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研究

「信州大学附属図書館研究」石井鶴三特集

「信州大学附属図書館研究」創刊

『信州大学附属図書館研究』第1号が刊行されました。創刊号では、2010年4月に信州大学が受贈した「石井鶴三関連資料」の整理過程の報告・研究成果発信の一端として、「石井鶴三特集」が組まれています。石井鶴三(いしい・つるぞう 1887-1973)は、彫刻家・洋画家として活躍した芸術家ですが、その活動は幅広く、小説の挿絵画家としても第一人者といってよい功績を残しました。本誌では、こうした鶴三の多面性に光をあてるために、幅広い角度からのアプローチがそれぞれの論において採られています。

挿絵画家としての石井鶴三

「挿絵画家としての石井鶴三」については、その歴史的な位置づけも含めて、本誌掲載の諸岡知徳氏による論文「石井鶴三「春泥」の挿絵──一九三〇年前後の新聞小説と大衆読者」に詳しいので、ご参照いただければと思います。ここで鶴三挿絵の代表作を紹介しておけば、上司小剣『東京』、中里介山『大菩薩峠』、直木三十五『南国太平記』、吉川英治『宮本武蔵』などです。鶴三の挿絵に対する考え方や、「石井鶴三関連資料」に含まれている書簡群の全体的な意義については、拙論「石井鶴三宛書簡の整理をはじめて──挿絵(画家)から近代文学・出版(研究)を考え直すために」をご参照下さい。

新資料の数々(1)…上司小剣・高村光太郎

これまでの「石井鶴三関連資料」整理によって、石井鶴三が関わった文学者からの書簡も多く見つかっています。本誌では、新出書簡を広く紹介する意味も含めて、整理にご協力いただいている方を中心に論文のかたちでご寄稿いただきました。 46通ものまとまった鶴三宛書簡が出てきた上司小剣については、初期作品である「森の家」・『花道』の挿絵と装幀に関する鶴三宛書簡を中心に、関係者からのものも含めて11通が荒井真理亜氏による「上司小剣「森の家」「花道」の挿絵と装幀に関して──石井鶴三宛上司小剣書簡から──」で紹介されており、その舞台裏が明らかにされています。 親しい関係が知られながら、直接的な交流の裏付けのなかった高村光太郎との関係を明らかにする鶴三宛書簡も、戦前のもの3通、戦後のもの6通が見つかっており、それらについては出口智之氏による「高村光太郎と石井鶴三――信州大学蔵新出高村光太郎書翰から――」で綿密な考証とともに紹介されています。

新資料の数々(2)…森田草平・高浜虚子

漱石の門下生として著名な森田草平の新聞連載小説『吉良家の人々』の挿絵を担当したのも、石井鶴三です。草平が鶴三の版下画を所望する書簡や、挿画料を明るみに出した関連領収書については、髙野奈保氏による「森田草平『吉良家の人々 四十八人目』挿画について――石井鶴三宛森田草平書簡・関連領収書から」で紹介されています。 石井鶴三と高浜虚子との関わりとしては、鶴三による虚子胸像とデスマスクの制作とが知られています。今回「石井鶴三関連資料」から見つかった鶴三宛書簡3通は、『ホトトギス』に口絵や表紙絵の依頼状で、その具体的な文面も含めて、若松伸哉氏による「俳句雑誌『ホトトギス』と石井鶴三──石井鶴三宛高浜虚子書簡から」で紹介されています。 これからも、書簡の調査を進めていくことで、鶴三の周辺や文学者との関係ばかりでなく、挿絵・装幀に関する進行日程や挿画料なども明らかにしていくことができそうで、鶴三という「窓」から近代文学や出版(研究)について新たな照明が当てていければと思います。

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