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山田明義准教授が参画する共同研究グループ(代表:基礎生物学研究所)がホンシメジのゲノム解読により樹木との共生初期のゲノムの特性を明らかにしました

研究

図1:菌類の系統関係と生態様式 外生菌根菌は腐生的な祖先からいくつもの系統で独立に進化したと考えられている。
図1:菌類の系統関係と生態様式 外生菌根菌は腐生的な祖先からいくつもの系統で独立に進化したと考えられている。
図2:ホンシメジとその菌根 「食用キノコとして馴染みの深いホンシメジの子実体(左)と、今回解読したAT787株の外生菌根(中央)及びその横断切片(右)」
図2:ホンシメジとその菌根 「食用キノコとして馴染みの深いホンシメジの子実体(左)と、今回解読したAT787株の外生菌根(中央)及びその横断切片(右)」
図3:ゲノムサイズおよびリピート配列の比較 ホンシメジAT787株(赤)は、他の菌根菌(黄色)と比べてリピート配列の少ない非常に小さなゲノムとなっており、腐生菌(青)に近い特徴を持っている。
図3:ゲノムサイズおよびリピート配列の比較 ホンシメジAT787株(赤)は、他の菌根菌(黄色)と比べてリピート配列の少ない非常に小さなゲノムとなっており、腐生菌(青)に近い特徴を持っている。
図4(上):植物由来多糖類を分解する分泌性酵素の遺伝子数の比較 ホンシメジ(左:赤枠、右:赤)は非常に多くの酵素を持っており、他の菌根菌(黄色)とは大きく異なることが明らかとなった。図5(下):外生菌根菌ゲノムの進化のモデル ゲノムサイズの増大や多糖分解酵素の減少は共生に必要な性質ではなく菌根性への転換後に得られた特徴であると考えられる。
図4(上):植物由来多糖類を分解する分泌性酵素の遺伝子数の比較 ホンシメジ(左:赤枠、右:赤)は非常に多くの酵素を持っており、他の菌根菌(黄色)とは大きく異なることが明らかとなった。図5(下):外生菌根菌ゲノムの進化のモデル ゲノムサイズの増大や多糖分解酵素の減少は共生に必要な性質ではなく菌根性への転換後に得られた特徴であると考えられる。

信州大学農学部山田明義准教授が参画する共同研究グループ(基礎生物学研究所、進化ゲノミクス研究室、生物進化研究部門、信州大学、金沢大学、かずさDNA研究所)が、ホンシメジのゲノム解読により樹木との共生初期のゲノムの特性を明らかにしました。

食用キノコとして知られるホンシメジは、森林の樹木と共生して生活する「外生菌根菌」です。外生菌根菌は担子菌や子嚢菌などのさまざまな菌類のグループで見られ、木材や土壌などの有機物を分解する分解者として生活する「腐生菌」からそれぞれ独立に進化してきました。外生菌根菌は、ゲノムサイズの増大や多糖類分解酵素をコードする遺伝子数の減少など共通する特徴を持つことが知られていました。しかし、腐生菌から外生菌根菌への進化的移行に関わるゲノムの状態と共生性との関係はほとんど分かっていませんでした。今回、基礎生物学研究所の小林裕樹研究員(現:東京農業大学)、川口正代司教授、重信秀治教授ら、信州大学の山田明義准教授ら、金沢大学の西山智明助教、かずさDNA研究所の平川英樹主任研究員らを中心としたグループは、ホンシメジが共生を行う外生菌根菌でありながら自由生活性の腐生菌に近い生理活性を持つことに着目し、共生初期の進化を解明するため、信州大学で維持されているホンシメジ菌株のゲノムを解読しました。また、このゲノム情報を他の菌類のゲノムと比較解析することで、樹木との共生進化過程におけるゲノムの状態を明らかにしました。本成果は1月5日付でDNA Research誌に掲載されました。

【研究の背景】
キノコを形成する菌類には、木材や土壌などの有機物を分解する分解者として生活する「腐生菌(注1」と、生きている植物と共生することでエネルギー源を獲得する「外生菌根菌」があります。外生菌根菌は、植物の根と結び付いて栄養交換による相利共生を行う「菌根菌(注2」と呼ばれる菌類の一群で、密に枝分かれした植物の根を菌糸が覆う独特の外見を持った「外生菌根」という共生器官をつくることが特徴のグループです。外生菌根菌はマツタケやトリュフ、ヤマドリタケ(ポルチーニ)のようにさまざまな系統の菌類でみられ、これらは独立に腐生菌から共生性を進化させた、収斂進化(注3であると考えられています (図1)。

これまでの菌類のゲノム解析から、外生菌根菌は異なる祖先から独立に共生性を進化させてきた一方で、ゲノムサイズの増大や、植物細胞壁などの多糖を分解する酵素をコードする遺伝子数の減少などの共通した特徴をゲノムに持つことが知られていました。しかし、これらの特徴が進化の途上にある菌根菌においてどのように保持されているかはほとんど分かっていませんでした。
研究グループは本研究では、食用キノコとしても良く知られる外生菌根菌のホンシメジ(注4 (図2)に着目しました。が他の外生菌根菌と異なり、デンプンを分解して栄養とする能力を持ち人工培養が可能であるなど腐生菌に近い生理特性を持つこと、また形態的に見分けがつかないほどよく似ているが植物との共生能力を持たないハタケシメジという近縁種が存在することなどから、研究グループはホンシメジが外生菌根による共生性の進化途上にある菌類であると考え、たからです。そこで、信州大学で維持され、菌根共生性が確認されているホンシメジAT787株のゲノムを解読し、他の菌類と比較することで菌根菌ゲノムの初期進化について探りました。

