天然毒を改変した抗癌剤は蛋白質間相互作用を安定化し翻訳を抑制する ―細胞の新たな飢餓ストレス応答の仕組みを発見―
信州大学学術研究院(農学系)大神田 淳子 教授らは、同 喜井 勲 教授、理化学研究所、大阪大学、米国ベックマン研究所、微生物化学研究所、東京大学との共同研究により、抗癌活性天然物誘導体が翻訳抑制複合体を安定化し、蛋白質合成を抑制して細胞増殖を阻害する作用機序を明らかにしました。
植物病原菌が生産する毒素フシコクシンは癌細胞に対して不活性ですが、そのヒドロキシル基の一部を合成化学的に除去すると、実験動物の腫瘍成長を顕著に抑制するようになります。しかし、なぜ構造を改変した化合物だけが抗癌活性を示すのか、細胞にどのように作用して増殖を阻害するのかなど、詳しい作用機序は分かっていませんでした。
ヒト細胞では、GIGYF2と呼ばれる蛋白質を中心とする複雑な複合体がmRNAの翻訳を適切に抑制していますが、その詳細はまだ分かっていません。今回、研究グループは、この改変化合物がGIGYF2と14-3-3と呼ばれる蛋白質の相互作用を分子糊(molecular glue)のようにして安定化し、翻訳をより強く抑制して癌細胞を殺すことを明らかにしました(図)。さらに、この蛋白質間相互作用は、細胞が栄養不足を感知した際に駆動して翻訳とATPの消費を抑制することがわかり、ヒト細胞における新たな飢餓ストレス応答機構の発見につながりました。
本研究の成果は、菌のバイオ生産で安価に大量入手できるフシコクシンを基盤として、翻訳抑制複合体や細胞の飢餓ストレス応答システムを標的とした創薬戦略への道を拓き、健康寿命の延伸に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年1月20日付で米国化学会オープンアクセス誌「JACS Au」に掲載されました。
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本研究は、日本学術振興会、第一三共生命科学研究振興財団、アステラス病態代謝研究会、上原記念生命科学財団の研究支援を受けて行われました。
【論文タイトル】Diterpene molecular glue stabilizes protein-protein interactions of a disordered phosphoprotein that controls translational repression(ジテルペン系分子糊は翻訳抑制を司るリン酸化天然変性蛋白質の蛋白質間相互作用を安定化する)
著者名:Nanami Ogino, Ryoma Masuda, Shota Igaue, Mei Arita, Ami Matsumura, Yumi Ieda, Makoto Muroi>, Ken Matsumoto, Reiko Nakagawa, Yusuke Higuchi, Hiroyuki Osada, Minoru Yoshida, Isao Kii, and Junko Ohkanda
DOI:10.1021/jacsau.5c01403
URL:https://doi.org/10.1021/jacsau.5c01403
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大神田淳子 信州大学学術研究院(農学系)
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