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令和5年度「山岳環境保全学演習」を実施しました

お知らせ演習林系の実習

木曽駒ケ岳山頂での山岳地形の観察 ※ 熱中症予防のため,休憩時や危険のない場所ではヘルメットを一時的に外している。
木曽駒ケ岳山頂での山岳地形の観察 ※ 熱中症予防のため,休憩時や危険のない場所ではヘルメットを一時的に外している。
主稜線上(馬の背)での登山道沿線の観察
主稜線上(馬の背)での登山道沿線の観察
西駒山荘での天気図作成
西駒山荘での天気図作成
西駒山荘周辺でのゴミ拾い活動
西駒山荘周辺でのゴミ拾い活動
西駒演習林の最高地点(将棊の頭)にて
西駒演習林の最高地点(将棊の頭)にて

1.演習名
「山岳環境保全学演習」

2.授業の達成目標
日本アルプスをはじめとする山岳・山地に恵まれた信州という実際の現場において,初歩の種同定から,フィールドワークの実践,記録から取りまとめまでを一貫して身に付ける。

3.実施日
受講希望者が定員を超過したため,感染予防・安全上の理由と,受講の機会をなるべく奪わないようにという配慮から,2回に分けて開講することとした。
(1)2023年8月29日(火)~9月1日(金)
  3泊4日(夏季集中・学外対象)
(2)2023年7月29日(土),8月5日(土)
  オンライン事前・事後学習(前期・農学部学生対象)

4.実施場所
(1)信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)西駒ステーション,構内ステーション
(2)AFC西駒ステーション(桂小場~しらべ平),手良沢山ステーション

5.実施概況
(1)夏季集中実習(学外対象)

【実習の概要】
コロナ禍により公開森林実習として開講できなかった期間(2020年,2021年)をへて,2022年に山岳環境保全学演習を開講した。このときには感染拡大防止対策で学生宿舎の利用を制限したため,遠隔から受講する学生には大学近辺の民間宿泊施設を斡旋し,学生の宿泊施設から大学までの往復を公用車で送迎した。また,受講生には新型コロナウィルスの抗原検査キットを郵送し,陰性であることを確認した上で実習に参加していただいた。さらに,毎回実習前に検温と消毒を実施した。

2023年には,新型コロナウイルス感染症が全国的に規制対象でなくなり,信州大学の施設・バス等の利用制限も緩和されたため,実習初日と3日目にはAFC演習林の桂小場学生宿舎を利用した。

受講生は6名。実習指導は荒瀬輝夫,小林 元の両准教授と宮本裕美子助手の他,2名のTA(信州大学農学部の4年生4名,修士4年生4名)を加えて実施した。

【1日目】
初日は食と緑の科学資料館「ゆりの木」にて実習のガイダンスと講義を行い,西駒演習林の自然紹介,中央アルプス登山の歴史,山岳環境について概説した。また,高山でみられる鳥類,哺乳類の生態,調査法について説明した。講義後に翌日のスケジュールの確認を行った後,桂小場学生宿舎へと移動し,必要な装備・物品等の確認をおこなった。

【2日目】
2日目は7時に桂小場学生宿舎を出発し,学バスにて駒ヶ根市の菅の台バスセンターに移動して,路線バスとロープウェイを利用して千畳敷駅(標高2,612m)まで達した。千畳敷のカール内の登山道ぞいで高山植物の説明を1時間ほど行った。その後,登山道を進み,乗越浄土で主稜線に登り詰め,中岳を経由して,木曽駒ヶ岳の山頂に至った。稜線上は一般に風が強く危険を伴うものの,この日はほぼ晴天で風も弱かったため,そのまま主稜線を北方向にたどって,西駒山荘に向かった。途中,聖職の碑(大正時代の遭難記念碑)を見学することができた。西駒山荘には15時半に無事到着した。

【3日目】
3日目は西駒山荘にて管理人の宮下拓也氏の熱心な指導の下,天気図の作成を3時間余りかけて行い,今後の天候について検討した。その後,山小屋をめぐる諸問題の体験活動として,西駒山荘周辺のゴミ拾いを実施し,地面に半ば埋もれた古い金属・ガラス・プラスチック等のさまざまなゴミを収集することができた。11時ごろに西駒山荘を後にした。ひきつづき天候に恵まれたため,予定どおり下山ルートとして演習林内の登山道(丸尾根ルート)を進み,温暖化試験地,固定試験地の見学・観察を実施した。しらべ平に14時過ぎ,桂小場学生宿舎に16時過ぎに帰着した。

