信州大学附属図書館 信州大学附属図書館

シンポジウム「信州から発信する環境提言~低炭素社会実現を目指した大学と地域との連携~」記録(2)

第2部 パネルディスカッション

2009年11月7日(土)13:30-16:30 信州大学経済学部1番教室

ごあいさつ 山沢 清人(信州大学学長)

ごあいさつ

◆山沢
天気のいい秋の日に,このシンポジウムに参加していただいたことをうれしく思う。10月1日から学長に就任した。松本に単身赴任してきたが,先ほどのビデオで市長が言っていたとおり,山高く水清く風光る美しい街であるのを実感した。このような都市で環境に関するシンポジウムを開催できることを嬉しく思う。
大学の使命は学問を修めるというのもあるが,地球の未来に向かって学生も含めた大学人が環境のために何ができるかという視点が必要である。
その観点から信州大学は工学部から始まって,大学全体で環境マインドを持つ人材の育成を目指し,地域への発信を進めている。
今回のイベントは図書館という一見意外なところからの発信だが,職員の強い思いから実現した。
信州大学の環境活動の特徴は学生が担い手となっているところである。今回のパネリストにも松本キャンパスの環境ISO学生委員長がいるが、各キャンパスに学生委員会があって、かなりきちっと活動している。
通常の挨拶はここまでで,ひとつ個人的な提言をしたい。
自分の専門は工学部の電気電子工学科で電気エネルギーや原子力エネルギーを研究している。
つい先日,国内でプルサーマル原子力発電所が営業運転に入ったというニュースが流れた。これを聞いて日本のエネルギー政策が変わるという強い思いを抱いた。
原子力発電は低炭素社会の一つの解だが、プルトニウム処理の技術を人類はまだ持っておらず,半減期23万年というプルトニウムはほとんど永久に残る。青森の再処理工場もまだうまく動いていない。今回使用している燃料はイギリスから輸入したもの。プルサーマルでも全部が燃えるわけではなくプルトニウムは残る。日本のエネルギー政策が1つの新たな段階に入った。
今日の話は、地域の皆さん・各団体が努力されていることについての話が中心となり、それも非常に大切なこと。その中で日本のエネルギーの話も考えてほしい。
ぜひ自由な議論を期待している。

はじめに 藤井 恒男(信州大学工学部環境機能工学科教授)

はじめに

◆藤井
今回は,6月1日の60周年記念行事のときのシンポジウムの第2弾という位置づけ。いかに地域と連携できるか,信大として地域・日本にどのような提言ができるかがテーマである。

地球の現状

環境問題の起源は豊かさの追求。
1万年位前までは人口400万人くらいで必然的に循環する社会だったが,農業・牧畜(産業)の発見によって,地表の形態を変えるようになり,人口も増加した。現在は67億8千万。
この1万年間、地球は人類に脅かされる年月であった。われわれは持続しない社会を作り上げた。
地球の人口は2050年前後で93億人ほどに達するとみられている。それに対して石油の増産は、無理をしても2020年くらいで止まり,穀物の一人当たり生産量は現在既に低下を始めている。もろもろの資源によって地球の養える人口は75-85億といわれている。それを超えた人々の食料や生命がどうなるのか。また日本はカロリーベースで現在60%を輸入に頼っており,環境変化にもろい国である。
われわれは将来の人間社会・地球環境がどうなるかを選ぶ時代に生きている。

文明とエネルギー

一人当たりエネルギー消費量とGDPとをプロットすると,物質的な豊かさは使ったエネルギーに比例することがわかる。つまり,一定収入を得るために必要なエネルギー消費量は,世界どこでもそう変わらない。
その中で発展途上国の人たちが豊かになっていくとすると,地球全体でのエネルギー消費はどうなるか。
2005年5月に世界の石油生産はピークを超えた可能性がある。今後,化石燃料に頼る20世紀型社会は成り立たなくなる。化石燃料は豊富で・安く・エネルギー効率がよく・運搬や貯蔵が容易という優位性を持っていたが,安く豊富な時代が終わる。農業・漁業・工業への影響,特に運輸交通への影響は甚大と思われる。石油ショックのときとは根本的に異なる。

