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医学部保健学科 検査技術科学専攻 長野則之特任教授の研究グループによる病院下水中の薬剤耐性菌の経時的ダイナミクスを解析した研究論文がScience of the Total Environment誌 (Impact Factor 8.2)に掲載されました
2024年11月06日 [プレスリリース]
医学部保健学科 検査技術科学専攻 病因・病態検査学領域 長野則之特任教授の研究グループ所属の田邊瑞来さん、伝田智宏さん (医学系研究科 修士課程2023年度修了)の共同筆頭著者論文がScience of the Total Environment誌 (IF 8.2)に掲載されました。
この研究は、世界保健機関(World Health Organization:WHO)が提唱するヒト、動物、環境の相互関係を考慮したワンヘルスの概念に基づく三輪車プロジェクト (Tricycle project)のサテライトプロジェクトとして、信州大学医学部 保健学科と国立感染症研究所 薬剤耐性研究センターとの共同研究により実施されました。
病院下水は、臨床的に重要な薬剤耐性菌や耐性遺伝子を環境中に拡散させるリザーバーとなり得る危険性があります。本研究では2021年1月から11月まで隔月に採取された病院下水中の総大腸菌及び臨床上重要な基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ (ESBL)産生大腸菌並びにカルバペネマーゼ産生グラム陰性桿菌 (CPO)を定量検出し、全ゲノム解析を行うことで菌種、クローン/遺伝系統、耐性遺伝子などを指標とした薬剤耐性菌の遺伝学的集団構造及び経時的ダイナミクスを解明することが可能となりました。その結果、総大腸菌に占めるblaCTX-M-14保有ヒト腸管外病原性クローンB2-O25b:H4-ST131-H30R/non-Rx系統株を主体とするblaCTX-M保有大腸菌の割合が、1月、3月、5月に比べて7月に顕著に増加したこと、対して9月と11月にはこれらのblaCTX-M保有大腸菌が検出されず、代わりにAmpC産生菌のblaDHA-1保有I-O8:H33-ST3910-H1074株などが出現する劇的な変化が見られました。CPOの解析では、エロモナス属菌が最も優位に検出され、保有カルバペネマーゼ遺伝子は国内のヒト臨床分離株で高頻度に検出されているblaIMP-1が最も多く、次いでblaGES-24 、blaGES-4でした。定量解析により、blaIMP-1保有Aeromonas hydrophila subsp. hydrophila ST860が繰り返し検出された結果、最も多い総菌数を示しました。本研究の知見から、耐性分離株や耐性遺伝子/プラスミドが汚染された配管システムを通じて病院環境中に拡散し、院内伝播のリスクを高める可能性が懸念されます。さらにこれらの耐性分離株や耐性遺伝子/プラスミドが環境水路を通じて地域社会に拡散する可能性もあり、公衆衛生に対するリスクが増大することに対して注意を喚起するものです。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「WHOサーベイランスと協調したワンヘルス薬剤耐性菌動向調査に係る研究」 (代表: 菅井基行)の支援を受け、分担研究 (分担者: 長野則之)として実施されました。
論文
Tanabe M, Denda T, Sugawara Y, Kaji D, Sakaguchi K, Takizawa S, Koide S, Hayashi W, Yu L, Kayama S, Sugai M, Nagano Y, Nagano N. 2024. Temporal dynamics of extended-spectrum β-lactamase-producing Escherichia coli and carbapenemase-producing Gram-negative bacteria in hospital wastewater. Sci Total Environ. 955: 176901. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2024.176901
論文掲載URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S004896972407058X
プレスリリース(PDF:1.03MB)