令和6年度「高冷地域植物生産生態学演習」を実施しました
1.演習名
「高冷地域植物生産生態学演習」
2.演習の目的
野辺山ステーションおよび構内ステーションで栽培される多くの園芸作物を教材に、近隣のJA施設、 農家見学、加工実習などを通して、高冷地域における作物の栽培から収穫・出荷までを重点的に学ぶ。
3.実施日
令和6年8月19日(月)~8月22日(木)
4.実施場所
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
野辺山ステーションおよび構内ステーション
5.担当教員
春日重光教授、今井裕理子助教、椎葉湧一朗助手
6.参加人数
44名
7.演習内容の概要
【1日目】
午前中に野辺山ステーションに到着し、野辺山の農業や複合農業について講義を行った。午後は川上村にてズッキーニ農家およびJA長野八ヶ岳の集荷場を見学し、ズッキーニ農家の油井氏よりズッキーニ生産について、JA長野八ヶ岳の大槻指導員より集荷場について説明を受けた。その後、野辺山の飯盛山を登頂しながら高山植物や植生を観察した。
【2日目】
終日、キャベツの収穫と出荷のための調整作業を行い、出荷作業を行った。作業を終え、15時半に伊那キャンパスに向けて出発した。
【3日目】
午前中は松川町の信州まし野ワインを見学した。社長の宮沢氏より醸造施設、有機果実生産と堆肥製造について説明を受けた。
午後は構内農場でブロッコリーの定植、ハクサイの播種、果菜類の収穫(ナス、ピーマン)、葉菜類栽培圃場における汚泥施用の効果調査(雑草量の調査)を行った。3反復乱塊法にて雑草量を調査し、生および乾物重を測定した。その結果、汚泥施用区で明らかに雑草量が少なかった。
【4日目】
午前中は南箕輪村にある中道農園を見学した。社長の中道氏より、イチゴ農家になるまでの経緯や課題などについて説明を受けた。その後構内農場にて洋ナシの収穫・除袋・予冷を行った。
午後はシクラメンの葉組を行った。最後に授業アンケートおよびレポートの作成を行った。
今回の演習では、野辺山ステーションで行った前半でズッキーニ農家とJA長野八ヶ岳、構内ステーションで行った後半で信州まし野ワインと中道農園の見学を行った。ズッキーニ農家と中道農園の2戸の農家見学を行うことで、農家の現状と課題、そして今後の取り組みなど、実際の農家の声を聞くことができた。
8.成果
8.1.全体的な評価
今回の演習内容について、演習の楽しさに関して大変満足が参加者の73%、満足が25%、普通が2%(図1左)、また有益さに関して大変有益が参加者の84%、まあまあが16%(図1右)と全体的な評価は高かった。大学内だけではなく、実際に農家へ赴き、栽培方法や技術の違いを学べたとの声が非常に多かった。さらに、高冷地の気候や農業について学べたなど、全体的に、大学内でできない見学や作業等を実際に現地で体験できたことが高評価であった。また、コース内の仲も深まったとの声もあり、宿泊や食事を共同で行ったことがこれらの結果に繋がったと考えられた。
8.2.各演習内容について
各演習内容についても、それぞれ大変満足が最も高く、不満、大いに不満はなかった。話や講義で知り得た知識を、実際に作業として反映させることができたのではないだろうか。特に、生産農家と出荷場の見学、高冷地作物の収穫・出荷作業、野菜・果樹類の収穫の満足度が高かった。また、1種類だけでなく、複数の多種多様な農家さんに話を聞けたことも高い満足度を得た理由として挙げられた。しかしながら、作業時間が午後の暑い時間に重なってしまったことが満足度をやや下げた結果となったため、演習内容の順番を変えてみるなどの改善点が必要であると考える。
8.3.演習後、興味関心が増した事
演習後に興味関心が増した事については高い順に、農業32%、高冷地27%、食料12%、野菜11%、環境9%、その他(加工、販売、農業に関わるお金、農業政策、有機農業)6%、家畜3%という回答結果になった(図3)。高冷地を活かした農業や、農家の現実問題に興味関心が増し、もっと知りたいとの声もあった。また、植物だけではなくウシやヒツジなどの家畜についても興味が増したという声も若干あった。農家の現実問題では、出荷する生産物の変更、外国人実習生の雇用、栽培法の工夫などに興味を持ち、環境問題にも関心が増したとの声も多く、幅広い分野に関して興味関心が増したようであった。
9.今後の予定と改善点
本演習では、高冷地域における農業の現状や環境、課題について様々な視点から知り、考えることを目的として実習内容を組んでいる。しかし、今年は猛暑が激しく、作業や農家・ワイナリー見学で暑さが辛いという学生が多かった。そのため、来年は話を聞く場所を変更したり、作業時の暑さ対策をする必要がある。また、野辺山の植生調査などで使用する運動靴などを忘れた学生もおり、事前に演習内容を詳しく知らせることで忘れ物防止や、事前の暑さ対策もできるのではないかと考えた。本演習は植物コースの学生を主体にしているが、中にはウシやヒツジの餌やりをしたいという学生も若干名いたため、少しでも動物と触れ合う演習内容を入れるなど、充実していきたい。