低炭素社会へ

持続可能性を測る指標として,エコロジカルフットプリントというのがある。現在の暮らしを続けるために人間一人にどのくらい土地面積が必要かを表す尺度。曖昧さはあるが,直感的に感じることのできる指標。地球上の土地面積を世界の人口で割ると1.8ヘクタールになるのに対して,日本人のエコロジカルフットプリントは4.3ヘクタールとなる。つまり世界中の人が日本人のような暮らしをするには地球が2.4個必要な計算となる。逆に日本人が世界の平均並みに暮らそうと思うと,現在の半分以下の水準の生活になる。また,すでに全人類のエコロジカルフットプリントは地球の陸地面積の1.2倍を超えたとも言われる。もはや大量消費・大量生産・大量廃棄の限界が明らかになっており,20世紀文明とは異なる考え,異なる生活の水準や幸せの概念を持たなければならない。それが低炭素(低エネルギー)社会である。

環境と平和

いろいろな立場からの報告によれば,世界の紛争の大きな原因のひとつは環境破壊。環境と平和は切っても切れない関係にある。先日の国連総会で鳩山首相が環境と平和を主題として演説し,日本の代表としては初めて歓迎された。
地球環境問題は,人類一人ひとりが豊かさとは・幸せとは・社会全体との関連について考えていくこととつながっている。その中では地域システムの持っている経験・知恵が重要になってくる。
オバマ大統領がChangeというキーワードを掲げたが,20世紀文明から21世紀文明へチェンジしていく時だ。
個人・企業・国の3者のかかわりを示す図を描いたとき,大学と地域はそれらが重なり合うところにある。これらの全体に発信していく重要な立場にある。

話題提供 原 強(レイチェル・カーソン日本協会関西フォーラム代表,コンシューマーズ京都理事長)

話題提供_原 強

◆原
この1年余り信州大学の図書館がレイチェル・カーソンのパネル展に熱心に取り組んでくださった。そのためにお礼を申し上げにきた。今日は3つくらいの論点を話したい。

レイチェル・カーソンが考えたこと

『沈黙の春』は古典になった。つまりいろいろな読み方が成立しており,個々人のレイチェル像・レイチェル感というのがいろいろ存在している。これが正しいというのを押し付けるのではなく,いろいろな読み方を含めて語り継いでいこうというのが日本協会。
個人的には「20世紀の文明に対して強い反省を促している。その反省に立って,自然を征服するのではなく,自然と共生しよう・ともに生きよう。その実現について,われわれは未来の世代に対する責任を負っている」というメッセージではないかと考える。現代の社会において,それをどのように受け継いでいくのか。『沈黙の春』は五十年前。十数年前にダイオキシンや環境ホルモンが大きくにぎわした。そういったものの原点も『沈黙の春』であった。

2つのCOP

1つは12月にコペンハーゲンで開かれるCOP15・気候変動枠組条約締約国会議。2つ目は来年名古屋で開かれるCOP10・生物多様性条約締約国会議。
COP15は今の情勢ではかなり厳しい。京都議定書の後を受けるものを生み出せるかどうかだが,今のままでは法的拘束力を持った議定書の採択までは行かないだろう。政治合意がなされれば上出来といわれている。
最も被害を受ける島国を中心とした途上国の人たちは,COP15で有効な枠組みができることを期待している。環境NGOなども政治家に対して働きかけている。IPCCの第4次レポートに対して国連事務総長は「科学者の声は1つになった。後は政治の仕事だ」と述べた。
2050年においてCO2を現在の半分以下にしないと,平均気温が2度以上上昇する。そのための対策を今打つことが,悪くなってからやるよりもはるかに安くできる。今動くことが大事。
2050年に世界で半分にするには,先進国は80-90%の削減が求められる。できる・できないではなく,やらなければならないという決意を持つことだ。そして,2049年になって技術革新が起きて一気に減らすというのは非現実的であり,今から計画的に確実に進めていかなければならない。そのためには,中期目標として2020年段階での目標が大事。削減量を明確にして,そのためのあらゆる政策を動員すること。目標については各国の間で議論がなされたが,麻生前総理が出した数字は世界の求めるものでなかった。鳩山総理が出した数字で初めて拍手をもらった。しかし今バルセロナで行われている準備会議では,前政権と同じだという批判もある。
私たちが日本の政府に対して何を求めていくのか。鳩山総理がコペンハーゲンへ行って堂々と意見を述べてほしいと同時に,市民一人ひとりがこの問題を理解して意見を述べることが大事。コペンハーゲンに市民が意見を送ろうというキャンペーンも行われている。12月12日にはNGO主導の大デモンストレーションなど,世界各地で同時アクションが予定されている。日本では東京と京都で準備中。そういう大きな取り組みと同時に足元も大事で,松本から・信州から発信というのはすばらしい取り組みだ。
自分のいる京都でも,京都府・京都市の削減計画を,行政・市民・事業者がパートナー型で作ろうという議論をしている。日本各地で「低炭素のまちづくり」にむかって一歩踏み出していくことがCOP15とリンクすること。

