はやさか としひろ
早坂 俊廣
哲学・芸術論 教授
教員 BLOG
一覧を見る2025陽明心学大会
”中日聯合王陽明遺迹考察”四十年回望
毎年10月31日に浙江省紹興市で開催される陽明心学大会に参加してきました。私は今回、この日の午後に研究発表を行っただけでなく、11月1日午前に開かれた「”中日聯合王陽明遺迹考察”四十年回望」という催しでも発言するよう依頼されていました。「四十年」というのは、九州大学におられた岡田武彦先生が、浙江省社会科学院に王陽明関連の遺跡調査を申し出られた1985年から起算した年数とのことです。その時、私は広島大学の学部2年生で、もちろん、そのような活動は全く存じ上げませんでした。1996年9月から浙江省の杭州大学で在外研究を行う機会を得ましたが、その年の11月、浙江省餘姚市の瑞雲楼(王陽明の生誕地)の修復記念行事に出席された岡田武彦先生に始めてお会いすることができました。当時、岡田先生は90歳でしたが、「この後、貴州に行く」とおっしゃっていて、心底驚いた記憶があります。
そのような岡田先生とのご縁を作ってくださったのが、浙江省社会科学院の銭明先生(現在は浙江省稽山陽明学研究院副院長)でした。信州大学に移ってからも、中国で現地調査を行うたびに、銭明先生にはお世話になりました。今回の催しでは、福岡女学院大学名誉教授の難波征男先生が岡田先生との思い出を語られ、私はここ20年ほどの陽明学遺跡考察(浙江省、江西省、安徽省、江蘇省)について話をさせてもらいました。話し終わって頭が真っ白な状態の時に、現地のメディアの方から取材を受け、ぐだぐだのインタビューとなってしまいました。特に「知行合一」の発音を間違えたことがすごく気になっていましたが、放送(上のリンク)を確認すると、正しくなっていました。たぶんAIさんが直してくださったのだと思います。恥を忍んでリンクを貼っておきますが、いつリンクが切れるか分からないので、臆面もなくスクショ画面も載せておきます。
周汝登の故郷
大会終了後、紹興市に属する嵊州市と嘉興市に属する平湖市に立ち寄り、思想家関連の遺跡を調査することができました。車を貸してくださった銭明先生と、運転してくださった申緒璐先生には、心より感謝申し上げます。特に、嵊州市は、陽明后学の周汝登の故郷ですので、とても貴重な機会となりました。嵊州市には20年ほど前に立ち寄ったことはあるのですが、その時は「鹿山」を見ただけで帰りました(帰らざるを得ませんでした)。今回は、明代ごろの城壁と鹿山との位置関係を現地で確認することができました。上に記した発言やインタビューで「現地を実際に訪れると、文献の読み方が深まってくる」と話したのですが、そのことを改めて体感することができました。「剡中會語」という周汝登の思想資料に、「惠安僧寺」で講会を行ったことが記されていますが、その寺は今も立派に残っていて、お坊さんたちの読経の声が響いていました。
最後に附言しておきますと、インタビューの際、何を話せばよいのか分からずとまどっていた私に対し、インタビュアーが「それが、あなたの知行合一ですね」と言ってきたので(しかも間違った発音で)、それにつられて思わず私も「知行合一」と(しかも間違った発音で)口にしてしまいましたが、王陽明の「知行合一」は「文献を読むのが『知』、現地に行くのが『行』で、その両方をやったら『合一』」という意味ではありませんので、ご注意ください。孔子の言葉「駟も舌に及ばず」(一度口にしたことは、四頭立ての馬車でおいかけても追いつけない)とはこのことだと肝に銘じたいと思います。