教員紹介

はやさか としひろ

早坂 俊廣

哲学・芸術論 教授

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中国関係

一句頂一万句

厦門大学

9月に、「中国で最も美しい大学キャンパス」と言われる厦門大学を訪れる機会がありました。前にブログで記したように、江西省調査の帰りです。個人的には、20年ぶりの厦門でした。当時、杭州で在外研究を行っていたのですが、同じ外国人宿舎に住んでおられた現代中国学の大家の先生が、講演に呼ばれて訪れたとかで「いやー、厦門は天国だったよ!」とおっしゃっいました。杭州の陰鬱な曇天に嫌気がさしていた時分でしたので、さっそく家族旅行で厦門・泉州を廻ることにしましたが、お言葉の通り「天国」だと感じた記憶があります。その厦門を久しぶりに訪れてみて、そのあまりの心地よさに思わず「こんなところにいたら、絶対、研究する気が無くなるよね!」という言葉が口をついて出て来ました(厦門大学の皆様、大変失礼致しました)。

曉風書屋

最終日午前、空港に行くまでの時間に散策を楽しみました。ガイド役の厦門大学の院生さん(同行してくれた中国人研究者Sさんの授業をかつて受けたことがあるという縁で、わざわざ案内してくれました)が、大学横の本屋にも連れて行ってくれましたが、なんとそこは、サバティカルで杭州にいた時に毎週のように通っていた「曉風書屋」の支店でした。嬉しくなって店を覗いていたところ、Sさんが一冊の本を購入し、私にプレゼントしてくれました。彼は河南省新郷市の出身なのですが、地元が舞台になっている小説とのことでした。

中国語版『一句頂一万句』

帰国後すぐに読み始めたのですが、ふだん読んでいる論文の中国語とは異なるため、すぐに難渋しました。何か参考になるものが見つかればという軽い気持ちでネット検索したところ、なんと、その日本語訳が本当につい最近刊行されたことを発見しました(本を贈られた日と奥付の刊行年月日とが2週間ほどしか違いませんでした)。これも何かの縁だと思い、日本語訳を取り寄せ、そちらを読むことにいたしました。ただ、日本語訳とはいえ全部で580頁ほどある長編であったため、12月になってやっと読後感を記せるようになったという次第です(この間、朝日新聞の書評でこの本が紹介されていて、驚きました)。作者は劉震雲という方で、ネットで調べたところでは、この作品以外にも何冊か日本語訳が出ているそうです。しかも、訳者のお一人に、上に述べた大家の先生のお名前を見つけ、不思議なご縁に一人しみじみと感じ入りました。

水野衛子訳 彩流社

「どういう話だったの?」と聞かれると説明に窮するのですが、掛け値無く面白い小説でした。タイトルの「頂」は動詞で「相当する、匹敵する」という意味ですから、直訳すれば「一句は一万句に匹敵する」となりましょうか。日本語版の帯には「つまりは「ひと言の重み」という意味で、小説中、その「ひと言」が何を示しているのか、探してみてください。」と記されています。ただ、最後まで読んでみて、私は、「一句」に負けてしまう「一万句」のほうが気になりました。どれだけ言葉を費やしてもわかり合えない人とはわかり合えない、そして、真にわかり合える相手は本当に得がたいのだ、というメッセージを、これでもかこれでもかというぐらい並べ立てているのが、この小説であるような印象を受けました。果たして「訳者あとがき」の末尾に「中国の批評家が、この小説は中国人の「千年の孤独」を描いていると評したのも、なるほどと深くうなずきました」と記されているのを読んで、私も深くうなずいたのでした。この小説を読んで、Sさんの故郷を訪れてみたくなりました。

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