蛍光管の適正処理

われわれのNPOで取り組んでいる。レイチェル・カーソンや水俣病問題に取り組んだことで,水銀に対して敏感になった。蛍光管に微量に含まれている水銀が問題となっている。
京都では数年前まで生ごみと一緒に焼却炉に投入されてきた。その適正化を訴えてきて,現在は北九州の取り組みに習って,電気屋に持ち込んで回収するというモデルを実験中である。しかし現実には処理費用が必要になるので,関わる人それぞれの負担が大きくなる。きちんと処理が回るようなスキームが必要で,たとえば家電などで行われているリサイクル法などのように、蛍光管を対象としたリサイクル法が必要である。来週蛍光管フォーラムを京都で実施する。

話題提供 茅野 實(社団法人長野県環境保全協会会長)

話題提供_茅野 實

◆茅野
主として企業の立場から。

長野県環境保全協会

当協会は、11年前に設立した。環境問題については以前から深刻に考えていたが、当時銀行の頭取をやっており,その立場を利用して取引先の企業にお願いした。長野五輪のときに大滑降のコースを国立公園の中に伸ばすかどうかの議論があったので,それを好機に有志の企業にお願いして,資金を拠出してもらった。最大で年間20万円の会費。
今は国や県から委嘱される仕事がだんだん多くなって,財政規模が年1億円を超えた。その分,社会的責任も大きくなっている。

長野県企業の環境活動

企業の活動として典型的なのは,ISO14001の取得。年に50社ずつくらい増えて、現在450社くらいか。費用をもう少し安くできないかと,日本政府が日本独自の認証制度「エコアクション21」を作った。それも含めれば600社くらいが何らかの認証を取得している。40000社の中で見ればごく一部だが、取得しているのはほとんどが大企業なので、従業員規模で見ると長野県の1割くらいには達するか。長野県企業の活動は、47都道府県の中でトップ10には入るだろう。
長野県は日本全国の中では経済発展が遅れていたほうだが、軽薄短小産業がほとんどなので,環境への負荷が少ない体質だ。長野五輪に伴って新幹線・道路・建物ができたので,1990年代後半まで長野県だけは好景気。経済の発展とエネルギー消費が比例していることを考えると,CO2の排出削減に1990年を基準にすると長野県はその分荷が重い。

経済と環境

何もしなくても、現在のような不況になれば経済活動が低下してCO2排出は激減する。あとは科学技術が発達すれば、さらにCO2排出は抑えられる。
地球の環境資源は限界まで来ており,これ以上,CO2を排出する経済を拡大するのは無理。それでも選挙で国民は経済発展を期待してしまう。政治家も選挙のときには経済発展できないとはっきり言わないが,それがよくない。
昨年,石油の値段が上がってマイカー使用が減ったと聞いて,いいことだと思った。資源の供給がもとに戻るということはない。資源の値段が上がれば,それでまた景気は下がる。資源の範囲で人は生活するしかない。
今,信州の企業は日本全体やアメリカにくらべると環境の活動では優等生の部類だと思う。県でも地球温暖化対策条例を制定しており、大手のバス会社や製造業者・スーパーなどに削減計画を提出させている。その中で鳩山政権のいうCO225%削減は、長野県にとっては大変な重荷になる。できることから始めようという程度ではとても間に合わない。お金をかけてやらざるを得ない。その方法は「環境に負荷をかけるところからお金を取る」「環境負荷の少ないところにお金を配る」。お金でやるのが一番有効で、法律で動かすのはなかなか難しい。高速道路の無料化や揮発油の暫定税率廃止は、環境保全には逆行だ。むしろ炭素税などぜひかけてほしい。

話題提供 坪田 明男(松本市副市長)

