Instagram
Facebook

個別災害予測を超えたDesign with Nature理論の複合災害パターンの表現可能性

研究

実際の被害エリア(赤点線)と、1)単一ハザードマップ(赤色:急傾斜地崩壊危険区域、黄色:土石流危険区域、黒ドット:地すべり警戒区域)(上)および 2)複合災害リスクのオーバーレイマップ(グレーの濃度が濃いほど土砂災害だけでなく、地震リスク、液状化リスク、洪水リスク等の複数の災害リスクが相対的に高い)(下)との重なりの比較<sub>*5</sub>
実際の被害エリア(赤点線)と、1)単一ハザードマップ(赤色:急傾斜地崩壊危険区域、黄色:土石流危険区域、黒ドット:地すべり警戒区域)(上)および 2)複合災害リスクのオーバーレイマップ(グレーの濃度が濃いほど土砂災害だけでなく、地震リスク、液状化リスク、洪水リスク等の複数の災害リスクが相対的に高い)(下)との重なりの比較*5

信州大学学術研究院(農学系)上原三知教授らの研究グループは、2024年に巨大地震と記録的豪雨による土砂災害を受けた石川県輪島市を対象に、以下の2つの空間情報が複合的な土砂災害をどの程度に予測し、かつ災害後の移転先選定にも参考になる情報を提供可能であるかを定量的・定性的に分析しました。

1) 災害の約10年前(2013年)に国土交通省と石川県が公開した土砂災害関連の単一災害予測マップ
2) アメリカで提案されたDesign with Natureの理論(1969年)*1 とその国土計画への応用に向けて日本で独自に作成された1980年の基礎資料(東北6県用)*2 をデジタル化し、東日本大震災の被害の予測精度が検証された上原オリジナルのデータセット*3 を再構築し、石川県の環境区分における複合災害リスクを評価したオーバーレイマップ*4

その結果、東日本大震災の約10年前に全国一律の物理的基準(斜面角度や過去の土砂崩れの痕跡等)で作成・公開された 1)単一災害予測マップと実際の複合的な被害場所の合致率は極めて低かった。一方、2)のオーバーレイマップでは、被害全エリアで、地すべり、地震、液状化等のリスクの重なりだけではなく、災害後の復興住宅の移転先の複合災害リスクの違いを、その環境区分特性から説明できることを確認しました。

今回の成果は、「複合的な環境区分ごとの相対的な災害リスクの把握と重ね合わせ」が、気候変動時代の"防災減災"や、サーキュラーエコノミーの主要原則である"「住まいや都市までを含めた」資源の維持・長寿命化"の両面で有効である可能性を示唆しています。

本研究成果は、2026年2月2日に、国際学術誌「Journal of Disaster Research」に掲載されました。

【論文タイトル】Comparing a Single-Hazard Map and a Multi-Risk Overlay Map Based on Design with Nature Process
著者名:Misato Uehara, Daiki Shinkai, Tomohiro Ichinose, Juichi Yamazaki, Ryohei Yamashita
DOI:10.20965/jdr.2026.p0164
URL:https://www.fujipress.jp/jdr/dr/dsstr002100010164/


*1 イアン・マクハーグが提唱した、自然の生態系や地形等の区分の特性を多面的に分析し、自然のプロセスに逆らわずに調和した土地利用や都市計画を行うための環境評価と計画理論。環境区分データごとの相対的な価値あるいはリスクの評価ランクを透明な地図の重ね合わせで表現し、開発や保全の最適地を導き出す「オーバーレイ手法」を確立し、現代のGIS(地理情報システム)の基礎を築いた。
*2 国土庁がマクハーグの理論を日本の国土計画に応用するために作成した試験的なA0サイズの紙の環境区分図(東北6県を対象とした1/50万の土壌区分図、地質区分図、植生・土地利用区分図、傾斜区分図)(1980)。国会図書館でもデジタルデータが確認できない。
*3 上記の紙で作られた東北6県の環境区分図(1980)をデジタルマップ化し、災害の相対リスクランクを紐づけた上原のオリジナルデータ。そのデータは東日本大震災において観測された被害と高い空間的整合性を示している。
Misato Uehara et al.(2021) Could the magnitude of the 3/11 disaster have been reduced by ecological planning? A retrospective multi-hazard risk assessment through map overlay, Landscape and Urban Planning 227, 104541
*4 石川県の環境区分データでも上記3の結果と同等の精度が期待できる新たに研究室で作成したデータベースとそれを活用した石川県奥能登地域の複合災害リスク評価マップ
*5 単一ハザードマップでは、3種の災害危険区域(赤色、黄色、黒ドット)と実際の崩れた範囲の重なりがわずかであった(上図)。一方、オーバーレイマップでは、実際に災害が起こった全域の複合リスクが説明できるだけでなく、物理的な単一基準による単一ハザードマップでは災害を予測できなかった海岸沿いの地震の後の豪雨で大きく崩れた被害エリアなどに、土砂災害だけでなく地震リスク(耐震性)、液状化リスクなど複数のリスクが重なる環境条件であることを説明できる(下図)。赤点線のみのポリゴンは災害予測情報がないエリアが崩れた場所である。

« 前の記事へ

お知らせ一覧にもどる

a