令和3年05月20日 取材

令和3年4月1日に繊維学部長に就任された森川英明繊維学部長に中島男女共同参画推進センター長が繊維学部における男女共同参画の現状等についてインタビューをしました(新型コロナウィルス感染症対策のためマスクを着用したまま対談を行いました)。

[繊維学部の男女共同参画の現状]


中島男女共同参画推進センター長(以下「中島」):本日はよろしくお願いいたします。信州大学では女性教員が少なく(令和3年5月1日現在18.1%)、増やしていきたいという想いがみなさんにあると思いますが、繊維学部の現状をお聞かせください。

【繊維学部】森川 英明 学部長
森川繊維学部長(以下「森川」):繊維学部は信州大学の学部の中でも女性教員の比率は低くなっています(令和3年2月現在3.3%)。この4月には女性の准教授が1名増えましたが、それでも少ないですね(令和3年4月現在4.5%)。繊維学部でも女性限定公募を積極的に行っていますが、分野によっては流れてしまうケースも多く、私たちの思っていたとおりに女性教員を採用できていないというのが現状です。

中島:理系学部は共通して抱えている問題ですよね。

森川:学問の分野はもちろん、社会全体の多様性はとても重要だと思います。教員について言えば、元来、男女関係なく色々なアイデアを持っていると思いますが、女性の発想からでた研究・アイデアと男性のそれとでは視点など異なる部分もありますので、女性教員を増やすことでより多様な環境をつくり、その中で切磋琢磨しながら、また融合しながら研究を進めていくという形を繊維学部でもとっていければと考えています。一方で、学部学生は24.2%(令和3年4月現在)が女子学生です。大学院では修士課程は学部生と同程度ですが、博士課程になると留学生が多いということもあり31.5%が女性です。しかし研究者として大学に職を得る女性比率は低くなる傾向にあり、それが日本社会独特のものなのかどういうメカニズムで起きるのかを知ることは重要だと思っています。

中島:全国データを見ても、それは工学系独特のデータの傾向ですね。理学だと学部には女子学生がいても、上に進むほど進学率が下がってしまう傾向にあります。それが工学系だと大学院に進むと女子学生が増えるという傾向にあります。よくよく聞くと留学生が多いようですが、それでも女性が多いというのは周りの学生にもいい影響を与えると思いますので、未来があると思います。

森川:繊維学部には4つの学科(先進繊維・感性工学科、機械・ロボット学科、化学・材料学科、応用生物科学科)があります。ひとつの小さなキャンパスの中に生物学、物理学、化学、情報などを基盤とした学術分野が存在する国際的にもユニークな学部だと思っています。生物系は女子学生が多く3割程度ですが、先進繊維・感性工学科も多くの女子学生が学んでいます。先進繊維・感性工学科は工学全般を学びつつ、将来は新しい製品の設計・開発に関われるということから、女子高校生の応募も多いですし、実際に入学する女子学生も多くなっています。卒業した学生らもさまざまな業種の企業で製品企画や研究開発を担当し活躍しています。女性自身が活躍できる場をイメージしてその領域を段々と広げていく、工学系における一つのモデルが先進繊維・感性工学科にはあると思っています。

中島:やはり繊維系の企業になるのでしょうか。

森川:ファッションや肌着、自動車メーカーや家電製品、生活用品など様々です。女性なりの繊細さが求められる分野で活躍しており、卒業後も繊維学部との共同研究で再びキャンパスで会う機会がありますが、みなさん目がキラキラ輝いていて、やりがいを持ってがんばっていると感じています。

中島:女子学生比率が上がってきたのは最近ですか。

森川:元々、応用生物科学科や先進繊維・感性工学科は女子学生が多かったので、他の工学系に比べると女子学生比率は全体的に高めだと思います。学部としては女子学生をとりたいという気持ちもあって女子高校生をやや意識した入試広報もしてきましたので、その効果も出ていると思います。

中島:オープンキャンパスなどですか。

森川:パンフレットの中で女子学生の活躍を紹介したり、説明会や模擬講義で、先ほどのような女性の先輩たちの活躍に関するエピソードを話したりしています。オープンキャンパスに関しては、以前ドイツの大学に在外研究員として赴任していた際に、キャンパスで”TryScience”というイベントが毎年行われていたことを思い出します。ここでは女子高校生だけでなく小さい女の子たちにもサイエンスの面白さを知る機会をつくり、子どもの頃から女性の研究者を育てていくことを目論見とする企画になっていました。この取組みはとても良いと感じました。男女関係なく自然科学に興味を持つ子どもたちは沢山いますし、信州大学でこのような企画をしていくのも良いと思っています。欧州はそういうところがとても進んでいて、どこの大学でも同様の取組みを進めているようです。今はコロナの影響で実施したとしても効果は限定的なので、コロナが終息したら女子高校生や子どもたちにも興味をもってもらえるようなイベントも開催できればと思っています。

中島:ぜひお願いします。女子学生が少ない分野があるのは問題で、もっと増えて欲しいと思っていることを大学として発信していければいいと思いますね。
【繊維学部】森川 英明 学部長

[働き方改革・これからの働き方について]