話題提供_坪田 明男

◆坪田

環境都市松本

松本は3つの「がくと」学都・岳都・楽都を売り物にしている。これを縦軸にして地域経済の活性化を図っていきたい。また「健康寿命延伸都市・松本」を掲げて、市民・行政・産学が一体となって、経済の健康・環境の健康を目指している。
松本市環境基本計画では、6つの柱をかかげている。地球環境・循環型社会・生活環境・自然環境・快適環境・市民協働。
国から評価されることを意識しているわけではありませんが,昭和61年環境庁「あおぞらの街」・平成9年環境省「星空にやさしい街10選」・平成13年「かおり風景100選」・平成20年「平成の名水百選」などに選定されている。

ゴミの減量

ゴミ処理の量は近年フラットな推移。
コンポストやペレットストーブの導入に補助を行っている。コンポストはそろそろ行き渡ったと思われ頭打ち。ペレットストーブはまだ高価なためか伸びない。

代替エネルギー

日照時間の長い松本の気候を生かした太陽光発電を推進。21年度は国の補助金復活もあって補助件数が多い。公共施設でも設置を進めている。
環境省のモデル事業によって,グリーン電力を証書化し,地元企業へ販売。その代金を設備設置者に還元し設置費用に充てる自立的モデル。

環境マネジメントシステム

市役所庁舎で実施し,20年度2年前倒しで達成。更に高い目標をめざす。

大学・地域との連携

エコカーを観光地の交通として導入(充電スタンドも太陽光),完全循環型の生ごみシステムのネットワーク作りによる安定供給(11億円の生ごみ処理費用削減),バイオマス(森林資源・食物残渣等)を利用した燃料電池の利用などを進める。

脱・車社会

今一度路面電車の復活ができないか,若手職員を中心に検討を始めた。徒歩・自転車・路面電車をはじめ公共交通による交通ネットワークの確立。急に考えてもできないので,今から仕込んでいかないと間に合わない。

◇参加者
松本市内は一方通行が非常に多くてぐるぐる回ることになってしまう。一方通行をなくすことに力を入れてほしい。

◆坪田
そういう声は聞くが,現実にこの城下町をそのようにするのは不可能。車依存ではなく,環境にやさしい交通ネットワークをつくっていくことが重要である。車だけに依存するのではない街づくり。

話題提供 傘木 宏夫(NPO地域づくり工房代表理事)

話題提供_傘木 宏夫

◆傘木
大町市で活動している。2002年に発足し7年になる。現在の会員は152名。
理念は「市民からの地域おこし」。環境保全がメインではないが,地域に目を向けるとおのずと環境ということになった。見捨てられていた地域の資源(ニッチ)を活用していくという活動方針。

様々な活動

「くるくるエコプロジェクト」では220kmの農業用水路を生かすために,ミニ水力発電(1kw未満)などを行っている。その過程で水利権や技術的問題などの壁に挑戦してきた。1箇所は地元の土地改良区との問題があり廃止,現在は3箇所稼動している。地域とのコミュニケーションがないと失敗するという教訓を得られた。この活動は環境白書やECO検定でも取り上げられており,エコポイントの寄付も受け付けている。
「菜の花エコプロジェクト」全国的に行われている元スキー場での菜の花エコプロジェクトを,大町の資源にあわせて実施している。廃食油から作ったバイオディーゼルを,菜の花生産や安曇野公園のイルミネーションに使用。日本で失われていた貴重な食材である菜種油(エキストラバージン)を注文搾油で販売している。てんぷらを揚げるより食べきってほしい油。
自分たちの活動に全国から見学が来るので,エコツアーを企画している。NPO自体もエコツアーのお金で動かしている部分が大きい。エコツアーでやってることは厳しく見れば違法だらけ。地域で地域の資源を生かして仕事を作ろうと思うと,さまざまな規制にひっかかる。
そのほか,自治会との連携活動や,木崎湖でアニメファンとの清掃など,地域のさまざまな活動に取り組んでいる。

地域での活動と大学

持続可能な仕組みとは「小金が回る仕組み」。柳田國男の『都市と農村』でも,農村に住むのは豊かなる添え稼ぎがあったからということが言われている。それがなくなることで出稼ぎや都市への吸収が起きた。あるのは都市と農村との対立ではなく,資本と地域との対立であると言っている。添え稼ぎを復活させることが中山間地域の再生につながるのではないか。
私たちのプロジェクトに関わる人たちは,すべて添え稼ぎである。最近やたらボランティアが言われ,無償奉仕と勘違いされているが,無償への過度な期待には無理がある。持続しない。お金が回ることで関心のない人をも引き込め,内発的な力を引き出せる。
本当は大学と地域との関係がそうであってほしい。苦言を呈するようだが,特に法人化後は,大学がコンサル化している。言い方が悪いが,卒論や修論のネタとして自治体を食い物にしているように感じる。もっと地域で活動する人を育てるようなことを考えてほしい。

