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令和4年度「山岳環境保全学演習」を実施しました

お知らせ演習林系の実習

ロープウェイ千畳敷駅前の駒ケ岳神社
ロープウェイ千畳敷駅前の駒ケ岳神社
千畳敷での高山植物の観察
千畳敷での高山植物の観察
浄土乗越への登路
浄土乗越への登路
宝剣岳山頂
宝剣岳山頂
濃ヶ池
濃ヶ池
西駒山荘宮下拓也氏による天気図作成講座
西駒山荘宮下拓也氏による天気図作成講座
西駒山荘石室にて下山前の集合写真
西駒山荘石室にて下山前の集合写真
宝剣岳登山(極楽平にて)
宝剣岳登山(極楽平にて)
地図読み演習(手良沢山演習林・沢山林道にて)
地図読み演習(手良沢山演習林・沢山林道にて)
資源植物の解説(南又線にて・クスノ科低木)
資源植物の解説(南又線にて・クスノ科低木)

1.演習名
「山岳環境保全学演習」

2.授業の達成目標
日本アルプスをはじめとする山岳・山地に恵まれた信州という実際の現場において,初歩の種同定から,フィールドワークの実践,記録から取りまとめまでを一貫して身に付ける。

3.実施日
受講希望者が定員を超過したため,感染予防・安全上の理由と,受講の機会をなるべく奪わないようにという配慮から,2回に分けて開講することとした。
(1)令和4年8月30日(火)~9月2日(金)
  3泊4日(夏季集中・学外対象)
(2)令和4年10月15日(土),22日(土)
  オンライン事前・事後学習(10月開講・農学部学生対象)

4.実施場所
(1)信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)西駒ステーション,構内ステーション
(2)中央アルプス(千畳敷~宝剣岳周辺),手良沢山ステーション

5.実施概況

(1)夏季集中実習(学外対象)
コロナ禍で2020年,2021年に公開森林実習として開講できなかった山岳環境保全学演習を3年ぶりに開講した。新型コロナウィルス感染拡大防止対策の一環として,学生宿舎の利用を制限したため,遠隔から受講する学生には大学近辺の民間宿泊施設を斡旋した。学生の宿泊施設から大学までの往復には,教員が公用車で送迎した。また,受講生には新型コロナウィルスの抗原検査キットを郵送し,陰性であることを確認した上で実習に参加していただいた。さらに,毎回実習前に検温と消毒を実施した。受講生は11名,実習指導は荒瀬輝夫,小林 元の両准教授と宮本裕美子助手の他に3名のTAを加えて実施した。

【1日目】
初日は食と緑の科学資料館「ゆりの木」にて実習のガイダンスと講義を行い,西駒演習林の自然紹介,中央アルプス登山の歴史,山岳環境について概説した。また,高山でみられる鳥類,哺乳類の生態,調査法について説明した。講義後に翌日のスケジュール,必要な装備,物品等の確認を行った後,解散した。

【2日目】
2日目は7時に農学部に集合し,学バスにて駒ヶ根市の菅の台バスセンターに移動。ロープウェイを利用して標高2,612mの千畳敷駅まで登った。この日の朝は雨天であったが,昼から天気は好転するとの予報であった。そこで周囲がガスで覆われた中,千畳敷のカール内を周回する遊歩道内にて,高山植物の説明を1時間ほど行った。植物観察後天候の回復を待ったが天気は好転せず,雨風が強まる中,11時に千畳敷駅を出発した。浄土乗越を経由して12時半に全員で宝剣岳山頂に立った。稜線上は雨風が強く,主稜線を辿る木曽駒ヶ岳は危険と判断して,濃ヶ池を経由して西駒山荘に向かう。雨風は強弱を断続したが,聖職の碑近辺では一時的に弱まり,放鳥によって個体数を増やしつつあるライチョウを観察することができた。西駒山荘には15時半に無事到着した。びしょ濡れとなった衣類と靴,装備は石室に設置された薪ストーブで乾かした。雨はその後も夜半から翌日にかけて降り続けた。

【3日目】
3日目は西駒山荘にて管理人の宮下拓也氏の熱心な指導の下,天気図の作成を3時間余りかけて行い,今後の天候について検討した。天気図からもその後の好天は望めず,降りしきる雨の中11時に西駒山荘を後にした。ここ数日の降雨量から小黒川の氾濫が予想されたため,予定していた演習林内の温暖化試験地,固定試験地の観察は取りやめ,大樽小屋を経由する一般登山道を下山した。桂小場登山口に15時過ぎに下山した頃ようやく雨も上がった。この日は雨足が特に強く学生らも体力を奪われ,ふらふらと林道を歩きながら学バスの待つ小黒川キャンプ場まで下った。

【4日目】
最終日は食と緑の科学資料館「ゆりの木」に再び集まり,高山,亜高山帯も森林生態についての講義とレポート作成を行った。

【成果と課題】
今回は2日目と3日目が雨にたたられ,荒天の下の大変厳しい演習となった。特に3日目は濡れた衣類と雨水を吸って重くなったザックで体力を著しく消耗した学生がいた。また安全優先のため,自然観察に十分な時間を取ることができなかった。学生からも悪天候とハードな道のりで観察ができる余裕がなかった,もっと時間をとってゆっくり観察させてほしかった,歩くペースが速い,等の感想が挙げられた。一方で,悪天候の中だったが様々な植物を紹介していただき良かった,現地で実物を見ながら説明を受けられる良い機会となった,1人で登山しても高山植物を見ることはできるが,詳しい方の説明が一緒だとより理解が深まり,アカデミックな見方ができ楽しかった,等の肯定的な感想も数多く寄せられた。コロナ対策に翻弄された今回の演習は,荒天時における備えが十分に練られておらず,計画の変更も想定されていなかった。登山の日程を変更した場合の宿舎と学バス運転手の確保等,コロナ禍での登山を含む実習の開講に大きな課題を残した。

