令和6年度「高冷地域先端農業特別演習」を実施しました
1.演習名
「高冷地域先端農業特別演習」
2.演習の目的
小型無人ヘリ(ドローン)は航空法で定められた飛行高度から鮮明な空撮画像を取得し、作物の生育状況や周辺環境の観測に活用できる。リモートセンシングによって、農地を対象にした効率的な生産情報の収集・評価を行うための基本技術を習得する。ここでは高冷地における牧草や野菜の観測を実際に行い、ドローン機材の特徴、撮影方法、画像解析技術を学び、現地調査を行いながら、画像から読み取れる情報の解析と評価を行う。この演習は山岳科学教育プログラムの授業科目でもある。
3.実施日
令和6年8月21日(水)~23日(金)
4.実施場所
農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
野辺山ステーション
5.担当教員
渡邉 修准教授、叶 戎玲助教(信州大学学術研究院農学系)
6.参加人数
22名
7.演習内容の概要
実施場所
標高1,351mに位置する信州大学AFC野辺山ステーション(長野県南佐久郡南牧村野辺山281-3)は、8月の最高気温が30℃を超えることがほとんどなく、年平均気温は旭川と同等で、構内にアメダス観測点がある。南牧村や川上村は国内有数の高冷地野菜の大規模産地である。近年、夏期の気温が高いため、野辺山ステーション内にある気象庁アメダス観測点のデータを入手し、平年値との比較を行った。日平均気温は2~3°高いことが示された(図1)。
演習1.空撮画像によるキャベツ球形サイズの計測
UAV(ドローン)空撮画像を正射投影(オルソ化)すると、PC画面で計測した距離や方向と現実空間が一致する。これを「写真測量」と呼び、UAVが発達する前から、土木分野などで活用されてきた。UAV空撮画像は解像度が非常に高いため、画像から野菜類の葉の形状、大きさなどを非破壊で計測できる。ここではAFC野辺山ステーションの野菜生産圃場を対象に、UAV空撮画像から収穫前のキャベツの球形サイズを計測し、実測値との差を評価する演習を行った。参加者を6班に分けて、各班で30個体のキャベツ直径を計測し、実測値と画像から取得した推定値を比較した。測定値の誤差(RMSE)は約1cm程度であり、高い精度で計測できることが示された。
演習2.ドローン空撮画像によるソバ群落高の推定
ドローン空撮画像は地物を直接観測できることに加え、三次元測量が可能である。 SfM(Structure from Motion)はステレオペア画像を用いた写真測量の発展型であり、多数の視点を持つステレオペア画像から写真の撮影位置と対象物の三次元形状とを自動的に復元し、地物の詳細な三次元形状データを低コストで取得する方法である(溝上2011)。具体的には、カメラの視点を固定し、ドローンを移動させながら多視点画像を取得する。この技術により、空撮画像から三次元復元が可能となり、地物の形状、地物の高さなどの情報が取得できる。一般的に地物の高さ計測はレーザー測量などで実施されるが、RGB空撮画像から三次元情報を取得することで、低コストで高解像の地物の認識と高さ情報の取得が実施でき、調査の効率化を図ることができる。
演習2では、高解像度空撮画像、数値表層モデルと、地面高を使って、ソバ(キタワセ)の平均群落高を算出した。
演習3.演習林の樹木高の推定
野辺山ステーション全体を令和6年8月19日に高度120mからドローンで空撮した。RGB画像と地面高の補正を行った数値表層モデル(DSM:Digital Surface Model)の画像を用いて、Canopy Height Modelの原理から、演習林の樹木高の推定マップを作成した。
8.まとめ
UAV(ドローン)は、航空法の範囲内(住宅密集地や重要施設が無いエリアで高度150m以下)でユーザーが観測したい対象物を任意の時期に撮影でき、農林業の様々な対象物を高精度に観測できる。画像解析に用いた地理情報システム(QGIS)はオープンソースのフリーソフトであり、空撮画像を適切に処理することで、地物の計測、標高値から推定した高さ情報などを面的に取得できる。QGISの使い方を習熟すると、自分の研究に適用できる可能性があることや、今後、社会に出たあとに、地理情報を活用した仕事に活かせるかもしれない。これまで植生情報はコドラートを設置し、メジャーで計測してきたが、オルソ画像を多人数で共有し、解析作業を進めることで、広域で地物の計測を実施できる。また、計測に用いた画像を残すことで、多時期の比較や年度を超えたデータ解析ができる点が有用である。この演習ではUAV空撮画像の処理と計測のスキルを身近な対象物で実施できることを習得し、リモートセンシングの基礎技術を理解できる点に特徴がある。