教員紹介

いとう つくす

伊藤 尽

英米言語文化 教授

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Tolkien おしごと 研究

講演会:ファンタジーの始めに「言葉ありき」:『指輪物語』の神話学入門

日比谷図書館から日比谷図書文化館へ

日比谷図書文化館での講演会ポスター

私が信州大学に着任し、東京を離れたその年に、都民の文化的な生活に大きな変化があったことに、長いこと私は気がつきませんでした。 それは、都立日比谷図書館が閉館されたことです。そして現在、同じ場所に新たに千代田区立日比谷図書文化館が開設されることになっていることです。都民の図書館というよりも、日本国民全員のためのアーカイブ図書館として、長い間機能してきた日比谷図書館でした。長年の資料の蓄積、文化意識、歴史意識の高い利用者の利便性、霞ヶ関に存在する意義などなど、日比谷図書館の果たしていた役割を肯定する人はあれ、まさか否定するようなことが、教育委員会や都庁にいるとは思いもしませんでした。 2006年頃からこのような動きがあったと言いますから、もう8年も前のこと。同じ都内とは言え、西の方に居を構え、西のはずれの職場に通っていた私のアンテナにはなぜか引っかからなかった。 少なくとも、当時の同僚には日比谷図書館を日常的に利用する素晴らしい歴史学の研究者がいたというのに・・・。 いずれにしても、日比谷図書館は、現在、装いも新たに、図書文化館という、図書館でありながら、図書の文化について人々に情報を与える文化コミュニティーの施設となりました。 その機能を充実させようと、企画課では毎日職員の方々が苦労をなさっていらっしゃいます。 特に、図書文化、本にまつわる芸術、文化、文学、デザイン・工芸といった分野に特化した講演会がいつも開催されていることは、実はあまり知られておりません。もったいないな、と思います。

『指輪物語』と『『ホビットの冒険』のanniversary

今年は2014年。人々の世界観を変え、現在世界中に広まっているファンタジー、コンピュータ・ゲーム業界にとって、端緒となった文学作品『指輪物語』(The Lord of the Rings)の初版第一巻、と第二巻が上梓されてから60年目にあたります。 また、『指輪物語』の出版の契機となった児童文学の古典『ホビットの冒険』初版が上梓されてから77年目という記念する年でもあります。 ちょうど今年の12月には、その『ホビットの冒険』の映画三部作の最終章『ホビット:決戦のゆくえ』が公開されることが決定しています。今年も私はその字幕・吹き替え版の監修を、慶應義塾大学の辺見葉子先生、高橋勇先生とともに担当することになっています(秋からは死ぬほどの過密スケジュール)。 そんな年ですから、さっそく春には慶應義塾大学で、『ホビットの冒険』についての新入生向けの講演会をしてまいりました。

日比谷図書文化館での講演会

カッシラーの邦訳

そして、先週7月19日(土)に、今度は『指輪物語』の神話学入門という題目で、講演会をして参りました。 実は、このテーマは、私の大学学部生時代の研究テーマでした。 したがいまして、講演内容の中心部分は、卒業論文の二章分の内容にあたるものだったのです。 当時から私は「神話」と「言語」との結びつきについて関心があり、ちょうど青山学院の岡三郎、冨美子先生ご夫妻の翻訳なさったエルンスト・カッシーラーの著作『言語と神話』を読んで、トールキンの神話の創造との類似性に気がついていたところでした。 ところが、資料を集めているうちに、アメリカの研究者Verlin Flieger女史も既にそのことに気づき、著書を出していたことに気づきました。幸いなことに、その珍しい研究書は当時の母校の大学図書館に収蔵されておりまして、私はそのペーパーバックの研究書を、文字通りぼろぼろになるほど何度も読みました。 その本を通じて、トールキンの朋友であり、これまた児童文学の古典的名著『ナルニア国物語』の著者であるC・S・ルイスにはオーウェン・バーフィールドという親友がおり、ある意味、ルイスよりもトールキンに影響を与えたらしいということを知らされたのです。バーフィールドには『詩語』という書物が、特にカッシーラーの考察と重なる部分を含んでいました。また、トールキン、ルイスたちの交友関係を記した『インクリングズ』という伝記的書物には、トールキン自身の言葉として、バーフィールドの本を読むともはやその本を読む前の自分の考えに戻ることはできなくなる、といった主旨の言説を吐露していることが記されていました。 いずれにせよ、私は、Fliegerが余り強調しなかった、トールキンの言語学的な創作に力点を置いて卒業論文を書き上げることにしたのです。それが、現在の私の研究態度を決定づけました。 すなわち、文献学者としてのトールキンの言語と神話を扱う研究へと進むことになったのです。 今回の講演では、90分という時間の中で、入門的な部分、理論的な部分に時間を割いたため、予定していた「映画の中のエルフ語」の部分について、具体的にお話しする時間がなくなってしまいました。けれど、質疑応答の中で、ある聴衆の方には短くお話ができたことは多嘉とすべきでしょう。 また、消防法のため会場の定員があり、早くに申込が殺到して、定員を満たしてしまったため、多くの方々に御来場をお断りすることになってしまったと伺いました。 御来場戴けなかった方々には、申し訳御座いませんでした。 なお、御来場戴けなかった方々のために、講演内容については、日比谷図書文化館の写真入りのブログ記事によくまとめられております。 下のリンクを参照なさってください。 最後になりましたが、日比谷図書文化館企画課の佐々木様には大変お世話になりました。 佐々木様は、なんと以前、私が母校で教えていた時期の教え子でもあったということ。 負うた子に助けられた気持ちで感謝申し上げます。 また、都内での講演ということで、私が学部生だった頃のゼミの先輩方も聴講にいらして下さいました。嬉しい驚きでした。ありがとうございます。

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