定説が覆る!-病原性カビは多様な方法で植物に侵入し感染していた-
多くの植物に病害を引き起こすカビ(炭疽病菌群)は、メラニンを必要とする1種類の方法だけで植物に侵入して感染していると考えられてきました。今回、信州大学学術研究院(農学系)微生物植物相互作用学研究室の入枝泰樹准教授(信州大学ライジングスター教員、JST創発研究者(兼任))と研究室のメンバーは、炭疽病菌群が多様な方法で植物に侵入していることを世界で初めて発見し、44年にわたる定説を覆しました。
世界の農業生産の病害による被害のうち、70~80%が糸状菌(カビ・菌類)によって引き起こされています。なかでも、数百種以上の農作物に感染被害をもたらす炭疽病菌群やイネの最重要病害のいもち病を起こすイネいもち病菌は、感染の際に「付着器」と呼ばれる黒くメラニン化した細胞を菌糸の先端に作って植物に侵入する共通の感染戦略(上図、①)をもつことで知られ、他の方法で植物に侵入する報告例はほとんどありませんでした。メラニン化する前の付着器には侵入能がないとされ、メラニン化によって植物を貫通できるという考えが長年にわたる定説となっていました。実際に、水稲栽培の現場では、イネいもち病の防除を目的にメラニン化を阻害する農薬が広く活用されています。圃場における炭疽病の防除に同タイプの農薬は活用されていませんが、同様に強い感染阻害効果をもつことが学術的に知られています。
今回、入枝准教授らは炭疽病菌群を幅広く調査し、そのほとんどの炭疽病菌がメラニン化に依存して付着器から植物に侵入する定説通りの特性を示すことを確認しました。一方で、メラニン化に依存せず侵入できる炭疽病菌も多く存在していることを発見しました。新たに発見されたこれらの炭疽病菌は、メラニン化前の付着器(上図、②)や付着器形成前の菌糸(上図、③)から植物に侵入できるため、植物に侵入するまでの時間が従来菌より短く、早期感染という病原菌としての利点をもつことを突き止めました。また、これら多様な侵入様式を周囲の環境に応じて選択でき、かつ植物に早く侵入できる特定の炭疽病菌グループは、進化の歴史において短期間で繁栄を遂げ、種を拡大している可能性も考えられました。
本発見により、植物保護に注力する研究や産業の分野において、炭疽病菌群の植物侵入方法に関する従来の考え方を大きく変えるパラダイムシフトが起こると予想されるため、実際の感染実態に即した効果的な防除法の確立につながると考えています。一方で、イネいもち病菌に対しては、メラニン化を阻害する農薬が水稲栽培の現場で効果を発揮している現状があり、今回発見されたメラニン化に依存しない炭疽病菌と類似の侵入方法で葉や穂に感染する薬剤耐性菌として自然界に存在している可能性は低いと考えられます。
本研究成果は、2026年7月13日にOAの英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
詳しい研究内容については以下をご覧ください。
報道発表「病原性カビの植物侵入方法は1種類ではなかった―44年にわたる定説を打破、メラニン依存から脱却し多様な感染様式を獲得―」
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1038/s41467-026-74937-6
Takeru Ohzawa, Ayaka Tani, Kazuho Takesue, Takehiro Kudo, Yunoka Akaba, Toko Yagisawa, Fukunosuke Arao, Koki Kume, and Hiroki Irieda(責任著者).
Breaking dependence on melanisation imparts diversity to a dogmatic invasion strategy of phytopathogenic fungi.
Nature Communications 17, Article number: 6126 (2026)
信濃毎日新聞(7月14日)・中日新聞(7月14日)・長野日報(7月14日)に掲載されました。

