植物の表皮細胞に存在する機能未知の小さな葉緑体の存在意義を解明 ―表皮葉緑体は免疫因子を搭載して細胞内を移動し病原菌の侵入阻止に関与する―
信州大学学術研究院(農学系)の入枝泰樹 助教（文部科学省 卓越研究員）と京都大学大学院農学研究科の高野義孝 教授は、植物の表皮に存在する機能未知の小さな葉緑体が、病原糸状菌の攻撃に対して細胞内をダイナミックに表層側へと移動し、防御応答に関与することを発見しました。
病害による世界の農業生産被害の70～80%は糸状菌（カビ・菌類）によって引き起こされています。これら植物病原糸状菌にとっては、植物の表皮細胞内に菌糸を侵入できるかどうかが感染の可否に大きく影響します。そのため、植物の表皮細胞はこれら病原糸状菌の侵入を防ぐ重要なバリアとして機能する最初の砦です。興味深いことに、植物の表皮には、光合成にあまり関与しない小さな葉緑体が存在することが知られていました。しかし、何のために存在しているのか、どのような機能を担っているのかは不明でした。
本研究において表皮葉緑体の役割を調べたところ、①表皮細胞へのカビの攻撃に応答して、②植物の小さな表皮葉緑体が細胞内を移動し表層に出現すること、そして、③表皮葉緑体には複数の免疫因子が特異的に集積しており、各免疫因子および表皮葉緑体の移動がカビの侵入を阻止する抵抗性を強化していることが分かりました（右図）。
一方で、容易に侵入し感染できるカビ、つまり、その植物を宿主とする特定の病原糸状菌に対しては、表皮葉緑体は表層側にあまり移動していないことも明らかになりました。
本研究を基盤に、外敵に対するバリアとして機能する植物表皮の葉緑体機能を増強・制御する技術を開発し、植物の免疫力を高め、病害被害の軽減や生産性の向上につなげたいと考えています。
本研究成果は、2021年5月20日18時（日本時間）にOAの英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。詳しい研究内容については以下をご覧下さい。
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1038/s41467-021-22977-5
Hiroki Irieda (責任著者) and Yoshitaka Takano.
Epidermal chloroplasts are defense-related motile organelles equipped with plant immune components.
Nature Communications. 12: 2739 (2021)
信濃毎日新聞（5月21日）・中日新聞（5月21日）・長野日報（5月21日）・読売新聞（5月28日）・科学新聞（6月4日）に掲載されました。
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