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井上 宏司 先生(経済産業省 製造産業局長)の講義が行われました

井上 宏司 先生(経済産業省 製造産業局長)の講義が行われました

2019. 04.17

  • 現代産業論

 2019年4月17日、2019年度「現代産業論」 第1回の講義として、経済産業省 製造産業局長 井上 宏司氏から「自動車社会の未来」と題して講義が行われました。

 第二次世界大戦後、急速なモータリゼーションの進展により、自動車は移動の自由や経済成長等の恩恵を世界中にもたらし、世界における経済成長に欠かせない存在となりました。21世紀になると更に自動車を巡る技術革新の波が到来し、モビリティ大変革の時代が押し寄せています。その中において、日系自動車メーカーは海外で約2000万台、国内で約1000万台を生産し、日本の自動車産業は、我が国製造業の製品出荷額の約2割、関連業界を含めて雇用の約1割を占めるなど、経済・雇用面で幅広い波及効果を有する経済の牽引役であると御説明されました。各自動車メーカーの部品や付属品を製造している長野県も圧倒的に自動車関連の出荷額は高く、それに伴い大きな雇用も生み出しています。日本の輸出総額の2割を自動車関連が占めるなど、日本の輸出を支えており、日本経済全体に大きな影響を与えています。また、生産面だけでなく利用面でも、自動車は、特に長野県を含む地方において、一家に2台、1人に1台など、日常生活に欠かせない足となっています。

 次に、自動車産業を巡る情勢の変化についてお話しされました。「進む」「止まる」「曲がる」のシンプルな原理で構成される自動車の構造は、複雑かつ高度な技術の集合体ですが、近年の電動化や自動走行技術などの発展により、自動車の未来を大きく変える「新時代の到来」は世界の自動車産業構造を大きく変革すると言われています。この環境変化が「CASE」と呼ばれるものであり、「C:Connectivity(つながる化)」、「A:Autonomous(自動運転)」、「S:Shared & Service(所有から利用へのシフト)」、「E:Electric(電動化)」を挙げられました。日本が引き続き、世界のイノベーションをリードするには、CASEの潮流を恩恵拡大と問題解決のチャンスと捉え、積極的に対応していく必要性を語られました。

 「E:電動化」にちなんだ取り組みとしては、EV(純粋に電気だけで動く自動車)だけでなく、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を含めたxEV(電動車)を普及させていくべきと話し、多様な電動技術は環境対策の面でもコスト面でも世界各地域に貢献していける可能性が大きく、雇用面でも期待できるとお話しいただきました。当面はエンジン車との併存を続けながら電動化による新しい需要の創出に向け、様々な戦略を打つべきであるとの認識を示されました。

 「A:自動運転」の実現に向けては、世界に先駆けた社会実装により研究成果を応用・展開していくこと、そのためには、①技術開発、②実証を通した制度整備、③社会実装を担う担い手事業者の発掘、④社会受容性向上(国民の自動走行に対する理解度向上)を同時並行的に進めることが不可欠であると、実現に必要な取り組みを挙げられました。日本の移動実態は地域ごとに多様で、抱える移動課題も多岐に渡っており、一部の大都市や中規模都市の中心部は公共交通が発達していますが、その他の地域では自家用車に大きく頼る構造にあります。自家用車交通分担率(通勤・通学時の利用交通手段の分担率)が6割の松本市も、バスや路線の維持・確保が難しく、高齢者の移動手段確保も困難な状況で課題が多いとした上で、例えば相乗り等により移動以外の需要(病院送迎や買い物支援など)を取り込むことで、事業性が向上し、地域の移動サービスの高度化と経済活性化の好循環を生み出せる可能性があると述べ、さまざまな地域で実施されている新しいサービスの事例を御紹介いただきました。

 今後の政策の方向性として、電動車の普及には課題がたくさんあるが、蓄電技術の向上(2030年頃までに電池コストを3分の1に下げ、蓄電能力を3倍に向上させる目標)や、充電・水素ステーション等の設備の拡充がカギになるとし、ガソリン車と同程度のコスト感覚が目標であること、また、自動運転に合わせた法律改正等の制度見直しや、各地における実証実験プロジェクトが行われていることなど、自動車新時代に向けた柔軟な対応や取り組みについてもお話しいただきました。
また、「電動」「自動」「垂直離着陸」をイメージとする「空飛ぶクルマ」についても、政府により実用化を目指したロードマップが策定されたことも御紹介いただきました。

 私達の重要な生活の足であり、日常生活に欠かせない自動車には、より一層の発展と国内外の社会課題の解決が期待されます。政府担当部署の幹部によるハイレベルな内容でありながら、事例を豊富に御紹介いただき、大変わかりやすい講義となりました。

  • 経済産業省 製造産業局長 井上宏司氏
  • 講義風景

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