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農学系

人類の持続可能な社会のために
農学だからできることとは

学術研究院農学系
真壁秀文教授

目次
Chapter 1

農学専攻の役割と特長

生命・食料・環境にかかわる農学は
実学であることが求められます

農学というと「農業」のイメージが強いかもしれませんが、実は非常にすそ野が広い学問領域です。化学や医学に近い領域や、環境保全、エネルギー生産なども含まれます。エネルギー生産が農学といってもなぜと思われるかもしれませんが、木質バイオマスもあれば、微生物に油を造らせる研究もあります。微生物は培養できるので、実用化したらとても効果が高いでしょう。
現代における農学は、工学や医学などの学際領域を視野に入れて、動物、植物、微生物など、生命科学分野における最先端を担っています。信州大学では、大学院の農学専攻に進む学生は、農業というよりもむしろ食品や化学、遺伝子工学などに興味がある人が多いようです。
大学院では、生命・食料・環境を支える実践的な技術力と研究開発力を有する高度専門職業人として、それぞれの分野や生命医工学領域で活躍できるような人材の育成を目指しています。新たな取り組みとして、繊維学部、工学部、医学部との連携を強化しています。

食品生命科学分野のカリキュラムで特長的なのは、さまざまな国内の大手企業の研究者による講義が行われていることです。これらを身につければ即戦力として社会に送り出せるという点に重点を置いた講義です。
ヤクルトさんから始まり、味の素さん、明治製菓さん、大鵬薬品さん、不二製油さん、今は協和発酵バイオさんと、3年ごとに企業を変えて、企業の現場でどのような研究がなされているか、あるいは知財など特許関係の扱いについてなど、実戦的な講義を行っています。改組前から私が所属していた機能性食料開発学専攻という独立専攻でやっていたので、10年以上前から続いている取り組みです。 第一線で活躍している企業の生産現場に触れて、機能性食品の開発に関わるプロセスを実感する。こういうことは大学の中だけではどうしてもわからないものです。企業においては、利益という観点が不可欠です。そのことを早いうちから学生に理解してもらうことが重要だと考えています。学生にとっても、とても有意義な授業になっているようです。
農学というものは、生命・食料・環境という人間の生活に直結しているジャンルを扱う学問分野なので、実学であることを強く求められます。基礎研究より応用が求められている学問と言ってもいいでしょう。

Chapter 2

研究成果を社会に

ポリフェノールの効能は
抗酸化作用だけではありません

私の専門は有機合成という化学合成の一種で、生理活性物質の合成や創成に取り組んでいます。生理活性物質はごく微量で生物の行動や機能を制御しているものであり、薬として利用されることも多い物質です。薬の候補、つまり医薬品としての認可を受ける前の研究段階にある生理活性物質は、その70%くらいが自然界の産物である植物や微生物が生産している化合物をモデルにして創られています。私たちは自然界のそれらを少し修正したり応用したりすることによって、新たな生理活性物質を作っているのです。
こういう研究をしていますと、自然というか、植物や微生物は本当にすごいなと感心しますね。研究してなんとか創りだそうとしているものを自ら創ってしまうのですから。
私たちは、自然界のそれらを人間の役に立つようにすることが使命です。化学合成をしていろいろな構造を選択的につくり、どの部分が効く要素なのかを解明する。そして、工業生産に結びつくように構造を簡単に、簡単でも効くよう改良するんです。

私が今注目しているのは小豆に含まれているポリフェノールです。ポリフェノールは抗酸化作用があるから身体にいいと言われていたりしますが、実はがんに効くということを見つけたんです。がんの転移が抑えられるのです。ある遺伝子が活性化するとがんの転移が起こるのですが、ポリフェノール由来の化合物でその遺伝子の発現を完全に抑え込むことができる。これについては、先月(2017年10月)にプレスリリースで論文に出したばかりです。

また、ポリフェノールの一種であるカテキンは、植物から効果が高い状態で取り出すことが非常に難しい。ですので、できるだけ簡単な方法でたくさんとれる方法を考えています。今それができているのはお茶に含まれているカテキンだけです。いろいろな植物からポリフェノールが取り出せるようになれば、大きなイノベーションにつながるでしょう。
ブドウ、リンゴ、柿もポリフェノールが多く含まれている植物です。ブドウとリンゴといえば信州の特産品です。地域に根差すということで、信州大学としては、ブドウやリンゴにもポリフェノールが多く入っていることをアピールしていきたいと考えているところです。

Chapter 2

修了生に求められる人物像

農学は自然を相手にする学問
「まずやってみよう」が大事

大学院農学専攻で行われている特長的な取り組みに「地域共生マネージメントプログラム」があります。これは、社会人の学び直しのための新たな教育プログラムで、地域で活躍するリーダーの育成を理念に掲げています。文部科学省の「職業実践力育成プログラム(略称:BP)」の認定を受けて去年(2016年)から始まったものです。仕事内容と関連付けた研究ができ、1年で修士の学位が取れるのが特長です。
このプログラムには伊那市役所勤務の方が1名受講されまし た。この方の場合ですと、市役所の健康推進課が行っているお年寄りの食事に関するアンケートと、信大の機能性食品の研究を結び付けて修士論文を書くようなイメージです。

また、信大では国際交流にも力をいれています。ダブルディグリーは、信大と海外の大学の修士の学位が同時に取得できる制度です。現在はタイのメイファ ーラン大学及びスラナリ工科大学と結んでいて、両大学の学生が信州大学で学んでいます。今後、ダブルディグリーができる海外の大学をもっと増やしていきます。
「山岳科学教育プログラム」も魅力的な取り組みです。これは、環境関係に強い筑波大学をはじめ、中央アルプス、南アルプスにかかわる山梨大学、静岡大学、信州大学が協力して行うプロジェクトです。
大学間の研究は、情報交換のみならずいろいろなメリットがありますので、今後、この方向性は加速していくでしょう。

最後に、大学院農学専攻を目指す方へ。農学は自然を相手にする、そしてそれをどうやって応用するかを考えることが求められる学問です。まずは自然に対する好奇心を持っていること。これが大事です。フィールドワークが多いのでフットワークの軽さも大切です。
そして、農学は環境や食料にかかわる学問、つまり、人類の持続可能な発展にかかわる学問です。ですので、農学は実学でなければいけません。そのことを胸に、大学院では幅広い知識と応用能力を身につけてもらいたいですね。
農学は、理詰めで理論を積み重ねるのではなく、「やってみましょう」というのが大切なんです。実験でもなんでも結果を考えずまずやってみるという精神。理論は後からついてきます。自然を相手にしていると、そういう方法になるものなんです。

真壁秀文(まかべひでふみ)
信州大学学術研究院農学系教授。東北大学大学院農学研究科博士課程修了。日本学術振興会 海外特別研究員を経て、1999 年信州大学農学部助手、2001年より信州大学大学院農学研究科助教授、2011年より教授。研究分野は生物有機化学。
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