研究

はじめに

当薬剤部には、基礎研究および医療薬学研究の核となる研究部門として研究室があり、薬剤部員および研究室員が日夜研究に励んでいます。また、当研究室は大学院総合医理工学研究科医学系専攻の分子薬理学(臨床薬理学)教室としても開講されており、多くの大学院生を受け入れています。
私たちは、基礎研究、臨床研究、調査・疫学研究に取り組んでいます。医療は日々進歩していますが、胎児や脳などの薬物動態や異物応答機能については多くが未解明のままです。また、薬剤師なら誰もが知っている副作用や相互作用でも、原因や機序が不明のものが数多く存在します。私たちはそのような難問に取り組み解明していくことによって、質の高い医療・医薬品情報の提供と患者さんのQOLの向上に寄与することを目指しています。

基礎研究

● 胎児肝臓における薬物応答機能に関する研究

医薬品を含む化学物質(異物)に対する胎児の感受性は、実験動物とヒトとの間で差異が認められることが多く、この要因の一つとして、胎児肝臓での薬物代謝酵素の種差が考えられています。また、胎児の肝細胞の薬物感受性は、成人の肝細胞と一部異なることを当研究室で明らかにしています。このことから、医薬品のヒト胎児への影響を評価するには、ヒト胎児由来の組織や細胞などを用いる必要があります。そこで、私たちは、ヒト胎児正常肝細胞を用いて、薬物代謝酵素の生理機能や生体防御機能、また薬物応答性とその分子機構を明らかにすることを目的として研究を進めています。この成果は、妊娠中の医薬品の安全性を評価する上で貴重な情報となります。

主な業績
○ Matsunaga T, Maruyama M, Matsubara T, Nagata K, Yamazoe Y, Ohmori S: Mechanisms of CYP3A induction by glucocorticoids in human fetal liver cells. Drug Metab Pharmacokinet. 27: 653-657, 2012.
○ Takezawa T, Matsunaga T, Aikawa K, Nakamura K, Ohmori S: Lower expression of HNF4α and PGC1α might impair rifampicin-mediated CYP3A4 induction under conditions where PXR is overexpressed in human fetal liver cells. Drug Metab Pharmacokinet. 27: 430-438, 2012.
○ Suzuki E, Matsunaga T, Aonuma A, Sakaki T, Nagata K, Ohmori S: Effects of hypoxia-inducible factor-1α chemical stabilizer, CoCl2 and hypoxia on gene expression of CYP3As in human fetal liver cells. Drug Metab Pharmacokinet. 27: 398-404, 2012.
○ Maruyama M, Matsunaga T, Harada E, Ohmori S: Comparison of basal gene expression and induction of CYP3As in HepG2 and human fetal liver cells. Biol Pharm Bull. 30: 2091-2097, 2007.
○ Matsunaga T, Maruyama M, Harada E, Katsuyama Y, Sugihara N, Ise H, Negishi N, Ikeda U, Ohmori S: Expression and induction of CYP3As in human fetal hepatocytes. Biochem Biophys Res Commun. 318: 428-434, 2004.

● 脳における薬物応答機能に関する研究

脳における薬物代謝は中枢作用薬の薬理効果に影響を及ぼし、薬物応答の個人差を引き起こす原因の一つとして考えられており、その分子機構を明らかにすることはとても重要です。しかし、ヒト脳は入手がきわめて困難なことから、それに代わる有用な解析基盤を構築することが喫緊の課題となっています。そこで、私たちは、ヒト中枢神経系における薬物代謝酵素の機能を明らかにするとともに、ヒト神経細胞を用いた薬物脳内動態モデルを確立することを目的として研究を進めています。

主な業績
○ Yamaori S, Jiang R, Maeda C, Ogawa R, Okazaki H, Aramaki H, Watanabe K: Expression levels of 39 Cyp mRNAs in the mouse brain and neuroblastoma cell lines, C-1300N18 and NB2a – strong expression of Cyp1b1. Fundam Toxicol Sci. 4: 195-200 2017.
○ Watanabe K, Miyamoto M, Yamaori S, Hasegawa K, Watanabe K, Suzuki O: Human brain microsomes: their abilities to metabolize tetrahydrocannabinols and cannabinol. Forensic Toxicol. 31: 307-311 2013.