◇参加者
元人文学部の中嶋先生の研究の関係で,大町市と行き来がある。先生が市役所で講演したときの反応を見ていると,市役所職員の人でもモチベーションが低いことが見受けられる。市民の皆さんの雰囲気はどうなのか。

◆傘木
大町市は人口3万という規模の割に自発的活動は活発だと感じる。現場で活動している人たちは,忙しくて市役所の勉強会などにはなかなか行けない。ワークショップという形式を重視してきたのは,内発的にその人の経験の中から引き出すということにこだわっているから。目指すベクトルの違いではないか。

話題提供 清野 愛(信州大学松本キャンパス環境ISO学生委員会)

話題提供_清野 愛

◆清野
ISO学生委員会は,多くの学生が環境活動を理解や納得だけでなく実際に行動に移せるようになることを目指して活動している。各キャンパスごとに学生委員会があり,それぞれ特徴的な取り組みをやっている。
新入生全員に配布されるエコバッグのデザインを2006年度から毎年行っている。アンケートをやってそれをもとに改良している。
ごみ分別率調査を毎月実施して,その結果に基づいてゴミ箱のラベル表示など改善を行っている。特に容器包装プラスチックが問題。
信州環境フェアへ毎年出展している。今年はペットボトルリサイクルをテーマにした。女鳥羽川や松本ぼんぼんでごみひろいをしたり,子供たちにペットボトル工作をしたりといった活動も。
全国のISO学生委員会や環境系サークルの大会で,他大学とも交流している。また,海外にもメンバーを派遣して国際交流を行った。
附属小学校と協力してエコキャップ集め。

話題提供_清野 愛_2

本日の午前中に鳥取環境大学主催「日本列島を軽くしよう」に参加した。
ゴミを実際に集めてみると,ポイ捨てゴミが側溝や植え込みなどに多かった。
今後の課題としては,新入生に向けて放置自転車対策・活動引継ぎ・地域に向けた常時活動。

オープンディスカッション

オープンディスカッション

◆藤井
オープンディスカッションということで,前半,おひとりひとりに非常に特徴のある発言をしてもらった。シンポジウムのタイトルには「提言」とあげてあるが,必ずしもこの会場で一つの提言がある必要はなく,いろんな話が出てくればよいのではないか。
まず会場からの発言をお願いしたい。発言の際にはお名前・所属をお願いしたい。

◇参加者
鳩山首相は25%といったが,京都議定書の6%も達成できずプラスになっているので,到底できるわけがない。経済成長しつつ二酸化炭素を減らすというマジックは不可能。
電気自動車は電気を作るときに二酸化炭素が出るだろうし,エコカーや太陽光発電に補助金を出すというが,補助金は税金であり,いわば二酸化炭素の塊。それを二酸化炭素を減らすのに使うのはおかしな話だ。
環境が戦争を生むというのは納得。環境を破壊するのは人口爆発。自分は昭和20年生まれで戦後の貧困を経験したが,日本が戦争をしたのは人口が増えたから。今新聞を見ていても,アフガニスタンやパキスタンなど争いが耐えないのはイスラム社会。われわれと異質なもので,こういう人々が増えていくのは大きな紛争の原因ではないか。われわれ仏教徒等を否定するアフガンやパキスタンに援助するというのは馬鹿げている。
二酸化炭素が増えるととんでもないことになるとは,どういうことか。北極海の氷が解けて海水面が上がったということは聞いたことがない。東京湾の水面が上がって東京が水浸しになったか。ヨーロッパ人がいうことを真に受けてそれに付和雷同している政治家や学者はお粗末ではないか。

