令和5年度「農林フィールド基礎実習」を実施しました
1.演習名
「農林フィールド基礎実習」
2.実習目的
農林業や緑地管理とかかわる植生や植物ついての基礎的素養と,調査・観察するための着眼点および方法を習得する。植物以外の野生生物や地形,河川などについても基礎的な知見を身につける。これにより,自然環境を多角的な視野でとらえる素養や,今後の各種フィールドでの活動に必要とされる地図読み能力と安全確保の意識も身につける。
3.実施日
令和5年9月30日・10月1日,10月7日・8日 4日間(土・日×2回)
4.実施場所
①9月30日・10月1日
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
構内ステーション,農学部近郊(戸谷川)
②10月7日
箕輪ダム,東山山麓,箕輪町郷土博物館(上伊那郡箕輪町)
③10月8日
AFC西駒演習林
5.担当教員・講師
教員3名(荒瀬輝夫准教授,岡野哲郎教授,内川義行助教)
ティーチング・アシスタント1名(信州大学農学部・大学院修士1年生)
6.参加人数
全4名
7.実習開催の経緯
令和5年度には,新型コロナウイルス関する制限が大幅に緩和された状況下であったが,ひきつづき,感染予防に配慮しながら開講した。
なお,3日目の「森林と農地のつながり」では,例年,野外での実習・見学だけでなく,地域拠点の箕輪町郷土博物館での見学・解説を実施していた。しかし,改修工事で令和5年度は閉館中であったための,残念ながら博物館見学を含まない実習内容となった。
8.実習スケジュール
受講者向け「受講案内」(9月12日版)の授業計画を,予定通りに実施した。
9.成果と今後の課題・展望
(1)実習の成果
受講者4名のうち,1名はやむをえない事情(就職先での内定式)で2日目を欠席した。もう1名は,3日目の夜に体調不良(発熱)について連絡があり,翌朝に改めて連絡を取り合って体調を確認し,本人の意思確認のうえ,残念ながら最終日の4日目を欠席する判断をした。
天候は2日目のみ不安定(くもり~小雨)で,室内で解説する時間を調整(気象庁の雨雲レーダー等のサイトを確認)して野外に出るようにしたため,午前・午後とも雨による支障を概ね避けることができた。
実習を通して受講者に緊張疲れや戸惑いや様子は見受けられず,最後まで熱心に聴講・実習に取り組んでいた。実習中に危険回避や感染予防について注意喚起が必要になるような場面もなく,実習予定時間の短縮や休憩時間の延長などの措置も講じずに済んだ。これには,受講学生の前向きな姿勢や関心の深さと,ティーチング・アシスタントの本学学生のサポートの寄与も大きい。
なお,4日中1日欠席の2名については,後日,欠席した回の当日配布資料を渡す配慮をおこなった。4日中3日出席して実習に充分取り組んだということで,2名とも,修了証を授与した(最終日の4日目欠席の学生については,資料・修了証をあわせて郵送)。
(2)実習アンケート
実習アンケートについては4日目終了時に(欠席の1名については後日メールの添付ファイルとして),開講内容についての評価(満足度と有益さ),意見や要望等の自由記述を受講者に記入・提出してもらった。回答率は100%であった。
回答者数が4名と少ないため概況に留めるが,「森林と樹木の見方」「鳥類調査」「農地・緑地と草本植物の見方(植生図)」「資源植物の採集と調査」「地図読み演習」「森林と農地のつながり」のいずれについても,「大変満足~満足」「大変有益~まあまあ有益」という評価をいただいた(図1)。
なお,「無回答」(各1名ずつ)は,出席したのに回答しなかったのではなく,欠席したことを示している(欠席した内容については記入せずに空欄で,と説明したため)。
評価の理由として,以下のようなコメントが寄せられた。
【森林と樹木の見方】
・短時間で多くの知識を得ることが出来たように思う。身近に存在する樹木が親しみやすかった。
・今まで知っていた樹木についても,新しい知識を得ることができた。
【鳥類調査】
・鳥類のさえずりの判別はとても難しく受動的な参加となってしまったが,鳥類調査の実践それ自体は良い経験になったと思う。
・実際の調査では鳥の種類が分からなかったことが悔やまれるが,鳥のさえずりに興味を持てるようになった。
【農地・緑地と草本植物の見方(植生図)】
・「森林と樹木の見方」と合わせて,森林の見方は以前よりもよくなったと実感している。植生図作成もよい経験となった。
・環境と樹種の関係がよく分かった。
【資源植物の採集と調査】
・歩きながらの説明が非常によかった。たくさんの実を食べられたのも良かった。
・山に入っても今までは食用の植物が分からずただ歩いているだけだったが,意外と食べられるおいしい植物が多くあり,とても有益だった。
【地図読み演習】
・普段,GPSばかり使うので,いい経験になった。
・現在地が分かると楽しかったが,読み取りの上達はできなかった。
【森林と農地のつながり】
・割ととっつきにくく感じていた林業だが,この業界が抱える問題についての理解が深まり,それらを解決していくための方向性が見えたような気がする。
・森林と農地で専門の先生がそれぞれの視点から解説してくださったのがとてもよかった。
・里山の見方が変わった。今後は人と山,農地の関係を意識してフィールドに出られそう。
また,演習参加後,興味関心が増大した事(複数回答)は,「自然環境」が最多(4名全員)で,次いで「農林業」「動物・植物」が多く,「河川・水路」は少数で,「ない」という回答はなかった(図2)。
理由について,「ちょっとした知識の差で周りの見方,考え方は大きく変わること」や「すべてのつながりを意識して勉強する重要性」を認識した,といったコメントが寄せられた。4日間の実習が一連のものとして受け止められ,学習効果が得られたことがうかがえる。
(3)次年度に向けての課題・展望
実習アンケートでは,改善すべき点や要望などについてのコメントはとくになかった。少人数での実習のよさ(小回りが利き,野外でもコミュニケーションをとりやすい等)や,天候不順でも臨機応変に野外実習を実施したことが効果的だったものと考えられる。
また,信州大学農学部では演習林宿泊施設の利用が再開されたものの,手良沢山演習林の学生宿舎は改修工事中で利用できず,受け入れ態勢として不完全な状況にあった。その中で,今年度,着実に外部から4名の学生(とくに学部生については,今まで実績のなかった非農学系の大学)の受講があり,かつ,熱心に取り組んで好意的な評価もしていただけたことの意義は大きく,今後につながるものと期待される。
一方,今年度は開講5年目で,事前に例年どおり実習の広報と受講者誘致(長野県内のコンソーシアム大学向けにオンラインの実習紹介)を試みたが,残念ながら長野県内コンソーシアム大学からの参加者がなかった。この点については,広報活動だけでなく,情報収集やニーズの把握などを進めて対応を検討していくことが必要である。