● 薬物間相互作用に関する研究

医薬品の中には、薬物間相互作用を引き起こすことが分かっていても機序が明らかにされていないものが数多く知られています。また、ソリブジンと5-FUの様に、薬物間相互作用が引き金となって重篤な副作用を発現し死亡する例も知られています。したがって、薬物間相互作用の機序を明らかにすることは、医薬品をより適正に使用していくためにとても重要な課題です。私たちは、これまで知られている相互作用から最近問題となった相互作用まで幅広く情報を収集・解析し、機序解明のための研究に取り組んでいます。

主な業績
○ Ikemura N, Yamaori S, Kobayashi C, Kamijo S, Murayama N, Yamazaki H, Ohmori S: Inhibitory effects of antihypertensive drugs on human cytochrome P450 2J2 activity: potent inhibition by azelnidipine and manidipine. Chem Biol Interact. 306: 1-9, 2019.
○ Yamaori S, Takami K, Shiozawa A, Sakuyama K, Matsuzawa N, Ohmori S: In vitro inhibition of CYP2C9-mediated warfarin 7-hydroxylation by iguratimod: possible mechanism of iguratimod-warfarin interaction. Biol Pharm Bull. 38: 441-447, 2015.

臨床研究

私たちは、医薬品の有効性や安全性の確保、また適正使用の推進を目的として、臨床研究を院内外の施設と協力して行っています。

○ 双極性障害患者のラモトリギン血中濃度に影響を与える因子の解析
○ 造血器腫瘍治療薬の臨床効果および副作用に薬物代謝酵素の遺伝子多型が与える影響
○ 多発性骨髄腫治療薬の副作用の発現に薬物代謝酵素の遺伝子多型が与える影響

主な業績
○ 寺澤美穂,山折 大,勝山善彦,二村 緑,久富由里子,田中 章,荻原朋美,萩原徹也,杉山暢宏,鷲塚伸介,大森 栄:双極性障害患者のラモトリギン血中濃度に影響を与える因子の解析.医療薬学.43;362-372,2017.
○ Matsuzawa N, Nakamura K, Matsuda M, Ishida F, Ohmori S: Influence of cytochrome P450 2C19 gene variations on pharmacokinetic parameters of thalidomide in Japanese patients. Biol Pharm Bull. 35: 317-320, 2012.

調査・疫学研究

私たちは、調査・疫学研究を通して、日々の業務の中で疑問に思ったことや改善した方が良いと考える課題に取り組んだり、また新規業務の展開による薬剤師の貢献度の把握などに努めています。

○ SGLT2阻害薬の血糖降下作用に影響する因子の探索
当院にてSGLT2阻害薬を使用された患者様へ
○ 小児造血幹細胞移植患者におけるタクロリムスによる低マグネシウム血症の関連因子解析
当院小児科にて造血幹細胞移植を実施し、タクロリムスによる治療を受けた患者様へ
○ 造血幹細胞移植におけるガンシクロビル誘導型骨髄抑制のリスク因子の探索
当院にてガンシクロビルを使用された患者様へ
○ 医薬品副作用データベースを用いたビルダグリプチンの肝障害危険因子の解明
○ 非ステロイド性抗炎症薬を含有する消炎鎮痛貼付剤の添付文書における妊婦関連記載内容の実態調査
○ 長野県内の病院薬剤師を対象とした医薬品副作用被害救済制度の認識実態調査
○ 薬剤師による手術部での常駐業務に関するアンケート調査

主な業績
○ Mimura A, Yamaori S, Ikemura N, Katsuyama Y, Matsuzawa N, Ohmori S: Influence of azole antifungal drugs on blood tacrolimus levels after switching from intravenous tacrolimus to once-daily modified release tacrolimus in patients receiving allogeneic hematopoietic stem cell transplantation. J Clin Pharm Ther. (in press)
○ 橋本麻衣子,瀬角りほ,三村 享,春日恵理子,松本 剛,本田孝行,濱本知之,山折 大,大森 栄:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生Escherichia coliを原因菌とする尿路感染症リスク因子の探索.日化療法誌.66;749-757,2018.
○ 土屋広行,新井亮輔,清水佳一郎,塩澤彩香,神田博仁,山折 大,大森 栄:院内処方せんへの臨床検査値表記が疑義照会に与える影響.医療薬学.41;244-253,2015.

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