保健学
「医工連携」で進化する、
保健学の開発研究。
マスターに求められる
リーダーシップとは?
学術研究院保健学系
百瀬公人教授
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保健学
学術研究院保健学系
百瀬公人教授
保健学専攻の各先生の取り組みとして、
医工連携はますます活発になっています
信州大学の大学院改革の中で、医学系の最も大きな取り組みとしては「医工連携」への動きが挙げられると思います。今の医学研究において、例えば検査機器の開発など、工学系の研究者や企業の方々と一緒に開発しなければならないことは自明の理ですね。昨今、外科領域の事例として、遠隔操作の手術支援ロボット「ダビンチ」(※)が話題になりましたが、これはそのような方々の協力がなければ、なし得なかったことです。
私たちの保健学専攻でも、医工連携の取り組みはこれまで以上に活発になっていくと考えられています。信州大学の保健学専攻には、看護学専攻・検査技術科学専攻・理学療法専攻・作業療法専攻の4つの専攻がありますが、それぞれ工学部などや企業と連携した共同研究・共同開発の事例がすでに多く見られます。
例えば、作業療法学専攻の小林教授が行っている研究では、高齢者や障害のある患者さんの運転適正を評価するために、手掌部発汗現象を利用した運転シミュレーション装置の開発研究事例があります。作業療法の分野で患者さんの適正を見極めるためには、こういったバーチャルリアリティの具現化が、今後も大いに貢献していくと考えられます。
また、検査技術科学専攻の事例は、実に多岐にわたります。もともと「検査」という領域は、血液検査ひとつとっても、情報の「収集」と「分析」のデータ処理を基本としていて、検査機器の発展と密接な関係にあるためです。先日、藤本研究室のマスターによる、パルスオキシメータという器具を利用した研究発表がありました。これは、指先にはさむ小型の器具で、脈拍数と酸素飽和度を測るものですが、この機能を拡張して肺の柔軟性を計測しようという開発研究です。来年度には市販化に向けての動きがあるようです。
私たちの理学療法専攻でも、マスターによる興味深い研究があります。加速度計といって、身体の揺れを計測する小さな機器があるのですが、これを使ってHarmonic ratio(ハーモニックレーシオ=歩行の安定性の指標)を測るというものです。転倒しにくい人は加速度計で測ると歩行の安定性が高く、転倒しやすい人は安定性が低いという結果が出ます。
ところが、実際どのように結果を出すかというと、加速度計で測った生のデータをエクセルで収集・計測して、ようやく特定の患者さんのHarmonic ratioを出すという、たくさんの工程が必要になります。この先の製品化を考えると、患者さんが歩くとその場で計測結果が出るということが望ましいですね。このように、現場で簡単に使えるようにするためには、企業と連携して開発する必要があることが分かります。
保健福祉の向上を進める人材を増やしていく、
国立大学にはその責務があるのです
保健学科の学部生の多くは、臨床の専門家を目指して入学してきています。彼らは小さい頃から病院の現場で働く専門家を見ているわけです。一番分かりやすい例だと看護師でしょうか。理学療法士や作業療法士も、それまでの経験で何らかの関わりがあって、目指してくる学生が多いですね。保健学科の中で唯一、検査技師だけは、一般の人が触れ合う機会が少ないため、例外かもしれません。
つまり、医学部保健学科に入学する学生は、臨床のイメージを強くもっているため、これまで話してきたような事例を大学院で研究したいという層が非常に少ないのが実情です。仮に工学部に入学すると、おそらく学部の1年生くらいから「学部卒では就職が厳しいから、大学院はどうだろう?」という選択肢も見えてくる。工学部の大学院では、企業と連携して機械を研究開発するような姿もイメージとして持ちやすいと思います。
一方、私たちの保健学科では、4年卒業時に看護師や臨床検査技師理学療法士、または作業療法士として国家試験を目指すことが大前提になるため、学部では臨床の専門家になるための教育が中心になります。それはそれで、もちろん大切なことですが、先の工学部の例と比較すると、これは私たちの弱みでもあります。今ある治療をよりよく改善する研究者を、私たちはもっと増やしていく必要があるのではないでしょうか。
理学療法士の国家試験には、毎年10,000名弱が合格しますが、そのうち国立大学の出身者は250名ほどと言われています。アメリカで理学療法士になるには大学院の博士課程の教育システムが主体ですが、日本は国立大学、私立大学、専門学校のいずれからも国家試験を受けることが可能です。
したがって、学力としては上位にある国立大学卒の専門家は、単に病院の理学療法士、作業療法士として働くだけでなく、その専門家たちのリーダーとしての役割を担っていくことが求められていると思います。また、国立大学側としては、国民の保健福祉の向上のための研究を進められる人材、日本または世界をリードできる理学療法士、作業療法士、看護師、臨床検査技師を育てていく責務があると、私自身は考えています。
私たち研究者も臨床での疑問を持っていたからこそ、
院生たちのモチベーションが理解できます
これまでの説明の通り、保健学専攻の中で看護、理学療法、作業療法のマスターに進学するのは、多くは一度は臨床経験を積んだ社会人です。ストレートマスターが多いのは、検査技術科学専攻ですね。
日中も夜間も、看護師、理学療法士、作業療法士として毎日8時間ほど勤務して、その後さらに家に帰って論文を読んだり、実験計画を立てるのは、非常に厳しいことです。それでも、臨床を実際に経験して、その臨床を変えていきたいという強い意志を持った人たちが、私たちの保健学科には集まってきます。
県内の病院で働いている院生もいますが、専攻や年度によっては千葉、静岡、遠くは鹿児島など、全国から集います。授業の体制もそれにあわせて、Web会議システムを多く利用し、重要な講座は週末に集中させるような工夫をしています。遠方からも参加しやすいという特色はあるのではないでしょうか。私も、臨床に出たときに多くの疑問を持って、それを解決しようと研究に進んだという背景があるため、彼らのモチベーションはよく理解できます。
本来は彼ら社会人と同様に、研究に専念できるストレートマスターが一定数以上いることが望ましいですが、そのためには、医療機関や企業に修士・博士過程の価値を理解してもらえるよう、私たちからの地道な働きかけが必要だと思っています。地方だからこそ、医療関係者同士のつながりで将来性のある研究基盤を作っていける、そんなことも期待しています。
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