高谷智英助教らグループ 糖尿病で悪化する骨格筋分化をオリゴDNAによって改善することに成功
オリゴDNAが糖尿病で悪化する骨格筋分化を改善
信州大学学術研究院(農学系)の高谷智英助教らのグループは、糖尿病で悪化する骨格筋分化をオリゴDNAによって改善することに成功しました。
骨格筋は、エネルギー代謝や熱産生などの多彩な機能を担う重要な組織です。しかし、一部の糖尿病患者では骨格筋量が減少すること、筋量の減少は死亡率と相関することが知られています。糖尿病患者では、骨格筋の元となる筋芽細胞の分化能が低下することが報告されており、これが筋量減少の遠因の一つではないかと考えられています。
高谷助教は最近、乳酸菌のゲノム配列に由来するオリゴDNA(短い一本鎖DNA)が、筋芽細胞内の標的タンパク質であるヌクレオリンと結合することで骨格筋への分化を促進することを報告しました。この「筋形成型オリゴDNA」(myoDN)は、様々な筋疾患に対する核酸医薬のシーズとして期待されています。本研究では、myoDNが糖尿病で悪化する筋芽細胞の分化を改善するかを検証しました。
実験では、健常者、1型糖尿病患者、および2型糖尿病患者から採取された筋芽細胞を用いました。健常者と比べ、糖尿病患者の筋芽細胞は骨格筋へと分化する能力が低下していました。しかし、myoDNを投与することによって、糖尿病で悪化した骨格筋分化が改善されました。また、糖尿病患者の血中で増加するグルコースや脂肪酸は筋芽細胞の炎症反応を誘発しますが、myoDNはこれらの炎症応答を抑制することもわかりました。myoDNは、糖尿病患者が合併する筋量の減少に有効な核酸分子であると考えられます。一方で、複数の筋芽細胞を用いた解析から、myoDNの効果には個人差があることがわかり、臨床応用に向けた課題も明らかになりました。
本研究成果は、2021年5月24日に国際学術誌Frontiers in Physiologyに掲載されました。
詳しい研究内容については以下をご覧ください。
URL:https://doi.org/10.3389/fphys.2021.679152
論文タイトル:Myogenetic oligodeoxynucleotide (myoDN) recovers the differentiation of skeletal muscle myoblasts deteriorated by diabetes mellitus
著者:Shunichi Nakamura1, Shinichi Yonekura2,3, Takeshi Shimosato1,2,3, Tomohide Takaya1,2,3*(*責任著者)
著者所属:1Department of Agriculture, Graduate School of Science and Technology, 2Department of Agricultural and Life Sciences, Faculty of Agriculture, 3Department of Biomolecular Innovation, Institute for Biomedical Sciences, Shinshu University, Nagano, Japan.