【4日目】
最終日は9時に桂小場学生宿舎を出発して食と緑の科学資料館「ゆりの木」に再び集まり,高山,亜高山帯も森林生態についての講義とレポート作成を行った。最終日のレポート作成時にあわせて,受講者にアンケートに協力していただいた。アンケートの内容は,各実習内容についての満足度と有益さを評価と,演習参加後,興味関心が増大したこと,その他の感想・意見・要望等の自由記述である。

【成果と課題】
受講者全員からアンケートの回答が得られ,わずかに「普通」という回答も見られたものの,概ね「大変満足~満足」「大変有益~まあまあ有益」という回答が圧倒的であった。とりわけ,「動植物の調査・観察」は全員が最高評価で,ついで「山小屋問題」の評価が高く,おそらく受講者それぞれが自分のペースで観察・体験できたことが効果的だったのではと思われる(図1)。

評価の理由として,以下のようなコメントが寄せられた。

(動植物の調査・観察)
・コマクサやヒカリゴケなど「いつか見てみたい」と思っていた植物を見ることができた。先生だけでなく生徒も植物に詳しく,良い刺激になった。
・今回新たに知ったものがたくさんあった。もっと知りたい。

(登山道の維持管理)
・道の維持の大変さを感じることができた。
・どのように管理されているのか分かった。

(天気図作成)
・自分の天気図がきちんと書けているか分からなかったので,フィードバックがあるとありがたい。
・分かりやすい説明で,実際の登山で参考になると思った。
・とても難しかったが,天気図の見方が変わった。

(山小屋問題)
・山小屋で働く方の話を聞けて良かった。
・西駒山荘の皿ふきやトイレ,ゴミ拾いは参考になった。
・ゴミやトイレの問題などを自分で体験できた。

(講義)
・普段何気なく見ていた地形や風景(主に植生)について,なぜそうなるのか少し考えることができるようになったと感じた。
・西駒ケ岳の生物の生態について詳しく知ることができた。
・講義の内容と,実際のフィールドがリンクしていて深い学びになった。

図1)各実習・講義の楽しさと有益さ.jpg

また,演習参加後,興味関心が増大した事(複数回答)については,「山岳・登山」,ついで「野生動植物」を挙げた回答が30%前後と多かったが,「気象(天気図)」「山小屋問題」も20%前後で(図2),「ない」という回答はなかった。各実習での興味・向学心を喚起する学習効果に,あまり偏りはなかったことが読み取れる。

図2)興味関心が増大したこと.jpg

要望・改善点についてのコメントは少数であった。「沢の付近などで,声が少し聞こえにくい時があった」という意見については,安全管理の面から,拡声器や携帯型ホワイトボードの使用など,今後改善する必要がある。桂小場学生宿舎の調理器具が乏しい(フライパンや中華鍋があると料理の幅が広がる)という声についても,今後検討したい。

写真6)亜高山帯の温暖化試験地での見学と解説.jpg

亜高山帯の温暖化試験地での見学と解説

(2)前期開講実習(農学部学生対象)

【実習の概要】
当初,農学部学生だけでも39名の履修登録があり,2年生には(まだ受講できる機会が複数年あるということで)事情を説明して受講をあきらめてもらい,3年生以上(当初22名,4名が事前に辞退したため18名)が受講することになった。

また,8月~10月前半には他の実習がすでに予定されていて開講が困難であり,開催時期は前期授業期間の末(7月下旬~8月初旬)の土日で調整し,現地実習を2日間(日帰り)とした。加えて,オンラインによる事前学習と事後学習(自習と課題レポート作成)を行うことで,計4日間分の内容とする形をとった。