(2)10月開講実習(農学部学生対象)
当初,農学部学生だけでも41名の履修登録があり,2年生には(まだ受講できる機会が複数年あるということで)事情を説明して受講をあきらめてもらい,3年生以上(18名)が受講することになった。

また,9月~10月前半には他の実習がすでに予定されていたため,開催時期は10月後半の土日で調整した。しかし,この時期には落葉で山岳域での植物の観察が困難になることや,低温・ツキノワグマとの遭遇などの危険性も増すため,現地実習は2日間(日帰り),うち1日は高山帯ではなく里山での内容)とした。加えて,オンラインによる事前学習と事後学習(自習と課題レポート作成)を行うことで,計4日間分の内容とする形をとった。

【1日目:事前学習】
山岳環境についての講義資料を提示して,「森林限界」「積雪の挙動」に関する課題レポートを出題し,自習とレポート作成に取り組んでもらった。

【2日目:中央アルプスでの現地実習】
7時に農学部玄関前集合,バスで菅の台バスセンターに移動し,ここで公共交通機関に乗り換えて,路線バスでしらび平駅(8時半ごろ着),ロープウェイで千畳敷駅(9時ごろ着)まで移動した。そこからは徒歩で,一般登山客の多いルートから南にそれたルートで稜線(極楽平)まで,さらに宝剣岳を南側から登って北へと回り込むルートで宝剣山荘付近の開けた場所(12時すぎ着)まで移動し,昼食をとった。昼食後,北側の稜線(乗越浄土)から登山道を下り,千畳敷駅(13時半ごろ着)まで戻った。ここで,亜高山帯の針広混交林や沢沿いを観察するため,徒歩で「日暮の滝」への登山道を少し登ったものの,途中で災害通行止めになっていたため30分ほどで千畳敷駅まで戻った。その後はロープウェイと路線バスで菅の台バスセンター(15時半ごろ着)に移動し,バスで農学部へと移動した(16時半すぎ帰着)。

見学内容は,午前中には高山植物(ハイマツ,高山生ナナカマド類,高山生ヨモギ類,チングルマ,コケモモなど)と登山道整備(極楽平付近で整備作業を実際に見学できた),午後には亜高山帯の樹種(コメツガ,シラビソ,ダケカンバなど)やキノコ類(ハナイグチ,ホコリタケなど)などであった。なお,下山ルートの乗越浄土から千畳敷までの間は,一般登山客が途切れることない混雑状況で,迷惑にならないよう集団で留まって解説・見学することを避けたため,ほぼ移動のみとなった。このような登山客や山小屋利用による環境負荷の側面についても下山後に説明した。

【3日目:手良沢山ステーションでの現地実習】
9時に農学部玄関前集合,バスで手良沢山ステーション(9時半ごろ着)に移動した。

午前中には,地図読み演習として,演習林管理棟を出発して林道(野田ヶ沢線・中通線)を進み,途中で谷(大倉クボ・作業道の痕跡が残る沢筋)を下り,沢山林道に出て出発地点へと戻るというコースを移動し,要所で現在地を把握させ地図上にルートを記入させた。出発地点の演習湯林管理棟前の緑地で昼食休憩をとった。

午後には,資源植物の調査・観察として,林道(おもに沢山林道とコガヤ沢線~南又線)を歩きながら食用・薬用資源植物(マタタビ,ガマズミ,サンカクヅル,ムラサキシキブなど)や有用樹種(クロモジ,アブラチャン,オヒョウなど)を観察した。また,シカの獣道や,獣害対策(植林地の樹皮剥ぎ防止対策など)についても見学・解説した。15時半ごろに帰路のバスに乗車し,16時ごろに農学部に帰着した。

【4日目:事後学習】
課題レポートとして,中央アルプスでの実習について(①行動記録,②山岳環境の保全)と,手良沢山での実習について(里山の保全)のテーマを出題し,3日目までのふりかえりと自習・レポート作成に取り組んでもらった。

【成果と課題】
受講者18名は全員,事前学習の課題,現地実習2日間参加,および事後学習の課題まで,すべての内容に取り組んだ。

実質2日間の現地実習で,受講者には事前・事後学習(講義科目のようなレポート作成を課される)という負担があった。しかし,アンケート結果からは,いずれの内容でも満足・楽しさ・有益さについて「普通」以下の回答が10%前後であり,全体的に好評であったことが伺える。

2日目のルート上に岩場があったことについての安全性への懸念の声も寄せられたが,一般登山客が通れるよう鎖場などが安全に整備されており,教員の歩き方にならって動けば問題なく通過できる場所である。反省点として,野外では声が聞き取りにくいため説明を徹底することと,初心者が危険と感じる場所では一旦集合して注意喚起すべきであったことが挙げられる。

また,開講時期が晩秋であり,観察できる植物(とくに高山植物)が限られていたことは,下見をして事前に分かってはいたものの,教員側としてもやや残念であった。次年度以降も受講者数の制限が続く可能性があり,もし2回に分けて実施する場合の開講時期については検討を要する。

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