【研究の成果】
外生菌根菌であるホンシメジAT787系統のゲノム配列を解読し、て他の菌類のゲノム情報と比較しました。その結果すると、今回解読したホンシメジAT787株は、他の菌根菌と比較してべてゲノムサイズが非常に小さく、繰り返し配列の増幅によるゲノムサイズの増大という一般的な菌根菌のゲノムの特徴を持たないことが分かりました(図3)。また、植物組織由来の多糖類を分解して栄養を得るための酵素遺伝子の数もが非常に多く、この点においても他の菌根菌と大きく異なっていました(図4)。したがって、これまで菌根菌に広く知られていたこれらのゲノムの性質特徴は、菌類が樹木と共生生活をするために必要なゲノムの進化ではなく、共生性を獲得した後に生じた変化であることがと推測されました(図5)。植物性多糖類を分解する酵素は植物の細胞壁を分解して細胞を傷つける可能性があるため、そのような酵素を減らすことが植物との共生に必要な変化なのではないかともいわれていましたが、今回の結果からみると、腐生菌では栄養の獲得に必要であった多糖類の分解酵素が菌根菌では共生によって不要となるために減少しているという可能性が高そうです。

また今回、本研究グループが解読したホンシメジAT787株と、理化学研究所が独自に解読して公開しているホンシメジJCM30591株のゲノム情報のを比較しましたを行いました。両菌株は多糖分解酵素遺伝子のバリエーションについては似通った傾向を示した一方、ゲノムサイズが大きく異なっていることが明らかとなりました。そのため、これらの菌株は同じホンシメジとしての形態的・生態的特徴を持ちながら、外生菌根菌としての進化段階が異なる状態である可能性があります。また、ゲノムサイズの大きく異なるこれらの菌株は、生殖的にも隔離された別種である可能性が高く、"ホンシメジ"と呼ばれる菌類が実際には複数の分化した種によって構成されていることも示唆されました。

【今後の展望】
本研究により、菌類が植物との共生性を進化させていく途上のゲノムの状態が明らかになりました。今後は、今回解読したゲノム情報をもとに、菌類が樹木との共生生活を始めるために必要な遺伝子を探索したいと考えています。
また、ホンシメジは人工栽培もされている食用キノコですが、その生理的特性が菌株ごとにばらつきがあることが知られており、培養上の問題点ともいわれています。今回解読したゲノム情報は、培養条件の最適化や有用系統の選抜など育種にも活用されることが期待されます。

【用語解説】
(注1 腐生菌: 木材や腐葉土など、環境中の有機物を分解して生育する菌類。
(注2 菌根菌: 植物の根と共生し、菌類が土壌から吸収したリン酸や窒素などの無機養分と植物が光合成で生産した糖類などを交換することで生活する菌類。菌根菌にはキノコをつくる菌類にみられ主にマツ科やブナ科などの樹木と共生する外生菌根菌や、草本植物を含めた広範な植物と共生するアーバスキュラー菌根菌などが存在する。
(注3 収斂進化: 異なる生物が、それぞれ独立に適応進化した結果、起源が異なるにもかかわらず類似した性質に進化すること。
(注4 ホンシメジ: 古くから「匂い松茸、味しめじ」と称されて食用に供されてきたキノコで、マツ科やブナ科などの樹木と菌根共生をする外生菌根菌。名前の似ている「ブナシメジ」は木材腐朽性の腐生菌で、同じシメジ科ではあるがシメジ属ではなくシロタモギタケ属の別種。

【発表雑誌】
雑誌名: DNA Research
掲載日: 2023年1月5日
論文タイトル: The genome of Lyophyllum shimeji provides insight into the initial evolution of ectomycorrhizal fungal genomes
著者: :Yuuki Kobayashi, Tomoko F. Shibata, Hideki Hirakawa, Tomoaki Nishiyama, Akiyoshi Yamada, Mitsuyasu Hasebe, Shuji Shigenobu, Masayoshi Kawaguchi
DOI: https://doi.org/10.1093/dnares/dsac053

【研究グループ】
基礎生物学研究所 共生システム研究部門(小林裕樹、川口正代司)、進化ゲノミクス研究室(重信秀治)、生物進化研究部門(柴田朋子、長谷部光泰)、信州大学(山田明義)、金沢大学(西山智明)、かずさDNA研究所(平川英樹)からなる研究チームによる研究成果です。

【研究サポート】
科学研究費助成事業 新学術領域研究「複合適応形質進化の遺伝子基盤解明」計画研究課題:『アーバスキュラー菌根共生系から根粒共生系への進化』のサポートを受けて実施されました。

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