イベント
レポート
高大連携哲学演習 世界の古典に学ぶ人生の鍵
2024年10月14日開催
2024年10月10日更新
レポートをみるイベント概要
古典は私たちに多くのことを教えてくれます。現代の日本とは遠くかけ離れた古代インドと古代ギリシアの智慧を学びながら,生きることの価値をどのように考えればよいのか,を議論する企画です。今回は,信州大学人文学部の1~2年生,長野県立大学の大学生,長野吉田高校,松本県ヶ丘高校の高校生が参加予定です。中島隆博(編)『扉をひらく哲学』(岩波ジュニア新書),ロイ・ペレット『インド哲学入門』(ミネルヴァ書房),アリストテレス『ニコマコス倫理学』(岩波文庫)のなから関連する箇所を選び,その内容をめぐる討議を行います。
開催日 | 2024年10月14日 |
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時間 | 8:50-12:20 |
会場 | 長野県立大学 |
参加対象者 | 学生 |
参加料金 | 無料 |
参加者数及び内訳 | 信州大学学生7名(人文2年生2名,1年生5名),長野県立大学学生12名,長野吉田高校生徒1名,松本県ヶ丘高校生徒4名,教員4名 |
イベントレポート
10月14日,長野県立大学F21教室にて,高大連携哲学演習が行われました。今回は「古典に学ぶ人生の鍵」をテーマにしてインド哲学,ギリシア哲学の古典を読みながら,そこから現代の私たちの生き方にかかわるメッセージをくみとることを目標としました。
8時50分に集まったメンバーは,馬場智一先生(長野県立大学),川住賢太先生(長野吉田高校),壬生花菜先生(松本県ヶ丘高校),護山真也(信州大学)の四名の教員それぞれに割り振られた4グループに分かれます。最初に『扉をひらく哲学』(岩波ジュニア新書)におさめられた中島隆博氏の「過去からの贈り物」を音読し,古典の意義についてディスカッションするところからはじまりました。意見交換するなかで,未来から見たら今私たちがこうして話をしたりしている内容も古典になるのかもしれない,という意見も出ました。この議論の瞬間も人間の知恵の継承につながっているのだと思うと,感慨深いものがあります。
次に,ロイ・ペレット『インド哲学入門』(ミネルヴァ書房)より,「価値」の箇所を読みながら,古代インドにおけるプルシャ・アルタ(人間の生の目的)についての考え方を学びました。信州大学2年生の梅津知咲さんは「インド哲学における「人間の生の目的」」の発表で,アルタ(経済的利益の追求)よりもカーマ(性愛)を上位におき,カーマよりもダルマ(倫理的規範に従う生き方)を上位におく,さらにその最上位にモークシャ(解脱)を考える古代インドの人生観を紹介し,「私たちにとって生きる目的は究極的には一つになるのか,それとも複数あるのか」という問題提起をしました。これに対して,複数あるという答えがある一方で,最終的には自分の愛する人たちが平和的に生きるという目的に収れんすると思うという意見もありました。
同じく信州大学2年生の村上恵七さんは「「ダルマと解脱」の捉え方」の発表をし,解脱をなにものにも囚われない自由と定義して,そのような自由の実現には,倫理的な生き方(ダルマ)を行うことが条件になるのか,それとも二つは本来は無関係なのか,という点に関するインド哲学の議論をまとめました。村上さんの両者の関係についてどう思いますか,という問いかけに対して,各グループで熱心な議論がなされました。
休憩をはさんで,後半では馬場先生によりアリストテレス『ニコマコス倫理学』(岩波文庫)が教える享楽的な生き方,政治的な生き方,観照的な生き方の違いについて解説いただいたのち,各グループで同書第一巻第五章,第十巻第7章の音読とディスカッションを行いました。観照的な生き方が「神的」なものであり,普通にはなかなか実現できないとされていることは,どこか解脱についての議論とも重なるところがあります。また,享楽的な生き方が低く位置づけられるのに対して,インド哲学のカーマには積極的な意味が与えられていました。ダルマのことを考えるとき,徳(アレテー)をめぐる議論は,また考えるヒントを与えてくれます。インド哲学とギリシア哲学の親近性と相違点を考えるうえで,興味深い資料でした。各グループでも,前半の議論をひきずりながら,「徳があっても不幸になることがあるのか?」「名誉はそれを与えられる人よりも,それを与える人にかかっている,ってどういうこと?」などの疑問を出しながら,自分たちなりの意見が出されました。高校生も積極的に自分たちの考えを表明していた姿が印象的でした。
最後は,各グループでこれまでの議論を振り返り,一つの問いを自分たちで作り上げて,それに対するディスカッションを行いました。3時間半という時間があっという間に感じられる,密度の濃い話し合いができたと思います。参加した信州大学の学生からは,「哲学というものは我々個人のものではなく,集団として,誰かと関わるためのものとして必要なものであるという発見があり
参加していただいた学生の皆さん,ご協力いただいた馬場先生,川住先生,壬生先生に心より感謝申し上げます。