中島:働き方改革で具体的な取組みはなにかありますか。
 
森川:4月に学部長に就任してから、デジタル化・合理化も含めた教職員の仕事の見直しに入っています。大学の事務は複雑化し、また取り扱いが難しい部分もかなりあると思っています。事務職員の皆さんが管理的なルーチンワークから、分析や企画などよりクリエイティブな仕事に関われるようになっていけばと思います。そうすることで自分のミッションが明確になり、さらに自分自身でタイムマネジメントすることで働き方が変わっていけばと考えています。教員については、これまで文部科学省の大型プロジェクトなども数多く進め、産学連携・国際連携も拡張してきていますが、教員数が増えた訳でもなくかなりきつい部分がありました。この機会に教員らがきちんと「研究」を進められる環境を整備し、余計な仕事を見直し合理化して、時間を作っていけるようにしたいと考えています。また教員の時間が生み出されれば、教員と学生がディスカッションする時間も長くとれるようになってきますので、結果的に教育の効果、有為な人材の育成に反映されると思います。業務やプロセスなどで余計だと思う部分は削り先生方が研究に集中できる時間をつくる取組みを、半年くらいかけて進めていきたいと思っています。 一方で自宅でのテレワークも進んでおり、ワーク・ライフ・バランスやタイムマネジメントの部分はかなり融通が利くようになってきました。家で子育てや介護をしつつ仕事を自己管理していく方法を模索していかなければならないと思っています。

中島:研究者は仕事が生活のようなところがありますよね。ワーク・ライフ・バランスというと逆に反発されてしまう雰囲気もありますが、男女関係なく、子育てや介護などみんなのためにそういうことは必要ですよね。

森川:私自身、企業で働いていたときは徹夜仕事を続けるなどしていました。しかし今は時代が変わり、もちろんそれを強いることもないですし、家庭が大切だということを私自身が痛感しているので、若い人たちには人生における家庭・家族の大切さを伝え、構成員がその意識の上で自分の仕事と生活に関する自己管理(ワークライフマネジメント)ができる形になればと考えています。

中島:アフターコロナの時代にはよかったところを残しつつ、どう戻るか、意識して戻していかないと、コロナ前の普通に戻ってしまう可能性もありますよね。

森川:テレワークも定着させるには意識と仕事の内容、プロセスを同時に変えていかないと定着しないと思うので、大学全体で取組んでいかなければならないと思います。

【繊維学部】森川 英明 学部長

[非常勤職員の雇用について]


中島:学部で困っていることで、男女共同参画推進センターで何かできることはありますか。

森川:男女共同参画推進センターではなく、人事的な話になりますが、繊維学部では様々なプロジェクトを行っていて、その中で専門性の高い仕事をしている非常勤職員が数多くおられます。そのほとんどが女性で、雇用期間は5年となっています。法律的に仕方のないことかもしれませんが、繊維学部では彼女たちの専門性で仕事が支えられている部分が大きく、非常勤職員の継続性やキャリアをどうするかというのは悩ましい問題です。またこの課題をきちんと考えていかないと全体が回らなくなると危機感を持っています。

中島:昨年、男女共同参画に関するアンケートを実施し、非常勤職員の方から厳しいご意見をいただきました。その方たちにとっては、大学に男女共同参画推進センターという組織があって、女性として大学で働いているのに、そこに対するケアがなにもないと思っている方もいらっしゃると思います。人事的な話はセンターのマターではないということではなく、私たちにできることを探し、大学の執行部に上げていきたいと思います。みんなが気持ちよく働いている環境でないと、学生も何かしら感じていると思います、女子学生が大学院に進学しないというのも、企業のほうが魅力的に見えているところもあるかもしれません。

森川:大学は本来、研究や教育など社会的に重要な存在であり、それらを自由な雰囲気の中で進めることが大切だと思います。その雰囲気が学生にも伝わるようにしていければと思っています。

【繊維学部】森川 英明 学部長

[理系・文系の枠から自由に]


中島:女子がなぜ理系に進まないのかということを調べていて気になったのが、実は男子が理系に進むのは、何も考えずに男子だから理系を選択したという方が一定数いるということです。そういう方は進学した時にミスマッチを起こしやすくなります。理系というと女子学生を増やすために頑張ろうという感じになりますが、男女関係なく、ジェンダー規範を取り払って、純粋に理系の面白さを伝えていけたらいいなと思っていますし、それが男子学生のためにもなるということを、現場の教員にもっと共有していきたいと思っています。

森川:子どもたちが自分の進路を考える時、親や進路指導の先生方など周りの影響を強く受けているように思います。日本は製造業が強いということから、男子は良い給料をもらうために理系の企業などに就職して欲しいという雰囲気が強くあるように思います。子どもはもともと多様性がとても大きいのに、社会全体が子どもの時から理系・文系に分けることで限定的にしてしまっているように思います。しかし今は終身雇用の時代ではなくなっていて、転職しキャリアパスを柔軟に組み替えながら自分の思ったこと、やりたいことを、自分自身で人生設計しながらやっていくことがある程度できる社会になって来ていると思います。教育もそれに合わせていかないといけないですよね。

中島:18歳で選んだ進路で一生食べていく、という流れが変わって、少し働いてから学び直しのために大学に戻るようなことが普通になれば、年齢も性別も多様性が出ますよね。

森川:私の研究室は女子学生が多いのですが、それぞれ自分の専門分野や興味・関心、また人生を考えながら就職活動をしています。その中にはたくましく、どこへ就職しても通用すると思われる学生も何人かいます。そういう学生が数多く出てくることは良いことだと思っていますし、そのような教育ができればと思います。一方で何人かの学生には博士課程に残って研究者の道を歩んでは、と話したこともありますが、企業など社会に出たいと言われることが多かったです。

中島:企業との人材獲得競争だと大学は完全に負けてしまいますよね。

森川:大学ももっと変わらないといけないですね。今以上に自由闊達に研究や教育、仕事ができる雰囲気・環境が構築できれば、大学で研究者として生きていくことにもっと興味を持ってもらうことができると思います。

中島:本日はありがとうございました。