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令和3年度「山岳環境保全学演習」を実施しました

お知らせ演習林系の実習

資源植物の観察(手良沢山演習林) ムラサキシキブを回覧しているところ。(10月16日)※屋内ではマスク着用としたが、会話するとき以外、互いに距離をとれば屋外ではマスクを外してもよいこととした。
資源植物の観察(手良沢山演習林) ムラサキシキブを回覧しているところ。(10月16日)※屋内ではマスク着用としたが、会話するとき以外、互いに距離をとれば屋外ではマスクを外してもよいこととした。
獣害の観察(手良沢山演習林) 獣害防護柵(シカネット)を観察しているところ。(10月16日)
獣害の観察(手良沢山演習林) 獣害防護柵(シカネット)を観察しているところ。(10月16日)
地図読み演習(手良沢山演習林)3日目午前中が雨の予報だったため、2日目に資料解説・予行演習をした。(10月16日)
地図読み演習(手良沢山演習林)3日目午前中が雨の予報だったため、2日目に資料解説・予行演習をした。(10月16日)
木曽山脈稜線上(分水嶺)にて。ここで長めの休憩時間をとり、高山の環境や高山植物、登山道などについて実地で解説した。(10月17日)
木曽山脈稜線上(分水嶺)にて。ここで長めの休憩時間をとり、高山の環境や高山植物、登山道などについて実地で解説した。(10月17日)

1.演習名
山岳環境保全学演習

2.実習目的
日本アルプスをはじめとする山岳・山地に恵まれた信州の現場において,初歩の種同定から,山岳環境や野生生物を対象にしたフィールドワーク(地図読みの基礎,林道・登山道の観察,山小屋をめぐる諸問題についての体験・観察,亜高山帯森林の実地踏査,山地帯~高原の資源植物,野生動物と獣害の観察と記録など)を実践する。自らの体験とデータを取りまとめ,里山や山岳環境の保全について考察する素養を一貫して身につける。

3.実施日程

①夏期集中(中止):2021年8月31日(火)~9月3日(金)
京都大学2名,静岡大学2名,山口大学2名,岩手大学1名,国際基督教大学1名,および信州大学他学部(経法学部1名,理学部1名)の計10名から受講希望があった。実習を行う予定で準備を進めていたが,全員が学外の学生であり,大都市部を経由する移動や実習中の宿泊も伴うため,新型コロナウイルス感染症拡大の状況を鑑み,開講を中止した。 なお,信州大学他学部からの参加者2名については,本人が希望すれば10月開講分(下記②)を受講可としたが,2名とも辞退した。

②令和3年10月16日・17日 2日間(土・日×1回)
信州大学農学部の学部生,および大学院生(信州大学・筑波大学・静岡大学・山梨大学の4大学連携「山岳科学教育プログラム」履修生)については,別途の開講として10月土日・日帰りの実習を計画した。大学院生では5名(筑波大学3名,信州大学2名)の受講希望があったものの,実習開催の可否を判断する9月中,首都圏をはじめとする緊急事態宣言の延長が確定したため,感染予防の観点から筑波大学3名の受け入れを中止した。

 しかし10月以降,首都圏をはじめとして全国的に緊急事態宣言が解除され,長野県および信州大学全学の規制も緩和されたことから,結果的に信州大学学内限定の形で,上記日程での開講を実施した。

4.実施場所(以降,開講した実習②について記載)

①10月16日
農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター(AFC)
手良沢山ステーション

②10月17日
木曽山脈・将棊頭山北麓
(奈良井川林道~大樽小屋・胸突八丁~分水嶺)

5.担当教員・講師
教員2名(荒瀬輝夫准教授,小林 元准教授)

6.参加人数
全22名
信州大学農学部:20名(2~4年生)
大学院総合理工学研究科:2名(理学専攻1年生,農学専攻2年生)

7.実習開催の経緯
令和3年度も,前年度に続いて新型コロナウイルス感染拡大による影響で,信州大学の授業開講が制約を受けた。全国的な動き(感染者数の動向,とくに首都圏の緊急事態宣言発令)と長野県および信州大学の警戒レベルを注視し,8~9月開講予定の他大学学生向けの演習林公開実習は中止となり,上述のように通常開講(夏期集中)の他大学・信州大学他学部学生向け「山岳環境保全学演習」(上記①)も中止となった。

しかし,農学部学生の受講登録者が20名を超えており,昨年度も開講が全面中止されたことも鑑みると,人数制限・抽選などを行うと卒業までに本演習を受講できない学生が生じる危険があった。そこで,学生に不利益にならないよう,学内向け実習(2回目)を別途10月に開講することを早い段階で決定した。

また,年度当初には,西駒演習林へのアクセスは通常のルート(県道伊那駒ヶ岳線)を想定していた。しかし,通行止め(8月の大雨による路面崩壊)の復旧の見通しが立たない状況であり,このルートからの入山を断念せざるをえなかった。そのため,国道361号線(伊那と木曽・塩尻とを結ぶ街道)を通って北側から大きく迂回するルート(国有林内・奈良井川林道)に切り替え,事前にバス運転手と下見して運行に支障がないか確認のうえ,代替ルートとして決定した。

