教員紹介

もりやま しんや

護山 真也

哲学・芸術論 教授

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石川県哲学見学旅行

西田幾多郎記念哲学館

11月8日,秋晴れの土曜日,哲学・芸術論コースの学生有志4名(2年生)と大学院生3名とで石川県かほく市にある西田幾多郎記念哲学館を見学しました。哲学領域の学生たちの一部は読書会で西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」の論考を読んでいたようで,その哲学を知るための貴重な経験となりました。また,大学院生には中国からの留学生,交換留学生もいて,日本で唯一の哲学の博物館を楽しんでいました。

最初の展示室には「哲学への誘い」として,「十牛図」が描かれた円窓から井戸を眺めつつ,見る私と見られるものとの関係が問い直されます。
次の展示室からは西田幾多郎の生涯とその著作,原稿などを見ることができます。原稿に細かく訂正を入れ,表現に工夫を重ねている様子が分かります。難解とされる西田の哲学ですが,その原稿を見ると,一行一行,丁寧に読みとくことで,その核心にたどりつけるのだろうという気がしてきます。
この哲学館は建築家・安藤忠雄の設計になるもので,自分たちが今どこにいるのか,どこに向かっていくのか,方向感覚を失わせるような仕掛けが随所にされています。行き止まりの壁の向こうに,突如として四面を壁に囲まれた「空の庭」が現れる体験。井の中の蛙になり,ただ空の青さを知る体験。かなり刺激的でした。
学生たちは図書館で自分の好きな哲学のジャンルの棚のまえで熱心に本を探していました。
最後は,地下から天井まで吹き抜けの構造になっているホワイエ。係の方から,その中心部では音響が特別になると聞いて,皆で,真ん中に立ち,特殊ならせん構造が生み出す音の反響の不思議に驚いたのでした。

鈴木大拙館

次に私たちが向かったのは金沢市にある鈴木大拙館。西田幾多郎の盟友であり,世界に禅(Zen)を知らしめた希代の仏教学者です。こちらの方は多くの海外からの観光客の人が来訪していました。西田幾多郎記念哲学館の入館チケットで無料で入ることができます。建築家・谷口吉生による設計で,建物全体がただ静寂のなかにあります。
鈴木大拙の紹介というより,彼が伝えた禅の思想,とりわけ芸術と深く結びついた仏教思想が建築空間の隅々にまでいきわたっていることが感じられます。
水鏡の庭では,静かな水にときどき一滴の音がして,静かに波紋が広がっていきます。その様子を眺めながら,思索するための空間が作られています。中国からの留学生は坐禅していました。また,それぞれに自己を見つめる時間にもなったようです。

感想と謝辞

西田幾多郎の書物を読んでいたが、どのように生活をしどのような人生を歩んだ人であるかについてはあまり知らなかったため、生涯について知ることができ、また手紙などの資料を実際に見ることができてよかった。鈴木大拙館では、俳句や短歌の展示、水を張った思索空間や日本の庭園が印象に残った。暮らしと美と哲学がつながっているような状態を味わうことができ、刺激になった。(哲学・2年生)

自分では行かないような場所に行けて、大きな学びになりました。普段はあまりかかわる機会のない、大学院生の方々ともお話できて、とても有意義な時間が過ごせました。西田が、鈴木大拙から、「誠実な人」だと評された話を聞いて、最初は、そうなんだ、くらいに思っていましたが、西田や考えることや言葉にすることや、勉強することを続けた、ということなどを踏まえると、鈴木大拙が西田のことを「誠実な人だ」と評した理由も見えてきて、面白かったです。鈴木大拙館では、水面の模様や木々の様子が移りゆく中で思いにふけることができて、改めて思索の時間を大事にしたいなと思いました。(哲学・2年生)

鈴木大拙館の「学習空間」の壁に、鈴木先生が『東洋的な見方』の中で述べている一節が掲示されていました。そこには、現代の科学の世界では、人々は分析という方法を用いて自然界を征服しようとしがちだが、しばしば自然そのものと人間の心との相互の交わりを忘れてしまう、というような内容が書かれていました。 その言葉を読んでから隣の「水鏡の庭」に入ると、装置によって絶えず水紋が生み出される水面を眺めながら、ふと気づいたことがありました。自分はこれまで、水面に生じる波紋が揺らぎから静けさへと移っていく様子ばかりを好んで見つめていて、水面そのものの広がりをずっと見落としていたのではないか、ということです。それはまるで心のあり方にも似ています。私たちは、さまざまな感情という「波紋」に目を奪われながら生きており、心そのものの姿をしばしば忘れてしまいます。感情は水面の波紋のように、いつかは静まっていくでしょう。しかし、それだけが心のすべてなのでしょうか……今回の体験を通して、私はそのような問いと気づきを得ました。(哲学・大学院修士課程1年生)

参加者それぞれがこれから哲学を学んでいくための新たな動機づけを得られる貴重な機会となりました。今回,ご支援いただいた信州大学人文学部同窓会に心より感謝申し上げます。

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