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地域・企業連携
大学の知と、地域・企業のコラボレーションが未来を拓く。

「社会貢献」は「教育」と「研究」に次ぐ大学の第三の使命であり、近年、社会が大学に求める役割としてその重要性を増しています。
社会貢献とは、信州大学が持つ知的活動の成果を地域の産業や文化の振興のために活用し、社会に積極的に還元していこうという考え方です。具体的には、産学官連携によるプロジェクトや、地元企業や自治体との共同研究による地域振興といった形で行われることが多く、大学の知の成果が集結する大学院が中心的な役割を担っています。

Faid
食・農産業の先端学際研究会

FAID(食・農産業の先端学際研究会)は、長野県はもちろん日本全体の重要な産業である食・農産業を成長産業へ導くことを目的に、2013年に信州大学工学部の呼びかけで発足しました。
生産者や食品メーカー、農業団体、農業機械メーカーをはじめとする県内の計60以上の企業・団体・自治体などが参加しています。
信州大学が有する高度な農学・工学的知見と、参加企業・団体が持つさまざまな技術やネットワークが結びつく産学官・農商工連携をベースに、「農業の産業化」と「ブランド力向上」のさまざまな取り組みを行っています。

5つの研究部会

栽培技術
農産業の市場での差別化、高付加価値化を実現する栽培技術の開発
(周年収穫、品質向上、オリジナル商品)
栽培環境システム
栽培環境を最適化し持続化できる太陽光・再生可能エネルギー、CO2活用などによる
総合システムコントロール技術の実用化
省力・自動化
栽培・収穫の省力化・自動化技術の開発、およびICT技術活用による遠隔監視・トレーサビリティ技術応用
高機能食品加工
食の多様化に対応する食品加工技術の多面的な研究開発による新機能食品の創出
人材育成
栽培、加工、マーケットイン、経営に携わる技術者の育成ならびに"6次産業化"の教育

FAID 食・農産業の先端学際研究会 Webサイト

開発技術の紹介

ホウレンソウ自動収穫装置

ホウレンソウのように軟らかい「軟弱野菜」は、人の手による収穫でも傷つきやすく、ましてや機械収穫による効率化は不可能とさえいわれていました。
信大工学部の千田有一研究室では所属する大学院生とともに、制御理論などの機械システム工学の知見を活かして、軟弱野菜を傷つけずに自動収穫する装置を開発しました。これは、刈り取ったホウレンソウに外的な力をほとんど加えずに搬送する仕組み(=受動的ハンドリングという概念)を用いていますが、野菜に「つかむ」「挟む」といった力を加えずに収穫する機械はこれまでまったくないことから、実用化すれば「農業機械の革命」だともいわれている研究です。受動的ハンドリングを実現するために、センサリングをはじめ、さまざまな工学的研究の成果が活用されています。
このホウレンソウ自動収穫装置は農業系の企業・団体からの関心も高く、現在は実用化まであと一歩というところです。

ホウレンソウ自動収穫装置
活用された工学技術
1
野菜を握らず、挟まず収穫する「受動的ハンドリング」
2
受動的ハンドリングを実現するための「土中の刃の最適軌道」
3
土中の正確な位置で根を切るための「軌道追従制御」
4
学部4年 関さん 【関わった研究】刃の軌道の最適化
【コメント】実用化がすぐ先にあって、世の中の役に立つことがはっきりしている研究なので、とてもやりがいがありますね。
5
修士1年 高山さん 【関わった研究】土の反力の推定
【コメント】農業機械はこれまでの経験を基に操作されることが多いので、自動化・自動制御が実現すれば大きな変化ですよ。
6
修士2年 上條さん 【関わった研究】自律走行のシミュレーション
【コメント】実家がレタス農家なんですが、学んでいる自律走行の技術がまさか実家の役に立つとは考えていませんでした。

地域の可能性を拓く大学院の知とは

求められているのは
「出口に近い」研究

学術研究院 工学系
千田有一 教授

千田有一(機械システム工学科教授)

農業県である長野県には、農や食にかかわる地域企業がとても多く、重要な産業となっております。ただ、そこでは従来の方法論が踏襲されている場合が多く、まったく新しい技術や発想を取り入れることは少ないようです。私が理事長を務めているFAIDは、工学・農学的知見を農業に導入することで、農業を「農産業」へと進化させようという取り組みです。
信州大学では大学院を中心に、さまざまな学部、学科で食や農に関わる研究が行われています。機能性食品の開発などの食品加工は、農学だけでなく工学、特に化学の技術が必要ですし、例えば建築学も、農場の栽培環境システムを構築するのに不可欠です。それぞれの学部、学科で行われているそういった研究を、大学院が学部の垣根を横断した大きな視点で集約します。FAIDは、信州大学の食と農に関する知の成果が集結したプロジェクトなのです。
これまでの共同研究というと企業主体のイメージがありますが、このFAIDは信州大学の方から能動的に動いているプロジェクトです。こちらで基本的な技術を完成させ、それを作ってくれるメーカーを探すというイメージです。これは、製品化や実用化が至近距離にある、いわば「出口に近い」研究を行っているからできることです。「こういうものがあったらいいね」ではなく「こういう新しいモノがありますよ」ということです。その意味では、いわゆる産学官連携の枠をちょっとはみ出しているかもしれませんね。

千田有一(ちだゆういち)
信州大学学術研究院工学系教授。地域共同研究センター センター長。工学部副学部長(産学連携・広報担当)。信州大学工学部機械システム工学科教授。研究分野は制御工学。

フィールドワークで
地域の財産を発見

学術研究院 農学系
松島憲一 准教授

松島憲一(学術研究院農学系准教授)

信州大学農学部と大学院農学専攻は、遺伝資源の探索と研究に力を入れていることも大きな特色の一つです。長野県には、山間地の集落などで主に自家用に栽培されていて、大規模な流通には乗らない在来品種が数多くあります。私が専門にしているトウガラシも、在来品種がとても多い野菜です。
長野県各地に眠る在来品種のトウガラシをフィールドワークで発掘し、DNAの調査や化学分析からその品種の特性を解明。栽培の技術支援などを通して地域にフィードバックして、在来品種を「伝統野菜」として復活させ、地元の企業や自治体などを巻き込んだ農商工連携のプロジェクトで特産品化する。
これまでにこのような手法を用いて、中野市の「ぼたんごしょう」や大鹿村の「大鹿とうがらし」を特産商品化し、大きな成功を収めました。長野県は県農政部の制度による「信州の伝統野菜」に選定された品種数が全国の同様の制度の中でもかなり多い県なんですが、トウガラシに関しても多く、信州大学農学部もこのような在来品種の発掘や栽培技術のお手伝いを積極的に行ってきました。
また、飯島町がトウガラシの六次産業化による特産加工品の開発に乗り出した際は、栽培や加工に適した品種の選定という形でお手伝いさせていただきました。農学的、生物学的な研究結果を活用した地域振興といっても、さまざまな方法があるんです。
そしてもう一つ重要なのは、在来品種を守っていくことは、生物の多様性を守り、さらには文化の多様性を守っていくことにつながるということです。多様性は、農学の基本理念である「人類を食べさせていく」ための大きなポイントでもあります。

松島憲一(まつしまけんいち)
信州大学学術研究院農学系准教授。信州大学農学部卒・同大学院農学研究科修了、農学博士。農林水産省勤務を経て、2002年より信州大学。研究分野は植物遺伝育種学。

その他の研究