8.実習スケジュール

(1)当初のスケジュール(受講希望者向け「受講案内」,10月13日版より)
R3_山岳_スケジュール.jpg

(2)実習中のスケジュール変更
実習内容の変更はなく,予定通りの実施となった。
ただし,3日目には,急病による欠席が1名,参加したものの体調不良で登山困難になり途中の大樽小屋までで下山となった学生が2人生じた。一方,残りの学生は体力的余裕があり,天候も小雨から晴天となったことから,予定より高標高域まで進むこととし,森林限界を越えて稜線上の「分水嶺」(標高2,600 m付近)まで到達した。そこで,オンライン事前学習だけで済ませる予定であった高山植物について,観察・解説を行うことができた。

9.成果と今後の課題・展望

(1)実習の成果
22名中,1名は事前学習のあと体調不良で2日目から参加を見合わせており(野外実習には実質21名出席),1名は3日目欠席,2名は3日目途中までの参加となった。

(2)実習アンケート
アンケート調査は,オンライン事後学習後の回収であったものの,実習参加者21名全員から提出があった(回収率100%,実習不参加1名を母数に入れると95.4%)。

各実習・講義の楽しさ.jpg

各実習・講義の有益さ.jpg図1 アンケート集計結果(N=21)

アンケートの集計結果から,以下のようなことが読み取れた。

【実習内容の満足度】
まず,オンライン講義については,本来なら山岳域で実地に学ぶ演習であることと,資料を自習してレポートにまとめるだけの内容であることから,普段の講義等とあまり変わらず,評価がそれほど高くないことはやむをえないと思われる。

実地の演習についての回答の割合は,全体としてほぼ「楽しさ」で大変満足>満足>普通,「有益さ」で大変有益>まあまあ有益>普通の順になっており,上位2評価の割合が60~95%を占めていた。とくに,「資源植物の観察」については低評価がなく,普通という回答の多い「山小屋問題」についても低評価がないことから,普段まず意識したり触れたりすることないテーマで,実際に体験できたことが魅力的であったと思われる。

(自由記載内容の例)

●資源植物の観察
・ワサビを食べたり,クロモジを匂ったり,座学ではできないことが楽しかった。
・様々な資源植物についての説明を聞くことができ,匂いを嗅いだり口に含んだりと実際触れ合うことができ,とても充実していた。
・登山はするが,植物を見ながらしたことがなかったので,今回の実習で植物を観察しながら山を歩くのも楽しいと気づけたから。

●野生動物の痕跡・獣害の観察
・獣道を生で見られてよい経験になった。
・シカの足跡がたくさんあってどれくらいの動物が生息しているのか興味がある。
・獣道や木の剥がした跡とか,普段気づかないことを教えてもらえて,これからもっと気にしてみてみようと思えた。
・獣道以外に野生動物の痕跡が見つからなかった。
・野生動物についての説明の割合を増やしてもいいと思う。

●地図読み,林道・登山道の観察
・この夏までは地図読みには自信がなかったが,登山の経験を積むうちに少しずつ地図読みができるようになってきた実感ができた。
・これで遭難しても助かる可能性が高くなった。
・部活でもやるが,完ぺきに分かっているわけではなく,とてもいい勉強になった。谷や尾根は場所を把握するのに重要だと思った。
・自分の足で踏んで初めて知る登山道の厳しさがあり,とてもためになった。
・移動中に地図を開いてみる余裕ができなかったから,楽しかったが有益性はよく分からなかった。
・天候のせいもあるが,あまり地図を見る機会がなかった。また,登山のペースが早く,登山道について考えたり観察することができなかった。

●山小屋問題
・あのようなトイレは初めてだったが,トイレの回収までしてくれているのはとてもありがたい,山小屋はいつまでもなくてはならないものだと実感した。
・山小屋としてとても居心地がよかったわけではなかったが,管理して下さっている方への感謝を感じた。
・山小屋問題についてもっと調べてみたいと思った。
・トイレなど様々な人たちの努力で山の自然が守られていることを知れた。
・山小屋を実際に見て,普段とは異なる山ならではのトイレやそれに関する問題点など経験できてよい機会だった。
・自身の体調管理不足で満足のいく参加ができなかった。

●講義(オンライン事前学習)
・実習前の学習として,雪についてよく知ることができた。もっと雪の木に対する影響を細かく知りたい。
・野生生物についてもう少し詳しく知りたいと思った。
・演習に向けた心構えとして良かったが,演習中であまり活きた感覚がなかった。
・森林限界については特に事前学習が活用できたと思う。
・事前に森林限界について知ったことで,実際に森林限界を超えたときに感動したし,雪の樹木への影響をより理解しやすかった。
・コロナの影響による課題方式には少し残念だった。
・対面で行いたかった。
・雪対策など,講義で触れたことを実習でも詳しく説明した方がよいと思う。
・この状況下では仕方がないが,本来対面で学び,ディスカッションなどがあったことを考えると学習の広がりに欠いていたと思う(自己学習で完結してしまう)。

