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工学系

学生が持つ可能性を
最大限に活かすために

学術研究院工学系
橋本佳男教授

目次
Chapter 1

課題設定力や自主性を育てる

教員が方向性を示し
学生自身が課題を考えるようなプロセスが大事

これまで、信州大学の工学系の修士課程は専攻が分野別に複数分かれていたのですが、2016年「工学専攻」として一つにまとまりました。これは、学生が修士課程に進もうと考えた時、電気電子専攻や情報工学専攻というように分野が絞られていることで、定員が合わなかったり、興味が合わなかったり、こういった状況がありました。専攻を「工学専攻」という枠組みでより大きな括りとして定義することで、専門を問わず修士課程を希望する多くの学生に門戸を開き、入学した学生の興味に対してフレキシブルな対応を行うというやり方です。つまり、大学院に進みたい意欲のある学生を幅広く受け入れ、これらの学生が持つ個々の要望に応えていこうという取り組みです。

工学系の修士課程で大切にしたいのは、学生の課題設定力です。例えば、研究において教員の手足になることが前提となって、自分自身で課題設定を全くしないというのはありえないと考えています。もちろん、ゼロから問題解決のための課題設定を立ち上げろという乱暴な話ではありません。教員が方向性を示し学生自身が課題を考えるようなプロセスが大事ではないかと考えています。教員が学生の課題設定を行うのは、指導という面ではやりやすい部分はあります。しかしながら、研究を達成した時の学生の喜びや成長を考えると、大きい成果を目指すよりも、例え領域におけるゴールが小さな成果であっても自分で問題を把握し、課題設定をして得た成果に意味があるのではないかと考えています。

Chapter 2

企業との接点を活かす

製品に近いところで開発することで、
企業研究の現実を理解する

信州大学では企業との共同研究の機会が多くあります。共同研究では企業の方も学生の力に期待しています。これは、安い労働力ということではなくて、大学院生から技術を評価してもらいたいと考えているからです。もちろん、「教員からのアドバイスが欲しい」「実験装置だけ使いたい」というニーズもあるのですが、学生の力を借りたいと考えているようです。学生にとってのメリットは、売るための製品づくりに関与できることでしょう。つまり、企業は、製品を検証する際に、丁寧に何十種類、場合によっては何百種類とデータ検証を行わなければならない。退屈かもしれないけれど製品の品質を考えるとこれぐらいシビアにやらないといけない。研究だと5件か10件のデータ取得で大体の傾向が取れますから、これで学会発表ができてしまいます。まったく要求される水準が違うということです。製品に近いところで開発することで、研究に関わることの現実を理解していくわけです。
こういった経験を元にして、学生は企業に就職した際に、ただ単に企業の歯車で終わらないようにして欲しいと考えています。例えば、開発プロセスの一致条件だけを出すような企業内の「下請け」ではなくて、研究で成果が出ていない場合は、上司に提案できるようなアイデアをしっかり持ってほしいと考えています。あるいはそこで上司と議論し本当にいいものを出してその会社で評価されてもいいと思います。場合によっては企業で頑張った経験を持って大学に戻ってきてもいいと思っています。

Chapter 3

グローバルに活躍できる
優れた次世代研究者の育成のために

今、世界がまさに直面する問題を前提とした
グローバルな課題に触れる

信州大学では、強みや特色のある研究領域に教員等を集約し、その領域における研究を先鋭化させるために、先鋭領域融合研究群を2014年の3月1日に始動しました。研究に集中できる環境を整備し、外部から卓越した研究者の招へいするなど世界的な研究拠点の構築とグローバルに活躍できる優れた次世代研究者の育成をはかっています。研究群を構成する5つの研究所のなかで、私が所長をつとめるカーボン科学研究所では、CNT(カーボンナノチューブ)を中心とする新しいカーボン材料の応用研究を行っています。もともとカーボン科学研究所は、CNTの発見・発明者で世界的権威の遠藤守信特別特任教授が、十数年前に工学部教授だった時に、学部や学科の枠を超えた研究グループを作るために始めたものです。この研究所では多くの企業を集め、地域卓越研究者戦略的結集プログラムにより世界レベルの研究者を集めてきました。さらに、カーボン科学研究所では、世界の水を守るCOI拠点での水分離炭素膜の開発や農水省の事業による森林資源の有効活用した新素材の開発にも関わり、本学の研究の重要な一翼を担っています。
カーボン科学研究所に学生は所属してはいないのですが、ここに所属する教員は別の研究室に所属しているため、結果として大学院に進んだ学生がこういった世界レベルの教員や研究者と触れる機会、または研究を手伝う機会が生まれています。今世界がまさに直面する問題を前提としたグローバルな課題に触れてもらうことで、学生の成長に良い影響を及ぼすと考えています。

橋本佳男(はしもとよしお)
信州大学学術研究院工学系教授。東京大学大学院博士課程修了。工学博士。1994年より信州大学工学部助手、1995年より助教授、2007年より教授。 カーボン科学研究所所長。研究分野は薄膜太陽電池新材料の探索。
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