に対して許諾する制度で、裁定制度と比べて、利用者は容易かつ直ちに著作物を利用できるというものである。

pagetop