令和6年度「高冷地域動物生産生態学演習」を実施しました
1.演習名
「高冷地域動物生産生態学演習」
2.演習の目的
高冷地野菜の収穫技術および作物の残渣利用、牛の行動調査や飼養管理、畜産物の加工、近隣の畜産関連施設見学を通して、高冷地域における畜産と耕畜連携について学ぶ。
3.実施日
令和6年8月26日(月)~8月29日(木)
4.実施場所
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
野辺山ステーションおよび構内ステーション
5.担当教員
今井裕理子助教、上野 豊准教授、椎葉湧一朗助手
6.参加人数
40名
7.演習内容の概要
【1日目】
演習の前半(1日目・2日目)は野辺山ステーションで実施した。午前中は講義形式で野辺山地域の気候と特徴、高冷地農業として高原野菜生産システムと複合農業について学んだ。午後は近隣の牧場主による酪農経営に関する講義を受けた。その後、野辺山ステーション内の放牧地で黒毛和種繁殖雌牛の行動観察を行い、取得した行動データをもとに高冷地域の環境が牛の行動に及ぼす影響について考察した。また、夕食後にはシカの食害および野生動物の調査方法であるライトセンサス法に関する説明を受けた後、実際に採草地でライトセンサス法のデモンストレーションを行った。
【2日目】
午前中はキャベツの収穫と出荷のための調整作業を行った。午後は野辺山・八ヶ岳の植生調査を行う予定だったが、悪天候のため獅子岩周辺を散策した後、伊那キャンパスへ帰学した。
【3日目】
演習の後半(3日目・4日目)は講内ステーションで実施した。午前中は上伊那農業高校を訪問し、キノコ廃菌床を使った牛用飼料開発や獣害対策としてのジビエ推進(シカ肉の加工利用)に関する取り組みについて説明を受け、高校生との意見交換を行った。また、牛の飼養管理の一環としてブラッシングなどを行った。午後は、飼料用トウモロコシと食用トウモロコシの形態的な違いを観察し、食用トウモロコシの収穫後の残稈を牛のエサとして利用するための刈取り作業を行った。また、ボロ出し作業と牛舎周辺および放牧地内の雑草除去を行った。
【4日目】
午前中は、乳製品加工としてチーズができる原理を学んだ後、モッツァレラチーズの製造を行った。午後はレポートの作成を行った。
8.成果
8.1.全体的な評価
今回の演習内容について、演習の楽しさに関して大変満足が参加者の70%、満足が22%、普通が5%、無回答が3%(図1左)、また有益さに関して大変有益が参加者の70%、まあまあが25%、あまりが2%、無回答が3%(図1右)と全体的な評価は高かった。
野辺山で高冷地域の環境を体感できたこと、家畜の行動観察や高冷地野菜の収穫、乳製品加工など初めて行う内容が多かったこと、普段行くことがない場所や施設(野辺山や上伊那農業高校)を訪れ、普段聞くことのない農家さんの話を聞けたことを有意義な経験だったとして挙げる回答が多かった。また、演習全体を通じて仲間と長時間過ごし、演習や食事作りなど協力する場面が多く仲が深まったという回答も多くみられ、これらが楽しさや満足度の高さに繋がったと考えられる。
8.2.各演習内容について
各演習を通して、様々な人から話を聞き、実際に体験することで、「新たな発見や知識を得られた」「興味を持つことができた」という回答が多くみられた。天候不良により予定通り実施できなかった高冷地の自然観察は他の項目に比べてやや満足度が低くなったが、小雨の中で実施したキャベツの収穫については、「大変だったが、やりがいがあった」「体験できてよかった」との感想も多く、自然環境と向き合いながら農業を行う大変さを学ぶ機会になったと考えられる。乳製品(チーズ)加工については、班ごとに協力して作り上げたチーズが美味しかったことが成功体験となり、高い満足度が得られたようである。
8.3.演習後、興味関心が増した事
演習後に興味関心が増した事については高い順に、家畜27%、高冷地18%、食料14%、野菜12%、農業11%、環境11%、ない4%、その他(野生生物、野生動物)3%という回答結果になった(図3)。
家畜については、行動調査を通じて家畜の生態や行動に面白さを感じたという理由が多かった。また、シカの農業被害の実態や上伊那農業高校生による鹿肉加工の取り組みを知ることで、農業、食料、環境について関心が深まったという回答が得られた。本演習の履修者は動物コースのカリキュラムで学んでおり、元々動物や家畜に対する興味関心が高い傾向にあるが、普段の実習では行わない野菜の収穫作業を通じて農業における労力や天候との戦いなど実感し、農業や野菜への興味が増した学生もいた。
9.今後の予定と改善点
本演習では、高冷地域における農業、環境および動物の関わり合いや現状、課題について様々な視点から知り、考えることを目的として実習内容を組んでいる。アンケート結果では、幅広く学べたことに対する満足と同時に、各演習内容についてさらに知りたい、興味が増したといった感想が多くみられ、農畜業や環境に対して興味関心を持つための導入として演習目的が果たされたと思われる。また、昨年度は作業が体力的に辛かったという感想が散見されたことから、余裕を持たせたプログラムづくりと作業前の丁寧な説明を心掛けた。このため、一日のスケジュールが適切な分量であった、それぞれの内容が非常に理解できたという感想が得られた。
今後の改善策として、天候によって左右されてしまう自然観察等の演習内容について、雨天時の内容を拡充することで対応していきたい。