◆藤井
25%の件については原さん。

◆原
CO2の大幅削減は,やれるやれないではなく,やらなければならない。温暖化がどのような事態を引き起こすかについて,IPCCという温暖化・気候変動の最先端の知見を持つ,ヨーロッパだけでない世界中の人々がレポートを出している。それを踏まえると,二酸化炭素の大幅な削減をしなければ地球の生態系が維持できない。政治・科学・あらゆる手段を使って実現していくということが問われている。
京都議定書の6%が国レベル・自治体レベルでもそう簡単にできない。とくに"真水"では。新しい文明を構築するのだという考え方での対処が必要ではないか。そのなかでは社会経済システム,つまりお金の循環の仕方といったこともでてくる。お金で縛る,たとえば炭素税のような,具体的な制度設計をやらなければならない。それから日本ではまだなじみがないが,排出権取引という仕組みを作り上げていく。こういったことを政治家・行政・企業などいろんな人たちで制度設計をしていき,国際的なネットワークで結ばれた排出権市場を確立し,エネルギーを再生可能なエネルギーへシフトしていく。具体的な芽は出ていると思うが,さらに大きな流れにしていくこと。1%や2%はみんなの努力だが,25%は文明転換がないと達成不可能。だが,人類がやらなければならない,未来に対する責任。
人口の視点も大事。地球の人口がどうなっていくか,シミュレーションの視点が大事。

◆藤井
海面の上昇について。世界中の観測では過去100年で約10センチの海面上昇が観測されている。東京湾等ではたいしたことがないのは確かだが,温暖化が進めばこの20年で数センチ上がる可能性がある。公文(富士夫)先生のお話では,われわれは偶然温暖な時期にいる。ちょっと温暖化が進むだけで一気に氷河が溶けていく可能性がある。

◇参加者
どこがあがっているのか。

◆傘木
こうした懐疑論は,武田(邦彦)氏の本が火をつけた。それに対して批判的な科学者も多くいる。温暖化については,松本市で11月29日にシンポジウムがあるので参考にしてほしい。( http://www.mcci.or.jp/www/gominet/kikaku.htm )
また,たとえばCOOPの共同配送を使うと,売り上げあたりの排出量が大幅削減になることが分かった。発想の転換が大事。

◆茅野
太陽発電の設備を作るのに二酸化炭素が排出されることは事実。最近ようやく,排出量と削減量が逆転して,削減量が上回った。技術はそこまできている。

◇参加者
私は信用しない。国民生活はどんどん苦しくなり,人口はどんどん減る。人口が減れば二酸化炭素削減もいらないし食料自給率の心配はない。

◆茅野
出生率でいくと,2100年には日本の人口は半分になる。そのペースになると自給率は100%になる。

◆藤井
行政の立場から。

◆坪田
電気自動車にも,太陽光発電由来の電気を使うという取り組みを行っていく必要がある。

◇参加者
太陽光発電で車が動くか。

◆茅野
動く。

◆原
参加者の方のおっしゃるような意見をいろいろなところで聞く。人々の危機意識を見ると,日本人が非常に低いというレポートも出ている。温暖化が進行するとどのような状況が起きるかということについて,科学者の力も借りて,みんなで議論をする必要がある。私は大幅な削減を計画的にやらなければならないという立場。いつまでにどれだけ削減するかという逆算的な方法。

◆藤井
関連して,経済・政治・個人の生活に加えて,環境マインドをみんなが持つということが,全体のキーポイントになるのではないかと考えている。教育ということには10年20年かかるかもしれないが,みんなの意識が変わることが大事。10年20年先のわれわれの生活をどう考えるか。今の生活をそのまま引き伸ばすのか,あるいは先にどういう生活をするというビジョンがあって,そのためにどうしたらよいか考えるか。
武田氏の話は売れているが,まじめな研究者ほどああいう本に反論するのがばかばかしくなる。いろんな立場の本を読んでほしい。

オープンディスカッション2

◇参加者
松本市の交通体系を新しくしていくということについて,うまくいくとすれば非常にうれしいと思っている。自分は東京生まれだが,まだ都電があった時代だった。この夏学会でドイツのブレーメンへ行った。小さい町だがトラムがあってお年寄りが乗っている。車社会になるとお年寄りの行動範囲が限られるが,トラムがあることで大きく広がる。観光都市松本でこれがうまく機能すれば,新しいモデルになるのではないか。

◆坪田
視点が3つある。中心市街地の交通問題をどうするか。環境政策上の問題はどうか。居住性がどうなるか。
富山のLRTなどの例があるので,やってできないことはないのではないか。ただ,効果を考えると費用は思ったほどかからないが,車の便利さになれている人には負担がかかる。その合意をどうするか。