野外実習は荒瀬輝夫・小林 元の両准教授と宮本裕美子助手が担当し,1名のTA(信州大学農学部の修士1年生)を加えて実施した。

【1日目:事前学習】
山岳環境についての講義資料を提示して,「森林限界」「積雪の挙動」に関する課題レポートを出題し,自習とレポート作成に取り組んでもらった。

【2日目:西駒演習林での現地実習(7月29日)】
7時に農学部玄関前集合,学バスで桂小場学生宿舎(標高1,230 m)に移動し,林道終点から登山道に入り(途中,小黒川の渡渉あり),西駒管理事務所(ひのき小屋,標高1,420m)まで進んだ。そこからは演習林内の登山道(水無坂ルート)に入り,伊那谷を展望できる尾根上(望学台,標高1,800m)に達した。

当初,望学台から「しらべ小屋」(標高1,950m)をへて主稜線上の一般登山道との合流点(信大分岐,標高2,100m)まで往復するスケジュールであった。しかし,脚の痛みを申し出た受講者がいたため,休憩をとって体調を見守り,本人の意思も確認して,しらべ小屋までで登山を打ち切ることを決定した。しらべ小屋は平坦な開陽地(ヘリコプターが着地可能)で,小屋の他にトイレがあり,直下に沢があるため水の補給が可能であることが,望学台で引き返すことを避けた理由である。しらべ小屋には13時ごろ到着し,ここで昼食と長めの休憩をとった。

14時ごろに下山を開始し,往路と同じルート(水無坂)をたどった。桂小場学生宿舎には16時頃に到着し,学バスで農学部まで移動した。実習のまとめと次回の予告をしたあと解散した。

見学内容は,山地帯上部~亜高山帯の植物(コメツガ,シラビソ,ネズコ,ナナカマド,ダケカンバ,ミズメ,ヤマブドウなど)と森林植生と土壌,登山道(ササ管理等)などであった。また,西駒演習林も含めて中央アルプス一帯で道に迷って遭難する案件もあることから,迷いやすい地点や,登山に必要な装備・準備・歩き方・心得などについても解説した。

【3日目:手良沢山ステーションでの現地実習(8月5日)】
9時に農学部玄関前集合,バスで手良沢山ステーション(9時半ごろ着)に移動した。

午前中には,地図読み演習として,演習林管理棟を出発して林道(野田ヶ沢線・中通線)を進み,途中で谷(大倉クボ・作業道の痕跡が残る沢筋)を下り,沢山林道に出て出発地点へと戻るというコースを移動し,要所で現在地を把握させ地図上にルートを記入させた。出発地点の演習湯林管理棟前の緑地で昼食休憩をとった。

午後には,資源植物の調査・観察として,林道(おもに沢山林道とコガヤ沢線)を歩きながら食用・薬用資源植物(マタタビ,ウバユリなど)や有用樹種(クロモジ,コウゾ,ツノハシバミなど)を観察した。また,シカの獣道やクマの爪跡,獣害対策(植林地の樹皮剥ぎ防止など),林道維持のための排水施設についても見学・解説した。15時半ごろに帰路のバスに乗車し,16時ごろに農学部に帰着した。

【4日目:事後学習】
課題レポートとして,中央アルプスでの実習について(①行動記録,②山岳環境の保全)と,手良沢山での実習について(里山の保全)のテーマを出題し,3日目までのふりかえりと自習・レポート作成に取り組んでもらった。

【成果と課題】
受講者18名中,事前学習レポート未提出者が1名おり,メールで連絡をとって参加意思がないことを確認した。残り17名については,全員,事前学習の課題,現地実習2日間参加,および事後学習の課題まで,すべての内容に取り組んだ。

前期授業期間の期末試験にかかる時期に開講しており,かつ,梅雨明けから盛夏という時期だったため,学生実習の開講時期としてはあまり快適ではなかった可能性がある。今回,脚の痛みを申し出た学生は,装備等に問題はなかったものの,スポーツで過去に痛めた傷が原因とのことで,予想外のやむをえない事態と思われる。

ただ,例年,農学部学生対象の実習では,おそらく同じ農学部内の身近な実習ということから,一部の学生が気軽な感覚で(装備・体調を準備万端に整えずに)参加するケースが見受けられる。授業運営側が安全管理を徹底していても,フィールドでは危険がつきもので,体力も消費する。履修登録段階で充分な準備が必要であると学生に伝わるよう,シラバスや受講案内を再検討したい。

写真7)西駒登山口にて.jpg 写真8)地図読み演習.jpg
(左)西駒登山口にて(7月29日)/(右)地図読み演習(8月5日)

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