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特殊な好酸球の免疫抑制作用を解明~食物アレルギー治療法開発へ期待~

2022年09月05日 [研究]

 信州大学医学部内科学第二教室・消化器内科の城下智准教授は、留学先であったワシントン大学医学部セントルイス・免疫学(Marco Colonna教授)のWei-Le Wang博士研究員と東北大学大学院医学系研究科感染制御インテリジェンスネットワーク寄附講座の笠松純講師との研究において、マウスの小腸には特殊な好酸球がいることを発見しました。

 好酸球は寄生虫感染やアレルギー反応で重要な役割を担う免疫細胞です。小腸には多くの好酸球が存在していますが、その役割については未だ不明な点が多いのが現状です。城下准教授は、免疫系活性化の制御に重要な役割を果たしていることが報告されている抑制型C型レクチン受容体Clec4a4を発現する免疫細胞の探索から、マウスの小腸にはClec4a4を発現する好酸球(Clec4a4好酸球)と発現しない好酸球(Clec4a4好酸球)が存在することを発見しました(図1)。さらに、この2種類の好酸球の特徴を調べるために、マイクロアレイ解析によって網羅的に遺伝子発現の比較を行い、Clec4a4好酸球は免疫抑制に関わる遺伝子群の発現が高いのに対し、Clec4a4好酸球は炎症応答に関わる遺伝子群の発現が高いことを明らかにしました。これらのことより、マウスの小腸には遺伝子発現パターンが異なる2種類の好酸球が存在することが分かりました。
 さらに、マイクロアレイ解析の結果を元に、Clec4a4好酸球が芳香族炭化水素受容体を高発現していることが分かりました。芳香族炭化水素受容体は、ダイオキシンや腸内細菌の代謝産物(この受容体と結合する物質を総称して芳香族炭化水素受容体リガンドと呼びます)などと結合して活性化し、腸管の免疫細胞の分化に重要な転写調節因子です。そこで、芳香族炭化水素受容体がClec4a4好酸球に及ぼす影響を調べるために、この受容体を欠損したマウス(Ahr遺伝子欠損マウス)の小腸の好酸球を解析したところ、Clec4a4好酸球が完全に消失していることを発見しました。反対に、野生型マウスに芳香族炭化水素受容体のリガンドであるインドール-3-カルビノールを経口投与したところ、Clec4a4好酸球が増加することも明らかにしました。このことから、Clec4a4好酸球の分化には芳香族炭化水素受容体が必要であることが分かりました。また、生後間もないマウスと成体のマウスを比較すると、成体のマウスでClec4a4好酸球が増加していました。このことから、この好酸球は加齢に伴い増加することも明らかにしました。
 このClec4a4好酸球の役割を調べるために、好酸球特異的にAhr遺伝子を欠損させたClec4a4好酸球欠損マウスを作成しました。このマウスを使って腸管寄生線虫(Nippostrongylus brasiliensis)感染実験を行い、Clec4a4好酸球欠損マウスでは寄生虫の排除が促進していることを発見しました。これらのことから、Clec4a4好酸球は寄生虫に対する免疫応答を抑制していることが示唆されました。一方で、食物アレルギーを発症したマウスを用いて小腸の好酸球を調べたところ、Clec4a4好酸球が増加していました。以上のことより、小腸には免疫抑制型Clec4a4好酸球と免疫促進型Clec4a4好酸球が存在していることが分かりました。
 本研究成果は、2022年6月2日に米国科学アカデミー紀要Proceedings of the National Academy of Sciencesに掲載されました。

 先進国では、国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持つとされています。また、食物アレルギーは加齢とともに発症率が低下することも知られています。今回発見した免疫抑制型Clec4a4好酸球は加齢依存的に増加することから、加齢に伴う食物アレルギーの発症率低下に関与している可能性があります。また、食物アレルギーの治療は食事療法が中心であり、本研究は免疫抑制型Clec4a4好酸球に着目した新しい食物アレルギーの治療法開発につながることが期待されます。


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プレスリリース(PDF 292KB)


Title: The aryl hydrocarbon receptor instructs the immunomodulatory profile of a subset of Clec4a4+ eosinophils unique to the small intestine


Authors: Wei-Le Wang*, Jun Kasamatsu*, Satoru Joshita*, Susan Gilfillan, Blanda Di Luccia, Santosh Panda, Do-Hyun Kim, Pritesh Desai, Jennifer K. Bando, Stanley Ching-Cheng Huang, Kentaro Yomogida, Hitomi Hoshino, Mana Fukushima, Elizabeth A. Jacobsen, Steven J. Van Dyken, Christiane Ruedl, Marina Cella, Marco Colonna (*共同第一著者)


Proceedings of the National Academy of Sciences (2022)
DOI: 10.1073/pnas.2204557119

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