【参加後に興味関心が増大した事】

興味、関心が増大したこと.jpg図2 興味・関心が増大したこと

「ない」という回答者は21名中1名のみで,「ある」と回答した項目は「里山・高原」(3名),「野生動植物」(13名),「自然環境」(6名),「山小屋問題」(5名)であった(重複回答あり)。

とりわけ「野生動植物」についての興味関心を喚起できたことは予想通りであったが,自由記載の内容から,実習を通じ,受講者がそれぞれの感度で,ふだん興味のなかった事物・問題に目を向けるきっかけになったことが読み取れた。

(自由記載内容の例)

・環境の維持管理の重要性,大変さを再認識した。
・主に興味があるのは動物だったが,樹木にもそれぞれ特徴があるのを知って面白いと感じた。
・様々な高山植物を知れてよかった。
・山岳地域に棲む野生動物にはあまり興味を持てていなかったが,今回教わったことや,実際に見た獣道に感動した。
・山での植物の話がとても有益だった。もっと教えてほしい。
・雲の上に初めて登った。登山をしたくなった。
・普段登山する時にあまり植物について調べてこなかったが,植物を観察しながら登山する楽しさに気づけた。
・普段は,友達同士でしか山に登らないので,先生など山の知識がある人に植物や獣などについて教えてもらいながら登るのも楽しいと思った。
・これから山に登るときはかつて林道だった痕跡や登山道が管理されている形跡などに着目してみようと感じた。
・とても大変すぎる山登りをしたことで,定期的に山登りを行い環境の維持管理をし続けることが難しいことを実感し,どのようにして管理されているかが気になった。

【要望・改善すべき点】
事前連絡の時期,オンライン学習の改善,野外での説明の聞き取りにくさ,歩くスピードや体力的な問題などについての意見が多く寄せられた。後期開講期間中の土日に2日間連続の山歩きだったことは,学生によっては予想以上に体力的負担が大きかったことがうかがえる。

また,服装等の準備についてはオンライン事前学習時に資料を提示して周知していたので,(対面での説明に比べ)情報が充分には伝わらなかったことが判明した。資料のアップロード連絡だけでなく,別途,メール送信や掲示板なども併用して,リマインドの連絡を再三行うべきであったと反省される。

(自由記載内容の例)

・日程や持ち物等についての連絡が遅く,十分な準備ができなかったため,より早い連絡をお願いしたいです。
・登山に必要な装備など,事前資料が山に慣れていない人にとって不十分だったと思う。
・トイレに困った。また,杖の貸し出しや事前準備の予告などがあれば嬉しい。特に,シラバスにてどのような服装を用意すればよいのか先に連絡があれば嬉しい。
・オンラインであってもディスカッションの時間は必要と感じた。
・17日の西駒演習林では山を登ることに必死で観察する余裕がなかったため,もう少しペースを落とすか休憩回数を増やしてほしいと思った。
・素晴らしい演習だった。ルートをもう少しやさしくしてほしかった。
・この時期の山は寒すぎて,夏に行くことが一番いいなと思った。また先頭に近くないとあまり声が聞こえないため,2回説明があるととても嬉しいと思う。
・どうしても前の方にいる人にしか先生の声が届かない時があるので,声の大きさや,話す位置などで改善していただきたい。
・山登りの途中で地図が開けない点,後ろ側だと先生の声が全く届かずに説明が聞こえない点が気になった。
・いつか山小屋の人から直接話を伺うことができたらいいなと思った。また,実際トレイルカメラをかけて,生息している動物が直接見られれば他の人も動物に興味を持ってくれるのではないか。

(3)次年度に向けての課題・展望

①実習内容,授業運営
実習の実施方法としては,悪天候時や災害通行止の際の代替案を予め検討していたことで,実習場所・内容について対応することができた。次年度以降も,様々な状況を想定し,臨機応変に対応できる実習を心がける。

今年度,土日の変則日程ということもあり,残念ながら,同行するティーチング・アシスタント学生や演習林スタッフを確保することができなかった。3日目に体調不良者が出た際には,参加者の中で登山経験者がいたため対応できたが,その分,移動中の隊列を整えたり,記録写真を撮るといった余裕がなくなってしまった。実習中にフリーで動けるスタッフが随行したほうがより安全であったことは確かであり,来年度以降の教訓としたい。

野外での声の聞き取りにくさについて,2日目には,ハンドフリー型の拡声器を用い,小型のホワイトボードも携行してキーワードを書いて示した(2日目の内容のアンケート結果が好評だったことの一因と思われる)。一方,3日目は本格的な登山であり,拡声器やホワイトボードを携行するのは支障となるため,地声での説明にならざるをえなかった。来年度に向けて,説明資料の用意,複数回の説明,説明場所の選択などを検討すべきと考えられる。

②施設・生活面
今年度は演習林の学生宿舎などのインフラ(トイレを除く)を使用していないが,次年度,感染予防対策を取りながらの利用になることも充分予想される。AFC演習林の教職員・事務の連携のもと,ほぼ2年間にわたり外部利用のなかった宿舎インフラの事前確認の実施と,休日の緊急時の連絡体制の確認をしっかり行うことが必要である。

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