教員紹介

もりやま しんや

護山 真也

哲学・芸術論 教授

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ダルシャナ科研2014年度合同研究会 美ヶ原温泉

プログラム

 丸井浩先生が代表をされている「インド哲学諸派における<存在>をめぐる議論の解明」(ダルシャナ科研)の合同研究会が松本・美ヶ原温泉で開催されました。  プログラムは以下の通りです。 13日 岩崎陽一 「所有と相続の形而上学」 渡邉眞儀 「属性(guṇa)カテゴリーの検討―Bhāsarvajñaによる伝統説批判の一例として」 日比真由美 「時間・方角は独立の実体か」 志田泰盛 「スチャリタミシュラの闇論」 藤井隆道 「シャーリカナータによるsattā批判」 14日 眞鍋智裕 「アドヴァイタ学派における現象世界の成立根拠と不成立根拠」 石村 克 「実在・存在・非存在―クマーリラの非存在の実在論証を中心に―」 護山真也 「プラジュニャーカラグプタの〈知覚=存在〉説」 志賀浄邦 「仏教における存在と時間:三世実有論をめぐる諸問題を再考する」 近藤隼人 「因中有果説の極北」 金菱哲宏 「Yogabhāṣyaに見られる存在論―三世実有説と因中有果説をめぐって―」 15日 斎藤 茜 「パシュヤンティー理論とスポータ理論の作用領域」 河村悠人 「Aṣṭādhyāyī 5.2.94におけるasyaとasminの言明目的―matUP導入をめぐる第六格接辞と第七格接辞の意味論」 畝部俊也 「言葉の使用の根拠としての「存在」―文法家にとっての「世界認識の枠組み」としてのbhāva―」 張本研吾 「インドにおける神の存在論的証明」

感想 初日

 初日の藤井氏の発表は、ミーマーンサー学派のプラバーカラ派の学匠シャーリカナータの『プラカラナパンチカー』における普遍の議論を題材としながら、シャーリカナータは〈存在性〉という普遍(ヴァイシェーシカ学派が言うような最上位の普遍)を認めず、「存在とは、認識根拠との結合可能性である」という説を指示したというもの。その際、シャーリカナータは、先行するヴェーダーンタ学派の巨匠・マンダナミシュラの『ブラフマシッディ』の見解への批判を展開しているわけですが、マンダナミシュラは〈存在性〉を容認する立場をとっています。その背景に〈有としてのブラフマン〉を想定したくなりますが、そのあたりは慎重に検討すべきである、という点が論述されていました。刺激的な内容だったと思います。

感想 二日目

 眞鍋氏の発表は、ヴェーダーンタ学派・不二一元論の学匠シュリーハルシャ(12世紀)とその後継者によるブラフマンと現象世界との関係に関する理論的な議論の検討でした。ヴェーダーンタ学派における推論式の扱い方に興味深いところがありました。  石村氏の発表は、クマーリラ著『シュローカ・ヴァールッティカ』非存在(abhāva)章における、非存在の考察でした。石村氏は、ウンベーカ・スチャリタ・パールタサーラティの三大注釈家の見解も詳細に検討しつつ、「非存在も認識を生み出すものとしては〈実在〉である」と考えたクマーリラの見解に対して、スチャリタは「それは非存在の〈第一義〉ではない」という批判的な注釈を加えている、という点が面白いところでした。また、abhāvaの意味に〈差異化〉と〈無化〉という二つの意味を想定するところ、――別の言い方をすれば、否定には存在の否定と本質の否定があると言ってもよいかもしれませんが――もインドの存在論を考える上で重要なポイントになるところだと思いました。この章については、信大の卒業生の河西さんが卒論で取り上げ、一緒に通読したことが思い出されます。  私の発表は、仏教認識論の立場から、プラジュニャーカラグプタの〈知覚=存在〉説をまとめたものです。本当は、ハイデルベルクのダルマキールティ学会のために準備していたものですが、そちらをキャンセルしたため、今回の発表で初披露となりました。このテーマはすでに信大の紀要などにも発表してますが、今回は、『プラマーナ・ヴァールッティカ』「他者のための推理」章末尾の非認識(anupalabdhi)をめぐる議論を追加しました。  志賀氏と金菱氏の発表は、いずれも説一切有部の三世実有論に関するもの。志賀氏の発表は、「ダルマ(仏教的存在者)の本体は、過去・未来・現在の三世にわたり実在する」というテーゼをめぐり、正統派の解釈とされるヴァスミトラ説に登場する「〈作用〉(kāritra)による三世の区別」を対象としていました。発表では、〈作用〉に対するサンガバドラ 衆賢)の「結果を引き寄せる能力」という解釈から、ダルマキールティのarthakriyāへの影響関係、さらにシャーンタラクシタ・カマラシーラによる〈作用〉に関する論証にいたるまで、重要な論点が網羅されていました。  金菱氏の発表は、このような仏教の学説がヨーガ学派の聖典『ヨーガ・バーシャ』に取り入れられている点についてのもの。ヴァスバンドゥ(5世紀、『倶舎論』作者=新ヴァスバンドゥ)とヴィヤーサ(Maasの想定で325-425)との関係が気になります。  近藤氏の発表は、『ユクティディーピカー』をはじめ膨大な資料を整理しながら、サーンキヤ学派の因中有果論が(三要素の)〈配列〉(sanniveśa)、〈顕現〉(abhivyakti)等の概念を導入することで、因中無果説へ漸近しつつ、一方のヴァイシェーシカ学派(因中無果論)の方もśaktiの概念を導入することで、因中有果説へ近づく動きがあったことが詳細に論じられました。

感想 三日目

 斉藤氏の発表では、バルトリハリの『ヴァーキャ・パディーヤ』に登場する〈パシュヤンティー〉という概念――人間の身体の内部に宿り、自らを照らし出す、言葉の永遠の本質――が、カシュミール・シヴァ派の宇宙開展論へ影響を与えた軌跡が提示されました。  河村氏の発表は、所有接尾辞の導入規則に関して、asminとasyaという二語が併記されることに関する文法家たちの解釈についてであり、「山に木々がある」(依存関係)とは言えても、「山が所有する木々」(部分・全体関係)とは言えない根拠が分かりました。文法学の世界は奥が深いです。  畝部氏の発表は、~tva, ~tāの形で通俗的には抽象名詞を作る接辞と言われるbhāva接辞のpravṛttinimittaとしてのbhāvaの解釈をめぐり、従来、「語の適用根拠」とされ意味論の文脈で論じられたこの術語を、コミュニケーション論の文脈で捉えなおそうとするものでした。『般若心経』の「色即是空」(rūpam eva śūnyatā)にも言及されており、仏教研究にも資する内容だったと思います。谷沢先生の論文を読み返してみたくなりました。  最後の張本氏の発表は、『ヨーガバーシャ』、そしてシャンカラに帰せられる注釈『ヴィヴァラナ』に登場する主宰神論証について、それがキリスト教神学の存在論的証明(アンセルムス等)と比較可能であることが論じられました。後期の授業に最も関係する内容で、勉強になりました。

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