教員紹介

いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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第28回日本中世英語英文学会

広島大学で、10年ぶりの開催

広島大学の学生用カフェ

つい先頃(といっても、2008年だから、もう4年も前になる)、日本英文学会で大きな大会が あった広島大学東広島キャンパス。 その時も入って気に入った学生用のカフェで、会議の集合時間まで、ゼミの学生の卒論草稿を見ておりました。 マロンのデニッシュケーキと珈琲で510円だけれど、珈琲が淹れ立てで、おかわり自由というのがいいですね。

初日の研究発表

堀さんの奨励賞受賞の模様

今回の学会は、大会準備委員として、裏方の作業をしておりました。 それでも、会場係として、研究発表に耳を傾けることができます。 (本当は掟破りの、会場係なのに質問までしてしまいました) 一日目は慶應義塾の大学院の堀美里さん、佐賀大学名誉教授の上利正彦先生の発表が続けて行われました。堀さんは、開会式で、同志社大学の小宮先生と並んで、今回の研究発表に奨励賞という栄えある栄誉を得たばかり。このように若くてチャレンジ精神に富んだ発表への奨励があることは、今後の日本中世英語英文学研究にとっても明るい未来を感じさせます。 さて、お二人の研究発表を連続して聞くことで、古英語Beowulf、中英語Sir Gawain and the Green Knightから現代英語のミルトンやスペンサーに至る、manもしくは「人・男」を表す語彙の変遷・継承についての概観ができるという寸法。 こんな偶然があるか、というくらい、絶妙の組み合わせでした(なんて、準備委員会の自画自賛?!)。 特に、堀さんと上利先生との年齢差は親子以上の差がありますが、同じ研究者として、対等に議論ができるところが、この中世英語英文学会のよいところです。 さらに、広島女学院大学の米倉綽先生の「ウィクリフ派の英訳聖書」の同義語並列表現、たとえば、greet, or salute などのような言い換えのパターンを扱っていらして、仏語・羅語系の新しい単語が、いかにしてラテン語聖書からの翻訳に入ってきたのか、という経緯がうかがえて、誠に興味深い研究でした。 東大の寺澤先生ともいろいろとお話しができたのもよかったですが、ちょうど、David Crystal のBegotの翻訳が出たばかりだったので、その本が寺澤先生との話題にも出たところでした。その直後の米倉先生のご発表だったので、聖書翻訳の通史的な見方も得ることができました。 もう一つの部屋での研究発表は聞くことができなくて残念でしたが、特に杏林大学の高木眞佐子先生の中英語散文Brutの写本とChronicles of England (1480)の比較は、多くの聴衆から賛辞を得たということです。

二日目のシンポジウム

A Foreign Country in Great Britain: INventing the Scottish Middle Ages

二日目は、研究発表の部屋ではなく、シンポジウムの部屋の会場係となったため、 たとえば、『ランベス詩編』の古英語行間注釈、『アングロ・サクソン年代記』における古英語の受動構文分析、あるいはEarly Middle EnglishのAncrene Wisseから、 be about to 構文の起源に関する研究(最後のこれは、ちょうど今、信州大学大学院修士課程で修論執筆中のK君の研究に関係がある)などを聞けず、さらに、マロリー、『パストン家書簡集』、チョーサーの研究も聞けませんでした。残念 でも、シンポジウムでは、グラスゴー大学のGraham Caie先生をレスポンデントに、通常の中世英語英文学とは異なり、18世紀英文学者である原田範行先生(東京女子大)を迎え、さらに慶應の高橋勇先生(彼とはつい最近まで映画の仕事をご一緒しています)、そして僕の恩師の高宮利行慶應義塾大学名誉教授がパネリストとなり、オクスフォードで博士号を取得したばかりの張替涼子さんを司会&パネリストとして、スコットランドを、当のスコットランド人が如何に描いてきたか、という認識論に近い議論になりました。 当然、イングランドではどのように理解してきたか、ということも視野に入れ、かなり興味深い話になりました。僕としては、北欧人のブリテン諸島への移住がどのようにスコットランドの形成に関わったかも、当然関心がありますし、その点について、本当はCaie先生とお話ししたかったところ。 今回は時間切れとなってしまいましたが、今後、この分野における日英の研究者の交流も活発になるのではないかと思われました。

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