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渋谷 豊教授

渋谷 豊教授
人文学科 比較言語文化コース
教授  渋谷 豊

1968年に千葉県で生まれ、東京都中野区で青春を過ごす。早稲田大学第一文学部卒業。1995年から8年間のパリ滞在を経て、2006年10月、信州大学人文学部に着任。パリ第四大学文学博士。
著書にLaRe'ceptiondeRimbaudauJapon.1907--1956, AtelierNationaldeReproductiondesThe`ses.
訳書に、エマニュエル・ボーヴ「ぼくのともだち」、「きみのいもうと」など。

比較文学って聞いたことありますか。聞き慣れない言葉でしょう。

たとえば日本の作家と海外の作家の作品を、それぞれの国の社会や文化の特徴を意識しながら比較したり、そんな感じですか。

そのとおり。ひとつの国の文学っていろんなものと関わっていますよね。国境のむこうには別の文学があるし、国境の内側にも音楽や絵画とか、文学とは別のさまざまなジャンルがある。それらの関わりを研究しようというのが比較文学です。

なぜ比較文学研究を始めたのですか。

もともとはフランス文学を勉強していたんです。そしてパリに留学した。振り返るとね、ルーマニア人やアルジェリア人や、いろんな連中とパリでつきあうんですよ。それが当たり前の風景ね。そこに自分もいた。そこからフランスの文学を考えるとき、「外部」を抜きには出来なくなっていたんです。自然と比較文学に近づいていった。僕はフランス文化と他の文化との関わりが気になったんです。外部との関わりにこそ、僕は間違いなく興味を持っていた。

留学してはっきりと見えたことですね。

まあ、そうですね。で、逆に日本に戻ってくると、今度は日本の文学と他の国々の文学の関わりも気になってくる。そして比較文学の研究者になった。

今、先生がとくに関心をもっていることは何ですか?

日本の近代知識人がたくさんフランスに行っていますよね。金子光晴とか永井荷風とか、藤田嗣治とか。そんな人がフランスでどんな風に暮らしたか、そしてその体験が彼らの作品にどんな影響を与えたか研究しています。
もうひとつはエマニュエル・ボーヴという作家。フランス国籍の作家なんですが、東欧からの移民の子なんですね。フランスで生まれたからフランス人なのですけど、その人の文学って、やっぱり親の文化を背負っているし、もちろん本人のフランスでの辛い経験も影を落とす。ボーヴというのも本名ではないんです。本当はボボヴニコフっていうんですね。その東欧風の名前のせいで第一次大戦中にはスパイと間違えられて投獄されたりする。この人が僕はひたすら好きで、この人の小説の翻訳がいまいちばんやりがいのあること、やってて楽しいことです。

ひとつの国のなかにも、いろいろな経験が混じり合っているということでしょうか。少しずれますけど、同じ国のなかの地域ごとの違いも気になりますよね。同じ国とは思えなかったり…。

そうですね。国というのは国境に囲まれた範囲なのだろうけれど、その国境はたぶん二重にぼかしていけますよね。たとえばフランスとスペインの密接な関係を調べることによって、あるいは国境の内部の一枚岩ではない状態を明らかにすることで、フランス全体を取り囲んでいる国境の確かさというのは薄らいでいく。つまり、その人工性がばれてくる。
いまメリメの『カルメン』を授業でとりあげているんですが、あれって誰もが胸ちぎられる男女の悲劇のようでいて、実はマイノリティどうしの特殊なドラマでもあるんですよね。主人公の男はバスク地方の出身だし、女はジプシー。あれはスペイン人一般の悲劇を描いたフランス文学ではない。何にしろ調べてみるとね、国境はほつれていくんですよ。ところで、あなたは何に興味があるの。

映画や写真です。作品を比べたり、その良し悪しを語ることはするんですが、でもなかなか作家名やタイトルといった固有名が入ってこないですね。

もちろん作品あればこそなんだけど、やはり作家名ぐらい覚えないとね。僕は評伝が好きなんですよ。他に還元し得ないその人の特殊性がどうにも気になって仕方ない。

先生の講座で現代文学を研究することはできますか。

できます。でも、一つの小説を集中的にというのは違うかな。複数のものをつなぐ、境界をまたいでみることが比較文学の立場なので。

つまり、新しくてもよい。

そう。古代ギリシアでも現在でも。時代・地域・ジャンルは問いません。絵本でもだいじょうぶ。

おもしろい研究分野ですよね。比較文学という専攻分野がある大学自体、そんなに多くないと聞いたことがあるのですが、さらに踏み込んで、比較文学を松本、信州で学ぶことの意義や魅力って何でしょうか。

たとえばね、日仏の文化比較をするとなると、日本的なもの、フランス的なものといった単純な話になりがち。日本はもたれ合いの文化で、フランスは自立した個人の文化だとか、面白くないですよね。そうならないためには別の視点、たとえば同じ日本といっても違うな、単純化してはいかんな、といったローカルな視点を支える場所が必要。この意味で松本という街はほどよいかもしれませんね。

国宝のお城があって、カフェや劇場、ギャラリーもあって、バランスがとれている。都会じゃないけど、田舎でもないなあ。密度がありますよね。

そう。でも、それって松本だけじゃないよねえ(笑)。より大切なのはね、信州大学には比較文学の伝統があるということです。北欧神話などの貴重な蔵書もあるし、何よりも自由な雰囲気がありますね。少人数制の教育だから懇切丁寧な指導なんだけど、押しつけではなくて、どんなことにもとことんつき合おうという感じ。学生はいろんな研究が可能です。比較文学の開かれ方はとてつもないですよ。学生のこだわりでいくらでも好きなことが出来るからね。
卒論テーマについても教員から具体的な指示はしません。とにかく最初に熱い感動が欲しいし、切実な探究心が欲しいな。簡単にいうと学生には自分の好きなことに出会って欲しいんですよ。そのために授業や教員をどんどん活用して欲しい。自由で少人数制。少し矛盾しているけど、この人文学部では成り立つんですよ。比較文学はまさしくそう。

学生に何を求めますか。

他人に多くは求めません(笑)。でも本当に好きなことを見つけ出して、それに取り組んで欲しいです。いろんなことにほどほどコメントする力よりも、突っ込んで見たり考えたりする力をつけて欲しいですね。あとは元気で!ってところかな(笑)。

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