◆原
コミュニティバスについては検討しているのか。

◇矢久保(松本市役所)
コミュニティバスは今実証運行を行っている。松本市の公共交通網は松本駅から放射線状に出ている関係上,空白地帯ができてしまうが,それを横につなぐ形でやっている。高齢化社会の進行で,買い物や通院で困る場面は多数出てくると思われるので,コミュニティバスのようなシステムは重要と考えている。
しかし現状の市民の意識では,バスは交通弱者の乗り物というもの。これを,今車を使っている人が車をやめてバスに乗るような形に変えていかないと,問題は解決しない。
トラムの話は,実現できればよいとは思うが,車にとっての不便は出てくるので,市民の理解と協力がなければ難しい。路面電車復活,あるいは自転車専用レーンを作るなどによって,道路の分配率も再度考えなければならない。暮らしそのものの中で脱車社会をめざすことが求められている。

◆傘木
大町市でも年間で5000万円くらいかけてコミュニティバスをやっている。そういうことをやるのであれば,市職員に回数券を配布して,市職員が率先してやってほしいと思っている。残業してもバスで帰れるようにする。市職員にとって使い勝手が良ければ,市民にも使いやすいものになるはず。通勤手当の半分くらいをコミュニティバスに転換すれば,かなりの経済効果になると思われるが,松本ではどうか。

◆坪田
松本市では通勤手当は,バス運賃相当のチケット制を実施している。私もバス通勤をしているがバスの最終時間が早いので帰りはタクシーになってしまう。

◆茅野
勇気がいることだが,マイカーの人からお金を取るくらいの意識を行政はもたないと,25%は達成できない。票に影響するからおびえるのではなく,断行してほしい。プラス・マイナス両面のインセンティブがないと動かない。地方でも独自の税を取ることをもっとやっていく。

◆坪田
茅野さんが冒頭に提案されたことで,環境税をやるべきだといわれたが,私もそれもひとつの選択肢だと考えている。暫定税率を廃止する財源を考えれば,その分を環境税に。地方の活性化のために地方が自ら判断して率先して行ってはどうか。難しいが大きな研究課題だ。

◆藤井
先ほど環境マインドの話をしたが,他大学の学生との交流の話をもっと詳しく報告してほしい。

オープンディスカッション3

◆清野
どこの大学も一部の学生が盛り上がっていて全体の協力が得られていないというのが現状のようだ。地域と連携している大学も多いが,信大はまだ不十分。小学校のエコキャップの活動も,他大学からアイディアをもらったもの。ほかの大学との交流によって,他大学のいいところの吸収ができる。いろんな立場の人と交流することが大切。

◆藤井
たとえばゴミ箱の分別ラベルを変えたことで効果があったか。

◆清野
分別レベルの評価が5から8に上がるなどの効果があった。

◆藤井
信大の環境マインドの特徴は,理念や分析だけでは環境は改善せず,いかに実践するかが重要だというもの。分別の活動や小学校との交流もそういうところから生まれた。
悲観論はあるが,世の中100人いたら1人では動かないが,10人いたら変わってくる。環境マインドの重要性を改めて感じる。

◆原
その点で今日も強く思ったのは,大学で環境マネジメントシステムを取り入れる意味について。ISO14001を取り入れる場合,事務組織として取り入れるだけなら企業と同じでよいが,学生も含めてやるという場合,どのように取り込むかが非常に難しい。ほかの大学でも学生のチームを動かすことに苦労している。信州大学ではどこがうまくいったのか聞いてみたい。また,滋賀県立大学の学生が,地域の企業のISO指導員になったという事例がある。京都精華大学でもゼミの学生がやったという話もある。信大ではどうだったか。

◆藤井
信大は国公立学部大学院で始めて認証を取得した。もっとも問題になったのは学生をどうするか。教員会議ではマイナスの意見が多かった。それは「管理」の視点。しかし大学の本務である「教育」という視点から,エコキャンパスを作るという立場に立ち,教育のツールとすることで,最終的には工学部教員会議で全会一致。1年半かかった。学生担当に専任の教員をあてた。ゴミの分別から何から学生と一緒にやってもらった。
信大では最初から学生がメンバーになっていたことが大きな特徴。他の大学はなかなかできていない。決意すればできる。ISOをやるとお金がかかるという話もあるが,実施することで予算削減できた部分も大きい。工学部を例にすると最初の年だけで約2000万円削減。

