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今井優 助教が結核菌を選択的に殺す新しい抗生物質イヴィバクチンを発見 ―BacA トランスポーターにより取り込まれ, DNA ジャイレースの働きを阻害―

研究

 信州大学先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所の今井優 助教は, 留学先であったNortheastern University, Antimicrobial Discovery Center(Kim Lewis特別教授)において線虫共生細菌 Photorhabdus から, 結核菌Mycobacterium tuberculosisを特異的に殺す新しい抗生物質を発見しました。

 結核は, 現在でも発展途上国を中心に大きな脅威となっており, 年間990 万人が感染し, 150 万人が死亡しているとされています (世界保健機構, 2020 年)。結核の治療には, 薬剤耐性株の出現を防ぐため, リファンピシン, イソニアジド, ピラジナミドおよびエタンブトールという4 つの作用機序が異なる抗生物質のカクテルが利用されており, その治療期間はおよそ6ヶ月と長期にわたります。これらの抗生物質の中でも, リファンピシンは幅広い細菌に対して作用するため, 同カクテルを長期間使用することで, ヒトの細菌叢への影響や, 対象外の細菌から薬剤耐性変異株が出現する可能性などが危惧されていました。このことから, 結核菌にのみ活性を示す抗生物質の発見が急務でした。

 本研究において, 線虫共生細菌 Photorhabdus 属および Xenorhabdus 属をスクリーニング源とし, 抗生物質の探索を行ったところ, Photorhabdus noenieputensis から結核菌にのみ活性を示す新しい抗生物質イヴィバクチンを発見することに成功しました。イヴィバクチンは結核菌のBacA トランスポーター (親水性分子の取り込みに関与) によって細胞内に取り込まれ, 細菌のDNA複製に必須の酵素であるDNAジャイレースの働きを阻害することで結核菌を死に至らしめることもわかりました。

 大腸菌 Escherichia coli などのグラム陰性細菌においては, イヴィバクチンは BacA トランスポーターのホモログ (SbmA トランスポーター) を介して細胞内に取り込まれる一方で, 薬剤排出ポンプ (AcrAB-TolCなど) の働きにより, 細胞外に汲み出されていることがわかりました。このことから, イヴィバクチンが "結果的に" 結核菌にのみ選択的な活性を示すことが明らかとなりました (図)。

 簡易的な動物実験から, イヴィバクチンがマウスの生体内でも活性を失うことなく病原菌の生育を阻止することもわかっており, 将来的な結核薬のリード化合物として大きな期待が持てます。

 本研究成果は,2022年8月23日0時(日本時間)に英国科学誌「Nature Chemical Biology」に掲載されました。
 詳しい研究内容については以下をご覧下さい。

書誌情報
Yu Imai (筆頭著者), Glenn Hauk, Jeffrey Quigley, Libang Liang, Sangkeun Son, Meghan Ghiglieri, Michael F. Gates, Madeleine Morrissette, Negar Shahsavari, Samantha Niles, Donna Baldisseri, Chandrashekhar Honrao, Xiaoyu Ma, Jason J. Guo, James Berger, Kim Lewis

Evybactin is a DNA gyrase inhibitor that selectively kills Mycobacterium tuberculosis
Nature Chemical Biology (2022)
DOI:10.1038/s41589-022-01102-7
URL:https://www.nature.com/articles/s41589-022-01102-7

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