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X染色体連鎖性モザイク現象が小脳神経細胞の生存を左右 ― CASK関連疾患モデルマウスでの競合的細胞死を解明 ―

【研究成果のポイント】
・女児に多くみられる神経発達障害「CASK関連疾患」の原因メカニズムを、X染色体連鎖性モザイクに着目して解析
・CASK遺伝子欠損と正常細胞の混在が、小脳顆粒細胞およびプルキンエ細胞の競合的細胞死を引き起こすことを発見
・小脳において、CASK非発現細胞が淘汰され、発現細胞のみが生存する現象をマウスモデルで初めて可視化
・脳の発達異常における細胞間競合の重要性を示し、X染色体疾患の病態理解や治療戦略に新たな視点を提供

【概要】
X染色体上のCASK遺伝子の機能喪失は、主に女児に発症する小脳低形成および運動障害を特徴とする神経発達障害(MICPCH)を引き起こします。信州大学学術研究院医学系の田渕克彦教授らの研究グループは本研究では、CASK遺伝子がランダムなX染色体不活性化により脳内でモザイク状に発現することに着目し、CASKヘテロ欠損メスモデルマウスを用いて、CASK発現細胞と非発現細胞の分布と生存に関する詳細な解析を行いました。その結果、小脳においてCASK非発現神経細胞が発達段階で選択的に死滅し、最終的にCASK発現細胞が優先的に生き残ることが明らかになりました。本研究結果は2025年5月17日に国際学術誌『Cells 』で公開されました。

【背景】
CASKは神経細胞内でシナプス形成や機能維持に関わる重要な分子であり、その機能喪失はMICPCHをはじめとする重度の神経発達障害を引き起こします。特に女児では、X染色体の不活性化によるモザイク状の遺伝子発現が病態に大きく影響することが知られていますが、個々の細胞レベルでの影響については不明でした。本研究では、CASK欠損と正常細胞の混在がどのように神経発達に影響を与えるのかを、視覚的に追跡可能なマウスモデルを用いて検証しました。

【研究手法・成果】
CASKヘテロ欠損マウスとGFPレポーターを組み合わせた交配により、CASK発現細胞を可視化し、脳の各部位での生存状況を解析しました。その結果、小脳の顆粒細胞層およびプルキンエ細胞層では、CASK非発現細胞が発達段階で競合的に淘汰され、CASK発現細胞のみが生き残ることが明らかになりました。さらに、CASKの発現量を半減させた低発現マウスとの比較から、CASKの量的な発現も細胞生存に重要であることが判明しました。なお、大脳皮質や海馬ではこのような淘汰は見られず、小脳における特異的な現象であることも確認されました。

【波及効果・今後の予定】
本研究は、X染色体連鎖性疾患において、モザイク状に存在する細胞同士が競合し、病態形成に寄与するという新たなメカニズムを明らかにしました。この知見は、CASK関連疾患に限らず、MECP2やCDKL5などX染色体上の他の遺伝子異常に伴う神経疾患の理解や治療戦略の構築にも波及効果が期待されます。今後は、患者iPS細胞などを用いたヒト細胞レベルでの検証や、細胞間競合を抑制する介入手法の開発を進める予定です。

【論文タイトルと著者】
タイトル:The Competitive Loss of Cerebellar Granule and Purkinje Cells Driven by X-Linked Mosaicism in a Female Mouse Model of CASK-Related Disorders
著者:Takuma Mori, Mengyun Zhou, Ken Kunugitani, Taichi Akatsuka, Yukina Yoshida, Emi Kouyama-Suzuki, Shin Kobayashi, Yoshinori Shirai, Katsuhiko Tabuchi
掲載誌:Cells, 2025年5月17日掲載, Cells 2025, 14(10), 735, https://doi.org/10.3390/cells14100735

【問い合わせ先】
〈研究内容に関する問い合わせ先〉
信州大学学術研究院医学系分子細胞生理学
田渕 克彦
Tel: 0263-37-3775 Fax: 0263-37-3776

〈報道に関する問い合わせ先〉
国立大学法人信州大学 総務部総務課広報室
Tel: 0263-37-3056 Fax:0263-37-2188

 
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