◆茅野
環境マインドをもっているかどうか,学生を評価するシステムはあるのか。

◆藤井
考えているが,まだ実行に移していない。内部監査へ参加度などを単位認定するなど,提案したこともあるが実施に移していない。

◆茅野
それが一番インセンティブになるのでは。効果という意味ではもっとも大きい。

◆藤井
環境マインドを持った教員が増えてくればあるいは。

◆茅野
それを学長にぜひ提言をしてほしい。

◆傘木
マインドは確かに大事だが,圧倒的多数の人は自発的には動かない。大事なことは,政治や経営に携わった人が仕組みを作っていくことではないか。「小金が回る」というのもそういう意味合い。仕組みがないと,無関心な人を動かしていくのは難しい。マインドに過大な期待をするのはどうかと思う。
観光に注目している。地域の人口が少なくなっても,観光に来る人が増えれば,一人当たりの収入は増える。たとえば温泉地のある市町村の入湯税年間7000万の使い道はベールに包まれている。外国にあるような「この橋は入湯税で作られています」のような,使われ方が見える仕組み。自発的にお金を使ってくれるような仕組みを作るということも,観光地であれば必要ではないか。

◇参加者
排出権取引について。最終的には企業と企業の取り引き。日本は買わざるを得ない状況。ヨーロッパが主導権を持っている。会社が払うとしても,最終的には国や国民の負担になる。そういうものには参加しないほうがよい。

オープンディスカッション4

◇参加者
昨日,一人当たりのCO2排出量を国別に調べてみた。アメリカは23.1トン,日本10.4トン,ヨーロッパの先進国はドイツ12.4トン,イギリス10.4トン,フランス8.9トン。アメリカ以外は横一線。こう考えると,ヨーロッパと日本は同じ条件でやってるんだと考えるのがよいのではないか。あとは技術と工夫の問題。

◆傘木
この問題も,国際問題に関心を向けるのもよいが,足元の議論をしていくことが大事だと思う。
電力会社は太陽光ばかり見て,夜間にも発電する水力を買ってくれない。
エネルギーの使い方が間違っているのであって,それに合わせて排出権や自然エネルギーや何かを考えるのではなく,足元で得られるエネルギーの範囲で生活をするという方向に発想の転換をすることが大事。そういう方向に大きく舵を切れば,25%も可能。

◆藤井
傘木さんの発言はエネルギーのフットプリントということ。
排出量について言うと,例えば不要な電力を全部切る,シャワーを1分減らす,家族が一部屋で過ごすなど,細かいことを日本全国の人がやれば発展途上国1カ国分のエネルギーに相当する。元の贅沢を基準にするから,窮屈になった・貧乏になったと感じてしまう。
日本をはじめとした先進国の貧困の多くは絶対的な貧困ではなく,「他者と同じものを持っていない」という不要な貧困。ムード。
さまざまな制度とともに,科学技術がいかに寄与できるかも重要。IPCCの報告など科学者の言うことを,日本の政府はあまり聞いてこなかった。これをまじめに聞くということが必要ではないか。

◆藤井
最後にそれぞれ1分くらいで。

◆原
レイチェル・カーソンの話に絡めると,化学物質と文明とのかかわりの振り返りをやらなければいけない時期。ほかならぬ京都で,「低炭素のまち」の議論をまた行う。かつて「マイカー拒否宣言」というのを出したが,あのときは宣言どまりであった。今回はそれを実効あるものに。

◆茅野
今日は先鋭的な言葉を使ってきたが,25%という数字を聞いたときから,「できることから」と言っている状況でないと思ってきた。

◆坪田
とはいえ「できることから」とお願いしないといけない。喫緊のゴミの減量化。次のゴミ処理施設は作らないという覚悟で。

◆傘木
大学に対して失礼なことを言ったが,地域にはすごい人がたくさんいる。大学と地域との連携ということを考えるとき,地域の人たちから学ぶ,がんばっている人を励ますという伝道師的役割を大学には担ってほしい。
人を組織する立場からすると,危機感や悲観論から入るのではなく,人の力を信じていく。過去にも公害問題などいろいろ乗り越えてきた。問題は解決できるという確信を持って取り組んでいきたい。

◆清野
危機意識が低いというのは,私たちも日ごろ思う。多くの学生は考えていない。どれだけ巻き込んで行けるかというシステム作りが重要ということがわかった。いろいろな立場の方が,それぞれやれることを考えていて,学生という立場からも考えていけたらと思う。

◆藤井
非常に大きなテーマだったが,6月のシンポジウムに比べて,内容は今回のほうが高かった。会場の皆さんのご協力に感謝する。

― 終了 ―(以上、敬称略)